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幸福のつかみ方  作者: TK
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 少し遅れて、高梨も教室へと戻ってくる。なんかちょっと顔が赤いような……気のせいか。


「鳴海さんのことを借りちゃってごめんね。話は終わったから、プラン立てましょう」


 高梨は軽く頭を下げ、行き先について、携帯で調べ始めた。

 彼女に続き、他の班員も携帯を触り始める。有村はゲームをしていたが、気づかないふりをしておいた。


 俺も携帯で調べてみると、場所自体はこの学校からそこまで遠くなく、車で一時間弱、といった具合だ。

 だが、俺たちの歳で車の免許は取ることはできない。だからといって、保護者に送迎されるのも申し訳ない。

 俺の場合はどのみち、父が仕事なので、交通機関を利用するしかない。


 俺はどこを周るかよりも先に、最寄駅と交通費を調べていた。学校側は出してくれず、もちろん自費である。

 かかる費用は往復でおよそ千五百円。それに食費やお土産代などが重なるので、五千円ほどあれば足りるだろうか。

 ふと、自分の財布を覗いてみたが、そこには千円札が三枚と小銭が少々しかなかった。父に借りるしかない。

 バイトを始めた方がいいのかもしれない、と脳裏を過る。

 俺が働くことができる時間帯は、平日ならば放課後の夕方から夜の間。休日はいつでも、といった感じだ。

 しかし、それでは平日に父に夕飯を作ることができなくなる。父にはバランスのいい食事をしてほしいので、父のお財布には申し訳ないが、バイトはせずにお小遣いをもらうことにした。


「あっ、先に交通調べるべきだったか。浮かれてた」


 俺の画面を覗いた萌希が、口に手を当てながら呟いた。俺はただ、金銭面が心配だっただけである。


「ん、ていうか、蓮ちゃんって私と同じ機関使えるよね? 同じマンションだし」


 顎先に手を当てて訊いてくる彼女に、顔だけを向け小さく頷く。

 すると「じゃあ私は調べなくていいやー」と学校が用意したパンフレットや自身の携帯の画面に目を戻した。他力本願め。


 他力本願といえば、有村も調べる気などさらさらないようだ。こんなやつが学校一位、ましてや満点なので全国でも一位なのが腹立つな。

 班員の独り言や会話を聞いていると、萌希と篠宮はほとんど料理店についての会話をしていた。高梨はきちんと調べているようで、メモ帳に箇条書きで色々と書き連ねている。


 俺も調べようと検索をかけてみたはいいものの、昔からこういう時には周りに合わせる習性があったので、どうしても自分では決めあぐねてしまう。

 ここ良いな、と思っても決して口には出さないので、他のメンバーの意見を通してしまう。俺はそういう人間だった。今もそうだ。


 つまり、この班には他力本願が二人と、食い意地を張っている者が二人と、真面目な人が一人、ということになる。


 このままで大丈夫だろうか……。


「……鳴海さん、どこか行きたいところはある?」


「えっ、うーん、えっと……」


 不意に話しかけられ、吃る俺。まだ碌に調べられていないのだ、当然である。

 調べたところで、ここに行きたい! となるかは不明だが。


「遊園地あるよ、世界規模の。どう?」


「……校外学習だろ、これ」


 萌希が篠宮との御食事論争を一時休戦し、手にしたパンフレットを指差しながら言った。

 校外学習はあくまでも学校の外に学びに行くことが目的であり、遊びに行くわけではない、はず……。

 俺は小学校中学校での校外学習を思い出し、修学旅行と何ら変わりがないことを思い出した。違いといえば、日帰りか宿泊するか、だ。


 いいのかもしれない、遊園地。

 俺はこう見えて、遊園地が大好きである。絶叫系にも好き好んで乗るくらいだ。

 ただし、お化け屋敷などのびっくり系、恐怖系にはめっぽう弱い。父によく女々しいと言われていた。


「校外学習って言っても、解散時刻まではみんな自由行動なんだから大丈夫だって! 高梨さんもそう思うでしょ?」


「え、あたし? あたしは……、な……みんなと居られるなら」


 何だこの女。もしかしてツンデレ属性持ちなのか?

 俺のことをいじめてきたのももしかして照れ隠しか、などと過ぎったが、さすがにあり得ないか、と流した。あのときは知り合ってすらいなかったし。


「よーし、じゃあ決定! ここ行こ!」


 というわけで、萌希が勝手に決めてしまった。

 有村は目を携帯に向けたまま、口で「オーケーオーケー」と返事した。篠宮も携帯から目を離さずに「了解」と答える。

 篠宮が何に熱中しているのか気になり、背伸びをしてみるが、全く見えない。背伸び程度では40センチ差を埋めることはできなかった。

 思い切ってその場でジャンプしてみると、画面は見えたものの、すぐに落下してしまい、何を見ているのかまではわからなかった。

 俺は懲りずに飛び跳ねる。それはもう、何度も。


「兎かお前は」


「……あっ」


 ふと見上げてみれば、眉尻を垂らした篠宮と目が合った。

 周りを見渡してみても、クスクスと笑われている気がする。俺が小さいから、バカにしているのだろう。今に見ていろ、俺だって成長期なはずだ。


「俺はただ、昼飯をどうするか考えていただけだ」


 そう言いながら、手にした携帯を俺の見える位置まで動かしてくれた。

 内容は、遊園地近辺の飲食店リスト。評価順に並んでいた。


「そこの遊園地はその日の閉園まで、再入場は無料らしいからな」


「へー、なるほど。入場いくらかかるんだ?」


「それについては気にしなくていいよ、私が全部受け持つから!」


 横からえっへん、と大きく胸を張る萌希。

 大丈夫なのだろうか、不安になる。俺たちはもう高校生だし、区分だってもう子供料金ではないのだから、それを五人分ともなると、相当かかると思うのだが。


「おいおい萌希サンよぉ、そこって一人七千円弱くらいするんだぞ。本当に大丈夫かぁ?」


 いきなり入ってきた有村が憎たらしく訊いてきた。

 一人七千円で計算すると、五人で三万五千円である。据え置きのゲーム機が買えるくらいの価格だ。


「だーいじょうぶだって! 言い出したのは私だし、安心して任せなさい!」


 そういえば、俺の服を買いに行ったときも萌希が全て負担してくれていたな。俺と同じマンションに住んでいるが、実は彼女の家は小金持ちなのだろうか。


「……おい高梨。お前さっきから様子が変だぞ」


「な、なななな、なぁに篠宮君、あたしは、普通よ!?」


 周りをよく確認していた篠宮から発せられた言葉で、皆の視線が高梨に向く。

 見れば、どうしたことか、彼女は地面に蹲っているではないか。

 明らかに動揺している。


「大丈夫か?」


「ななな鳴海さん、やめて、今は近づかないで! ごめん、本当にごめん!」


 彼女は俺の差し出した手を、蹲りながらも器用に払いのける。

 教室の床は汚いのに、そんなところに顔を擦り付ける勢いなのでとても心配だ。

 彼女を眺めていると、俺の肩に手が置かれる。


「そっとしておいてやれ」


「う、うん」


 有村に諭され、俺は高梨から離れた。

 すると高梨は顔を隠しながらもゆっくりと立ち上がり、廊下へと駆けていった。

 あれは本当に大丈夫なのか?

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