班決め
インフルエンザにかかりました。
理不尽な怒りを有村にぶつけたところで、授業が始まった。
「今日の午前中は、来週の校外学習の班決め、それから行動予定などを立てるのに使ってもらいます」
四月に早速の校外学習。
一グループにつき、メンバーは五人。俺は奇数人が嫌いである。
こういった、一緒に行動をする場合は偶数人のほうが何かと都合がいいことが多いのだ。例えば、偶数だと二人ずつに分かれ、一人だけ省かれる、ということも少なくなる。
学校の方針なので従いますけども。
クラスはピッタリ四十人ということで、綺麗に八グループに別れることになる。
「五人かぁ……私と蓮ちゃんと篠宮くんと……有村くんと、あと一人だね」
「俺は強制なのか」
「何、篠宮くん不満なの?」
「いや、嬉しいぞ。俺はこういう場で浮くタイプだからな」
心なしか、彼の口角がほんの少しだけ上がっている気がする。やはり意外と表情豊かなのかもしれない。
「俺のときなんでちょっと間があったんですかね」
「あと一人をどうするか、だね。このクラスで蓮ちゃんを受け入れてくれる人は……」
「聞けや!」
有村の扱いはこの通りである。
萌希が周りを見渡したところ、既に六グループのメンバーが決まっていた。
俺たちが四人なのだから当然だが、決まっていない人は六人いた。そこから一人がこちらのグループに入る必要がある。
見れば、女子六人である。このクラスの萌希以外の女子が固まっている感じだ。
その中に、俺をいじめて逃げ出したモップ女子の姿も。あいつ同じクラスだったのか、知らなかった。
彼女らは、俺たちのことを見ながらヒソヒソと話し合っていた。
……もういっそのこと、このままの班で決定するのは駄目なのだろうか。
「……蓮ちゃん、何なら私が先生説得してみるけど……どう?」
萌希が俺にだけ聞こえるように囁いた。女子たちの俺を見る目を知っている彼女が気を使ってくれたのだろう。
ちょうど俺もそう思っていたので、小さく頷いた。
すると彼女はにっこりと笑ったあと、細谷先生と話しに行った。
「先生、蓮ちゃ……鳴海さんは、恐らく、先生の知っての通りの状況です。私たちが四人班になることを許可して……」
「その必要はないわ」
萌希が頭を下げようとした瞬間、被せるように女子の声が教室に響いた。
「あたしがそっちのグループに入るから、何も問題はないわ」
そう高らかに宣言したのは、例のモップ女子であった。
というわけで、班メンバーが五人揃ったのだが。
なぜこいつがうちの班に来たのか、甚だ疑問である。
「一応自己紹介していこうか。私は萌希神奈子」
萌希に続いて、一人ずつ名前を言っていく。萌希、有村、篠宮の順で話していき、俺は自己紹介するか迷っている。
相手が相手なのだ。わざわざ俺をいじめようとしてきた人に自分を語るというのは、流石に抵抗がある。
「あたしは高梨。高梨瑠璃」
俺が躊躇っていると、モップ女子がその名前を告げた。
彼女も入学式の翌日に自己紹介をしていたはずなのだが、全く覚えていなかった。
「……鳴海蓮」
俺は短く、名前だけ呟き、無意識にスススと篠宮の後ろに隠れた。
「どうしたんだ鳴海、具合でも悪いのか」
「んぁ、ごめん。ぼーっとしてた。体調は万全」
その様子を、高梨は目を極限まで細くして睨みつけてきていた。どちらかというと、睨みつけるというよりは、品定めをするような。
「……はぁー、ごめんみんな、ちょっと鳴海さん借りる」
「え?」
一同が頷くよりも先に、俺は高梨に引っ張られて廊下に出た。
そのまま流れるように女子トイレへ連れ込まれる。教室から一番近い、俺がわざわざ避けているトイレである。
「……何」
今の俺は完全に無表情だったと思う。大賀を殴ったときと同じくらい冷たい声が出た。
「あんた、あたしが女子グループのトップ、ていうか、影響力があるのは知ってる?」
唐突にそんなことを言われ、少し考え込む。
言われてみれば、あの時も女子二人を従えていた、ような気がする。
俺は軽く首を縦に振った。
「つまり、あたしの意思で、あんたの女子のクラス内評価が変わるって言っても過言じゃないわけ」
何が言いたいのだろうか。
「あたしは彼に振られて、なんかもう吹っ切れたというか。彼には既に思い人がいるようだし」
急すぎる告白。俺は今、何を聞かされているんだ。
「だから! あんたが彼に相応しいか! あたしがこの目で確認するのよ!」
「……は?」
そうとしか言えなかった。意味がわからない。そもそも彼って誰だ。
「話はそれだけ。教室戻るわよ」
再び腕を引っ張られる。
俺の脳内は、今の出来事を必死に処理しようとグルグル廻る。情報量が乏しく、結局は分からず終いであった。
「……それと、この間は悪かったわ」
彼女は俺の方を向かずに、淡々と述べた。
あっさりしすぎて、本当に悪いと思っているのか疑問だ。
でも、口から直接謝罪ができるだけ良い方だろう。
「いいよ別に。気にしてない」
俺がそう言い放つと、そこで初めて、彼女の顔がこちらを向いた。その表情は、驚きそのもの。
俺が怪訝な顔をすると、彼女は焦りながら、いきなり俺のスカートを捲り上げた。
「え……うわっ!?」
咄嗟のことで、すぐには反応できなかったが、高梨の手を弾いてスカートを正した。
「きゅ、急に何すんだよお前!」
「あ、あたしはその、太ももの怪我が気になって……」
俺も赤くなっているが、彼女も赤くなっている。
そういえば、太ももにも怪我したっけ。土日には治っていたので、その跡はもう消えている。
「断ってからやれよ……許可するつもりはないけど……」
「……ごめんなさい」
しゅんとした高梨を見上げてから、俺は一人で教室へ戻った。
萌希から顔が赤くなっていることを指摘され、少し恥をかいた。
一方、廊下に残された女子生徒は、顔に手を当てて悶えていた。
「柄でもなくドキドキしちゃった……あたしが間違ってたのかなぁ……」
そんな呟きは、誰の耳にも届かず、虚空に消えた。




