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幸福のつかみ方  作者: TK
21/73

★三人目の仲間

最近誤字ってばかりです。

 案の定、授業には集中できなかった。

 昼休みにいつも通り屋上へ行くと、有村も着いてきた。これは初めての事象である。

 有村曰く、俺のことが心配でしょうがないらしい。なんだかんだで彼も優しいのである。


「なぁ、立入禁止って見えるんだけど」


「本来なら駄目だが、俺たちは許可をもらっている」


 焦る有村に、簡潔に説明する篠宮。

 俺も貰おうかな、と溢す有村を尻目に、俺達三人は迷い無く屋上への扉を開けた。

 有村は一度、階段を駆け下りて行った。早速許可をもらいに行ったのだろうか。行動が早い。


「ところで、蓮ちゃん。もしかしてなんだけどさ……」


 座ってから弁当を渡すと、萌希が俺に耳打ちしてくる。


「……初潮?」


「のわぁぁっ!」


 耳元で小声で囁かれた言葉に、過剰に反応してしまった。

 なぜ小声なんだ、と問いただしたくなったが、隣にいる篠宮を見て、そういうことか、と勝手に納得した。


「どうしたんだ?」


「女の子の話だよ。篠宮くんにはごめんだけど、ちょっと待ってね」


 篠宮は短くそうか、と呟き、弁当を食べ始めた。

 萌希は俺に向き直り、またしても小さな声で話してきた。


「当たりみたいだね。でも私に比べて症状軽そう。私なんて、最初は本当に動けなかったもん」


「そうなんだ……これで軽度なのか……」


 俺は世の女性に敬意を表する。個人差はあるものの、こんなものが毎月やってくるのだ。男とは楽な生き物だったんだ、と実感した。


 徐々に慣れてくるから安心して、と言われて内心ホッとした。いくら痛みに慣れていたって、これは内面的な気持ち悪さがあって嫌悪感が凄まじい。


「というか、朝どうしたの? そういう道具とか持ってなかったでしょ?」


「あぁ、父さんに買ってきてもらった」


 なるほど、と手を合わせる萌希。

 ふと篠宮のほうを見れば、あの特大弁当の半分を食べ終わった、というところだった。食べるの速すぎないだろうか。

 俺たちも食べよう、と弁当に手をかけると、屋上の扉が勢い良く開いた。


「許可もらってきた! 俺もそこで食う!」


 片手に弁当を持って、はつらつとした有村が現れた。

 元気だな、あいつ。


「うえぇー、篠宮のデカすぎだろ。それに比べてレンレンのは……」


「……なんだよ」


 胃袋のことは自分が一番良く知っている。

 別に少食なことにツッコまれても痛くも痒くもないが、有村の目から哀愁が漂っていたので少しムスッとした。


「足りんの、それ」


「うるさいな、胃が小さくなっちゃったんだよ」


「まぁ小柄だし華奢だもんなー。すぐ折れそう」


 白く細い俺の腕を手に取り、まじまじと眺める有村。

 確かに俺の腕は病的に細いが、生活はできているので大丈夫だ。


「有村く〜ん?」


「いだいいだいいだいいだい!」


 萌希が有村の腕を捻る。世に言う雑巾絞りである。

 あれめっちゃ痛いんだよな。力がなくても相当痛い。

 萌希は手の力を緩めることなく、ところで、と口にする。


「蓮ちゃんと有村くん、結構仲良さそうに見えるけど、何かあったの?」


「いい加減離せやオイ! めっちゃいてーんだって!」


「あー、俺とコイツはだな……実は結構長い付き合いであることが先日判明しまして」


「え、元から知り合いだったの?」


「いてーよオイオイオイオイ、聞いてんのか!?」


「昔から、お互いの顔とか名前は知らなかったけど、ネットで仲良かったんだ」


「たまたま同じ高校に来たってこと? すごい偶然だね」


 叫ぶ有村をガン無視しながら、萌希は感心した。


 喋りすぎて、全然弁当に箸をつけていなかった。

 昼休み自体はまだまだあるものの、さっさと食べてしまおう。このとき既に、篠宮は完食していた。

 そして驚いたのは、なんと有村は自炊系男子であった。

 料理歴自体は浅いらしく、俺の弁当を一口食ってからは『レンレン先生』などと呼ばれるようになった。今度教えてやるか。


 ─────────


 午後は体育があったが、俺は当然見学である。

 萌希から薦められ、女子側の見学をすることになったが、案の定、快くは思われていないようだ。

 まぁ中身が男だし。異性から体育などという激しい運動を見られるのは気持ち悪くもなるだろう。

 俺は体育館の隅で座りながら、ひたすら楽な姿勢を探していた。俺がこの場にいる意味を見出すことができず、終始、教室で本を読んでいたいと思っていた。



「蓮ちゃーん、私の渾身のスパイク見てくれた?」


「……すみません、それどころじゃなくて見てなかったです」


 終礼前に、更衣室から出てきた萌希に、声をかけられる。

 バレーをやっているなぁというのはわかっていたが、女子からは睨まれるわ、若干気持ち悪いわでバレー自体をほぼ見ていなかった。

 俺の返答を聞き、萌希はがっくりと項垂れたが、仕方ないね、とだけ呟いて教室へ戻った。


 いつになったらこのクラスでも平穏に過ごせるようになるのだろうか。俺からアクションを起こさなければ根本が解決しないような気もするので、下手したら永遠にこのままかもしれない。



 終礼も終え、萌希と共に昇降口へ行く。

 学年カラーの上履きを脱ぎ、自分の番号の下駄箱を開けると、中から紙がピラピラと落ちてきた。

 俺が反応するよりも早く、萌希はその紙を拾い上げ、中身を確認すると、即座にビリビリに破り捨てた。


「……萌希さん?」


「ん、なぁに蓮ちゃん」


 端から何もなかった、というような表情(えがお)で返してくる彼女に、恐怖を感じた。


 最近、萌希を恐ろしく感じることが多いのだが、これは気のせいではないはず。俺に対して、過保護すぎるというかなんというか。


「……そんなに俺のこと心配?」


 身長差で、必然的に上目遣いになってしまう。

 目を見開いた萌希は、挙動不審に周囲を確認した後、大きなため息を吐いた。


「当たり前でしょ。無防備すぎるんだもん」


「え、ムボービ?」


 首を傾げて聞き返す俺に、彼女はさらに深く息を吐いた。


挿絵(By みてみん)

安定しない絵柄

2019/11/27 挿絵挿入

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