★理不尽
総合300pt、ブクマ100人ありがとうございます!
ここまでいくとは予想外でした!
失礼な、俺はしっかり自衛しているぞ。
まさか、この体が非力すぎることを心配しているのか?
確かに力はないけど、心配されるほどのことではないと思うのだが。
「多分見当違いのこと想像してるね、その顔は」
「それはそうと、さっきの紙なんだったの?」
「紙? 何の話?」
萌希は満面の笑みでしらを切った。いやあなた、俺の目の前でバラバラにしてたじゃないの。足元に紙片落ちてるし。
俺はその紙片を拾ってみるものの、見事に散り散りである。書いてある文字など、到底解読できたものではない。
散らかっているままなのも悪いし、俺の下駄箱に入ってたし、俺が捨てておこう。
昇降口の掃除ロッカーから箒と塵取りを取り出し、床を掃き始める。こういう小さな紙が、結構面倒だったりする。床にくっついてなかなか取れないと、少し苛ついてもくる。
「律儀だね……蓮ちゃん……」
生理痛で気持ち悪いのも忘れて、掃除に熱中してしまった。
紙片とだけ格闘するつもりが、気づけば昇降口全体を掃除していた。
というか、昇降口の掃除係は一体どこのどいつなんだ。本当に掃除をしているのか疑うレベルで塵だらけだった。いくら毎日人がたくさん通るからって、毎日きちんと掃除をしているならば、ここまで汚くなるなんてことはありえない。
下校していく生徒たちの視線を集めていたことにも気づかず、俺は満足気に掃除用具を片付けた。
「ふぅー、すっきりしたぁ!」
「今まで見た中で一番明るい笑顔してるよ、蓮ちゃん」
外を見ると、夕陽が沈もうとしていた。
まずい、完全に時間を忘れて掃除を楽しんでしまった。
生徒数が多い本校は、その分昇降口も広い。職員玄関も繋がっているので、広さ的に言えば縦幅十メートル、横幅三十メートルほど。当然、家の掃除をするよりも時間がかかっていた。
「ごめん萌希。待たせた」
「いや、なんかすごい活き活きとした顔してたから見とれちゃってた……」
ふと辺りを見渡せば、数人の生徒たちが俺のことをぼーっと見つめていた。男子の割合が多い。
俺は今までずっと見られていたのか? この大人数に?
「……帰ろ」
急にこみ上げてきた恥ずかしさに俯きながら、萌希の袖を強引に引っ張った。当然のことながら、俺の筋力では萌希は動かなかった。
夢中になると周りが見えなくなってしまうのはどうにかしたい。
─────────
土曜は特に何事もなく家でダラダラと過ごし、日曜にはあの篠宮からゲームを買ったという報告が来た。バイトをしていない高校生からしたら結構高額だと思うのだが、よく買えたな。
そして月曜の朝。俺の下駄箱からは大量の紙が溢れてきた。
萌希は目にも止まらぬ早業で、全てを破り捨てていった。その後、紙片処理をしたのは当然俺である。
それにしても、何の紙なのかが本当に気になる。萌希に訊いても答えてくれないし、今度一人で下駄箱を確認してみよう。
もしかしたら、果たし状だったりして。
一限が始まる前に、俺以外のクラスメイトたちが細谷先生から紙を受け取って、ある者は喜び、ある者は崩れ落ちたりしていた。
紙をもらって戻ってきた萌希の手元を覗いてみると、そこにはレーダーチャートや印字された文章がズラリ。
学力テストらしい。
「蓮ちゃんが入院してる時、先々週の金曜日かな。基礎学力調査、みたいな感じのをみんなで受けたの」
「あー、俺が目覚める前日にそんなことが」
中学までの問題を集めた試験のようだ。ひとりひとり個別に、苦手分野の補修問題冊子まで作ってくれる、結構有名な会社のものだった。
「あー、俺も受けたかったなぁ。今の実力知りたかったし。勉強は好きじゃないけど……」
「でも蓮ちゃんだってこの学校に入れたんだから結構頭いいんじゃないの?」
「あー、まぁ、どうなんだろうね」
小学校は授業を聞いていなくてもテストで点数が取れた。
中学校は授業さえ聞いていればテストで点数が取れた。取れたと言っても平均より幾分か高いだけではあるが。
自称学力中の上の俺は、ぶっちゃけこの学校のカリキュラムに着いていけるか不安である。
「私数学だけなら学校で三位だったよ!」
「へぇ、学校順位とか出るんだ」
こういった企業が行うテストは、大体が全国順位だと思っていたが、そうでもないようだ。
萌希は珍しい理系女子だったのか。なぜか昔から、男子は理系、女子は文系という傾向にある。脳の仕組みが違うのだろうか。
俺は一応理系である。
「五教科合計470点だったー、もうちょっと頑張れたなー」
萌希は悔しそうに言っているが、充分高得点である。理系は理系でも、全体的に万遍なくできるけど、その中でも特に数学に秀でているのかもしれない。
ふと、篠宮と有村の点数が気になったので席を立ち歩く。
篠宮は躊躇うことなく結果を見せてきた。合計462点。普通に高い。何なんだこの超人は。本当に同じ人類なのか?
有村にも見せてもらおうとしたが、彼は頑なに結果を見せることを拒んだ。どういう意図かはわからないが、結果があまり芳しくなかったのだろうか。
「レンレン試験受けてねーからって人のだけ見てずりーぞ!」
「そんなこと言われても入院してたし……」
彼は背中に結果を隠すように持った。貧弱な俺ではとても奪取することができないので、諦めかけたその時。
彼の背後に一つの影。
「もーらいっ!」
「あっ、ちょっ、萌希!?」
彼女は素早く紙を奪い取ると、内容を見て目を丸くした。
なになに、気になる。
「え、有村くん、嘘でしょ……?」
「あぁもう、こうなるから知られたくなかったんだよ……はー……」
有村は顔面に手を当て、がっくりと肩を落としている。
俺は萌希の横に行き、紙を覗き込むために背伸びをする。かろうじて見えた。
そして俺は息を呑んだ。
「五教科合計500点、学校順位一位……」
俺はとんでもないやつと友達になってしまったようだ。
「いや、だって中学の内容だぞ? 授業聞いてたら全部わかるだろ? な、な?」
何をそんなに焦っているのか。もっと誇らしくすればいいのに。
普段はおちゃらけている有村が、まさかここまで秀才キャラだったとは、誰が想像できただろうか。
俺の中での有村の印象は、常に暇してる、暇を持て余した、ただの暇人だったのに、その像が崩れさっていく。
俺と同じくらいの学力だと、勝手に思っていた。なんかショックである。
「な、おい、レンレン、なんで泣いて……」
なんだと、この俺がそんなしょうもないことで泣いているだと。
自分の頬に手を当ててみると、確かに熱い液体が垂れてきていた。
俺は恥ずかしさと不甲斐なさとよくわからない怒りを含めて、思いっきり叫んだ。
「……この、裏切り者っ!」
2019/11/28 挿絵挿入




