★護衛と遊ぶ
総合評価が200を超えていました。
自分勝手にやってますが、嬉しいです。ありがとうございます。
「ごめん時間かかった」
二人よりも遅れて屋上へ着く。服が水を吸っていると結構重くて、階段が辛かった。
「な、れ、蓮ちゃん!? どうしたのその格好! 篠宮くん、見ちゃダメ!」
俺の姿を見るなり、萌希が急いで俺のブレザーのボタンを留めていく。
いきなりどうしたというのか。濡れているものが圧迫されて、更に肌に吸着して気持ち悪いし冷たい。
「……苦しいんだけど」
「えぇー!? ブレザー小さくない!?」
ブレザーが小さいというかなんというか、我慢できなくなって俺はブレザーを脱いだ。
すると萌希はおもむろに自分のブレザーを脱ぎ、俺に着せた。俺にとってはオーバーサイズだ。
「何がしたいの」
「何って……蓮ちゃん……透けてるし……」
言われて初めて気づいた。
水でワイシャツが濡れ、下着が透けていたのだ。
これはさすがに恥ずかしい。女とか関係なく、男でもチャックが空いていたなどして下着が見えたら恥ずかしいだろう。
「えっ、気づいてなかったの!?」
徐々に赤くなる俺を見て驚愕する萌希。
顔を上げてみれば、ワイシャツ姿の萌希。スタイルが良い。
「……萌希も脱ぐな。大きいだろうが、俺のを貸すから」
目元を隠しながら篠宮が言った。
言われてみれば、彼は基本的にワイシャツ一枚だ。ネクタイもしていない。
そして俺は今、篠宮のブレザーを羽織っている。
大きすぎる。前はおろか、立つと膝くらいまで隠れている。
萌希にはブレザーを返した。俺のは一応干している。休み時間中に乾くだろうか……。
二人に感謝を述べながら、弁当を渡した。
弁当を食べながら、篠宮が訊いてくる。
「何があったんだ? 怪我もしているようだし」
「えっ、怪我!? 蓮ちゃん怪我したの!?」
萌希がぺたぺたと俺の脚を触る。
少し赤みがかった絆創膏を見て、悲哀の表情を浮かべた後、怒りの表情に変わる。
俺は弁当を食べながら、経緯を話した。
二人からかけられた言葉は九割が心配で、残りが相手は誰だったのか、だ。
相手は俺の知らない人だし、怪我も大して痛くない。
安心させるために、こういうことには慣れている、と言ってみたところ、余計に心配された。
「これではせっかくの鳴海の弁当が楽しめんな……」
「まったくだよ……蓮ちゃん、もう私から離れちゃダメだよ」
俺としては美味しく食べてもらいたいんだけど。
思い返してみても、俺があの女子たちに何か危害を加えたということはなかった。何が不満だったのか、強いていうなら、男が女子トイレ使うな、とか?
うーん、わからん。
先生に相談することを提案されたが、変に話が広まっても嫌なのでやめておく。
俺ももうそこまで子供じゃないし、自分で解決したいんだけどなぁ。
─────────
午後の授業に参加しようとしたら、俺の状態を見た先生に止められた。結果、早退させられることになった。
俺は今、なぜか篠宮と共に帰っている。
先生が言うには、護衛的な役割とか言っていたが、正直護衛なんていらないし、篠宮にも迷惑だと思う。
「なんかごめんな、巻き込んで」
「いや、構わない。俺はお前が心配だ」
クソ真面目な変人大男はしっかりと俺の目を見据えた。
割と仲良くなったとはいえ、話す話題がないと空気が気まずくなってしまう。
彼も早退扱いになっているらしく、どうせならうちで飯を食っていかないか、と誘う。
彼の目は瞬く間に輝き、肩を掴まれた。手が大きすぎる。
「是非」
「肩掴む必要あった?」
「あ、すまん……つい興奮してしまった」
どんだけ飯大好きなんだよ。
無事に俺は帰宅し、篠宮を家にあげた。
帰宅途中も俺は彼のブレザーを羽織っていたので、道行く人から変な目で見られていたと思う。なんか妙に恥ずかしい。
まだ昼過ぎなので、夕飯まではまだかなりの時間がある。それまでどうしようか。
とりあえず、俺は風呂に入ることにした。風邪を引いてしまうかもしれないし、体を温めたい。
そのことを篠宮に伝えて、部屋でくつろいでて、と告げる。彼はぎこちなく頷いた。
もう風呂にも慣れたもんだ。
今なら、女子が長風呂な理由もわかる。男の時なら五分程度で済ませることもあったが、今は平気で三十分程入ったりする。
自分の裸体を見ても、これは俺なんだ、と脳が処理できるようになった。
萌希からもらったシャンプーは良い香りがした。
「ふぅ、すっきりした。待たせたな」
「あ、あぁ、気にするな……」
風呂上がりに部屋に戻ると、篠宮の様子が変だった。
そわそわして落ち着かないようだ。
「何そんな緊張してんだ、って」
俺は彼の背中をぱんっ、と叩く。硬い。
「いや、こう、女子の部屋というのは初めてでな……」
「女子らしいものは何も置いてないと思うんだけど」
俺は男の頃から部屋のレイアウトを変えていない。
性別が変わったとて、俺自身の趣味が変わったわけでもないので、今のままが一番落ち着くのだ。
俺の発言に対し、何も言わない篠宮を見て、若干不安になった。
ーー俺はもしかして少女趣味だったのか?
そんな考えが脳裏を過ぎったが、萌希曰く、この部屋は味気ないらしいし、女の子の部屋といえば、彼女のような部屋のことを指しているはずだ。
俺は男、俺は男……。
「……大丈夫か?」
「うぉうっ!?」
不意に額に手を当てられ、変な声が出た。
俺の驚きように、彼も驚いて手を離す。
「大丈夫……そうだな」
「あ、うん。熱とかじゃなくて、考え事してた」
「お前でも考えることがあるんだな」
「おい、どういう意味だ」
考えることしかねぇよ。
夕飯まで何もすることがないのはつまらないし、俺は篠宮にゲームを教えることにした。
とりあえず、格闘ゲームをやらせる。
彼はこういったものをやらないらしく、明らかに初心者だった。ずっと剣道一筋で生きてきたんだろう。
彼に対し、俺の感覚で色々と教えこんでいった。
彼の成長はめざましく、夕飯の準備をするまでの短時間で、とてつもない強さになっていた。
素の、人間としての基礎能力を差を見せつけられた気がする。さすがに俺のほうが勝率は高いが、どう考えても有村より強い。
読みは鋭いし、精度も高い。反射神経だって人間の域を超えているように感じた。
「面白いな、これ」
「そ、そうか、それはよかった……」
俺の積み上げてきたものが、練習時間たったの五時間程度の初心者に打ち砕かれそうになり、心が折れかけた。




