女の子の日
自分ではちゃんと打っているつもりでも変換が違ったり、意外と誤字っているものですね。
誤字報告感謝してます。ありがとうございます。
翌朝、俺は五時半に目が覚めた。
よくわからないが、体が気怠く、起きることが億劫に思えた。
規則正しく生活していたはずだが、病気にはかかるんだなぁと思いながら、重い体を起こして立ち上がる。下腹部に少し、痛みが走ったが、この程度なら耐えられる。
布団を直そうと振り抜くと、シーツの一部分が赤黒く染まっていた。
「……?」
まだ寝起きであまり脳が覚醒していない俺は、それを問題視しなかった。
そういえば、部屋に鍵かけて寝たっけ。そうか、大賀が隣の部屋にいるのか。
鍵を開けてトイレに行って、その灯りでようやく気づく。
俺の下着も真っ赤に染まっていたのだ。
事の重大さに、慌てて下着を脱ぐ。
俺に外傷があったわけではなく、赤い液体は秘部から垂れていたようだ。
これが、中学の保健体育とかいう科目で目にはしていた、生理という現象か。
それだけ、俺の体は完全に女になっているということだ。あまり想像はしたくないが、俺はもう子供を産めてしまうらしい。
まったく、朝から穏やかじゃない一日だ。
とりあえず用を足して、赤い下着を穿いて、トイレから出た。あまり穿きたくなかったが、パジャマまで汚れても困る。
どうしようこれ。俺、生理用品とか買ってないぞ。
いつかは来るかもしれないと思っていたけど、月経が始まるのが予想以上に早かった。
家族に女性はいないので、ここは萌希に頼ろうか。
だが今は五時半だ。彼女はまだ寝ている可能性が高い。わざわざ起こすのも申し訳ないので、この案は駄目だ。
だからといって、俺が自分で買いに行くのもなかなか苦しい。
詰みでは。
少し騒いでしまったせいか、父が起きてきた。
彼は落ち着きのない俺に気づき、声をかけてきた。
「何かあったのか?」
「父さん、お願いがあるんだけど、今からコンビニ行ってくれない?」
「今からか? 別にいいが……あぁ、なるほど」
俺の部屋を覗いた父は勝手に納得してくれた。彼が聡明で助かった。
彼はすぐに私服に着替え、外に出た。後で仕事もあるのに、パシらせてしまってごめんよ。
父が帰ってくる前に、俺はシーツを外して洗濯する。できれば下着も一緒に洗いたいが、シーツの血が落ちなくなっても嫌なので、さっさと洗っておく。
それにしても、体が重い。これが毎月来るというのだから、先のことを考えるほど鬱になりそうだ。
最寄りのコンビニは家から徒歩二分程度の近場にあるので、父は割とすぐに帰ってきた。
「二十年ぶりくらいに買った気がするぞ、これ」
「え、父さんそういう趣味の人だったの?」
「違う違う。母さん、百合子の為に何度か俺が買ったんだ」
父の説明で納得した。その時も、今の俺のように碌に動けない母のために父が動いたのだろう。
父から袋を受け取ると、部屋を閉めて、早速着替える。
ナプキンそのものを穿くだけでいいらしく、面倒な動作は何一つ必要がなかった。これは便利だ。
俺はすっかり赤く模様の付いてしまった下着を手に、洗面所へ向かった。
─────────
「おはよー蓮ちゃん、なんか顔色悪いね、大丈夫?」
「おはよう。そんな具合悪そうに見えるかな……」
早速萌希に心配されてしまう。理由は伏せておくが、バレたら潔く話そう。
教室に着いても気怠さは消えず、俺は机に突っ伏した。
「お、おいレンレン、大丈夫か?」
「別に大丈夫……怠いだけ……」
俺は有村からレンレンというあだ名で呼ばれるようになっていた。鳴海よりも蓮のほうが呼びやすいけど、短すぎて物足りないらしく、適当に連呼したらしっくりきたらしい。俺は呼ばれているのが自分だと分かればいいので何でもいい。
鳴海もだいぶ言いやすいと思うけどなぁ。
有村から背中をさすられ、少し楽になった気がする。
だが、その手を萌希が勢い良く弾く。
「ウオッ! いてぇ!」
「セクハラだよ有村くん!」
俺的には続けてもらっても良かったのだが、それは萌希が許さないらしい。
萌希に言われてから、有村はハッとした。
「あぁ、レンレン女の子か……」
「何だお前……意識しちまうとか言ってたくせに……」
「バッ、お前! それ言うな!」
萌希の目が更に鋭くなるのが見えた。彼女は俺の保護者か何かなのだろうか。
そこへ篠宮が登場。彼も俺の背中をさすった。
手が大きく、ゴツゴツしているものの、不思議な安心感がある。
「おぉーい! 何で俺は駄目なのに篠宮はいいんだァ!?」
納得いかない、といった表情で叫ぶ有村。
確かに、これでは彼が不憫すぎる。一応、この中では一番付き合いが長いはずなのに。
「有村、俺はお前の手でも気持ちよかったよ……ありがとな」
顔だけを向け、フォローするように言ってやった。
するとなぜか、有村が顔を赤くしてそっぽを向いた。
え、俺なんか悪いことしたかな。
「こぉーら蓮ちゃん、有村くんは甘やかしたらきっと調子に乗るよ?」
「乗らねェよ! 俺をなんだと思ってんだよ! 獣か!?」
「違うのか?」
「ちげェよ!」
萌希にツッコむ有村を見て、微笑ましくて自然と笑顔になる。
そして篠宮は天然なのだろうか、と思うくらいの素の疑問を浮かべた。それに対しても、有村は全力で返した。
友達って、いいな。
そんな俺たちの騒ぎを快く思っていない生徒もいるようだが、それは仕方ない。
万人と仲良くできる自信など、俺にはない。
俺を嫌いなのはどうでもいいのだが、手を出すことはやめてほしい。
朝礼が始まるまでの間、俺は目を閉じた。




