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幸福のつかみ方  作者: TK
20/73

女の子の日

自分ではちゃんと打っているつもりでも変換が違ったり、意外と誤字っているものですね。

誤字報告感謝してます。ありがとうございます。

 翌朝、俺は五時半に目が覚めた。

 よくわからないが、体が気怠く、起きることが億劫に思えた。

 規則正しく生活していたはずだが、病気にはかかるんだなぁと思いながら、重い体を起こして立ち上がる。下腹部に少し、痛みが走ったが、この程度なら耐えられる。

 布団を直そうと振り抜くと、シーツの一部分が赤黒く染まっていた。


「……?」


 まだ寝起きであまり脳が覚醒していない俺は、それを問題視しなかった。

 そういえば、部屋に鍵かけて寝たっけ。そうか、大賀が隣の部屋にいるのか。


 鍵を開けてトイレに行って、その灯りでようやく気づく。

 俺の下着も真っ赤に染まっていたのだ。


 事の重大さに、慌てて下着を脱ぐ。

 俺に外傷があったわけではなく、赤い液体は秘部から垂れていたようだ。

 これが、中学の保健体育とかいう科目で目にはしていた、生理という現象か。

 それだけ、俺の体は完全に女になっているということだ。あまり想像はしたくないが、俺はもう子供を産めてしまうらしい。

 まったく、朝から穏やかじゃない一日だ。


 とりあえず用を足して、赤い下着を穿いて、トイレから出た。あまり穿きたくなかったが、パジャマまで汚れても困る。

 どうしようこれ。俺、生理用品とか買ってないぞ。

 いつかは来るかもしれないと思っていたけど、月経が始まるのが予想以上に早かった。

 家族に女性はいないので、ここは萌希に頼ろうか。

 だが今は五時半だ。彼女はまだ寝ている可能性が高い。わざわざ起こすのも申し訳ないので、この案は駄目だ。

 だからといって、俺が自分で買いに行くのもなかなか苦しい。


 詰みでは。


 少し騒いでしまったせいか、父が起きてきた。

 彼は落ち着きのない俺に気づき、声をかけてきた。


「何かあったのか?」


「父さん、お願いがあるんだけど、今からコンビニ行ってくれない?」


「今からか? 別にいいが……あぁ、なるほど」


 俺の部屋を覗いた父は勝手に納得してくれた。彼が聡明で助かった。

 彼はすぐに私服に着替え、外に出た。後で仕事もあるのに、パシらせてしまってごめんよ。


 父が帰ってくる前に、俺はシーツを外して洗濯する。できれば下着も一緒に洗いたいが、シーツの血が落ちなくなっても嫌なので、さっさと洗っておく。


 それにしても、体が重い。これが毎月来るというのだから、先のことを考えるほど鬱になりそうだ。


 最寄りのコンビニは家から徒歩二分程度の近場にあるので、父は割とすぐに帰ってきた。


「二十年ぶりくらいに買った気がするぞ、これ」


「え、父さんそういう趣味の人だったの?」


「違う違う。母さん、百合子の為に何度か俺が買ったんだ」


 父の説明で納得した。その時も、今の俺のように碌に動けない母のために父が動いたのだろう。


 父から袋を受け取ると、部屋を閉めて、早速着替える。

 ナプキンそのものを穿くだけでいいらしく、面倒な動作は何一つ必要がなかった。これは便利だ。

 俺はすっかり赤く模様の付いてしまった下着を手に、洗面所へ向かった。


 ─────────


「おはよー蓮ちゃん、なんか顔色悪いね、大丈夫?」


「おはよう。そんな具合悪そうに見えるかな……」


 早速萌希に心配されてしまう。理由は伏せておくが、バレたら潔く話そう。



 教室に着いても気怠さは消えず、俺は机に突っ伏した。


「お、おい()()()()、大丈夫か?」


「別に大丈夫……怠いだけ……」


 俺は有村からレンレンというあだ名で呼ばれるようになっていた。鳴海よりも蓮のほうが呼びやすいけど、短すぎて物足りないらしく、適当に連呼したらしっくりきたらしい。俺は呼ばれているのが自分だと分かればいいので何でもいい。

 鳴海もだいぶ言いやすいと思うけどなぁ。


 有村から背中をさすられ、少し楽になった気がする。

 だが、その手を萌希が勢い良く弾く。


「ウオッ! いてぇ!」


「セクハラだよ有村くん!」


 俺的には続けてもらっても良かったのだが、それは萌希が許さないらしい。

 萌希に言われてから、有村はハッとした。


「あぁ、レンレン女の子か……」


「何だお前……意識しちまうとか言ってたくせに……」


「バッ、お前! それ言うな!」


 萌希の目が更に鋭くなるのが見えた。彼女は俺の保護者か何かなのだろうか。

 そこへ篠宮が登場。彼も俺の背中をさすった。

 手が大きく、ゴツゴツしているものの、不思議な安心感がある。


「おぉーい! 何で俺は駄目なのに篠宮はいいんだァ!?」


 納得いかない、といった表情で叫ぶ有村。

 確かに、これでは彼が不憫すぎる。一応、この中では一番付き合いが長いはずなのに。


「有村、俺はお前の手でも気持ちよかったよ……ありがとな」


 顔だけを向け、フォローするように言ってやった。

 するとなぜか、有村が顔を赤くしてそっぽを向いた。


 え、俺なんか悪いことしたかな。


「こぉーら蓮ちゃん、有村くんは甘やかしたらきっと調子に乗るよ?」


「乗らねェよ! 俺をなんだと思ってんだよ! (けだもの)か!?」


「違うのか?」


「ちげェよ!」


 萌希にツッコむ有村を見て、微笑ましくて自然と笑顔になる。

 そして篠宮は天然なのだろうか、と思うくらいの素の疑問を浮かべた。それに対しても、有村は全力で返した。


 友達って、いいな。


 そんな俺たちの騒ぎを快く思っていない生徒もいるようだが、それは仕方ない。

 万人と仲良くできる自信など、俺にはない。

 俺を嫌いなのはどうでもいいのだが、手を出すことはやめてほしい。

 朝礼が始まるまでの間、俺は目を閉じた。

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