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幸福のつかみ方  作者: TK
14/73

いじめられ

 画面を隔てての俺と有村の間に、数秒間の沈黙。


 先に口を開いたのは有村のだった。


「えっ、じゃあ俺今まで女子にボコられてたの? うわ興奮する」


「いや俺はちゃんと男で……キモいなお前」


 引かれると思っていたが、案外そうでもなかった。

 それは彼の性格によるものだと思うので、相手が有村で良かった。


「まさか一番よく遊んでいたやつがあんな美少女だったとは……俺、いつか刺し殺されるかもしれん」


「いやだから俺はちゃんと男だったんだって……はぁ」


 男の頃に通話もしていたし、知らないはずはない。ふざけて言っているのだろう。彼はそんなやつだ。

 謎の既視感の正体は、有村が仲の良かったネット友達だったからだと気づき、やっと合点がいった。


 今のうちにマイクの故障は嘘であることを謝っておいた。有村はぷりぷり怒っていたが、笑い声も混じっていたので、恐らく本気で怒ってはいない。


 先日有村が言っていた学校で驚いたこと、というのは、俺が女になっていたことだったらしい。

 もう少し情報量が多ければ、もっと早く気づいていたかもしれない。


「はぁー、なんか驚きすぎて涙出てきた。つーか、なんかお前だってわかったら余計に緊張してきた」


「え、なんで?」


「いやだって顔知ってるし、声も可愛いし、変に意識しちまう」


「……いつも通りにしてくれよ」


 たぶん、褒められているはずなのだが素直に喜ぶことができない。精神的には男だし、当然といえば当然だが。


 その後、普段通りに対戦をしたが、彼は終始あまり喋らなかった。いつもなら考えられないことだ。

 逆に俺がかなり喋った。


「ぐっ……今日も完敗……女子に……」


「女子関係ないだろうが、俺は俺だ」


 前よりも動きは良くなっているように思えたので、伸び代はまだまだある。彼には頑張ってもらいたいものだ。



 意外にもあっさり通話が終わり、俺は夕食の準備をした。

 準備もある程度終わった頃に、携帯の着信音が鳴る。

 送信者は篠宮であり、内容を確認する。


『俺にゲームを教えてくれ』


 ─────────


 翌日、俺は普通に登校した。昨日までと違うのは、俺たちの輪に有村がいることくらいだ。

 事情を知らない萌希と篠宮は多少困惑していたが、普通に接していた。

 有村は昨日は全然喋ってくれなかったのに、今日はとても流暢に喋っている。どうして。


「そういえば、篠宮も格ゲー始めたんだよな? 俺で良ければ色々と教えてやるぜ?」


 有村が篠宮に向けて言う。

 そういえば、誤解を解くのを忘れていた。篠宮ごめん。


「あー、悪い。また今度な……」


 有村の誘いから逃れるように俺を見つめる篠宮。昨日のメッセージはそういう意味か。


「ははーん、さては貴様、鳴海に惚れてるな?」


「あぁそうだ」


 茶化すように話す有村に対し、真面目に答える篠宮。


 ……え?


「マジ? 冗談のつもりだったんだけど……」


「冗談ではない。彼女の料理は格別だし、一概には言い表せない包容力がある」


 何を言っているんだこの大男は。

 料理、というか弁当を美味しいと言ってもらえるのは純粋に嬉しいが、包容力とは一体。

 まだ篠宮と関わり始めてから一週間も経っていない。


 俺の中で、彼は実は変人なのではないか、という疑問が浮かんだ。


「あー、篠宮くん。熱くなるのはいいけど、場所は考えたほうがいいよ」


 萌希が呆れたように言う。

 今は朝礼五分前なので、大体の人が揃っている。そんな中、篠宮のような存在感のある男がこんなことを言い放てば、それはもう目立つ。


 なんか俺も、女子からの睨みが一層キツくなったように感じる。俺が何をしたというんだ。


 悪ふざけのつもりだった有村も素直に謝り、俺たちは席に着いた。


 午前中、女子から執拗に見られ、授業に集中できなかった。萌希には度々申し訳ないが、ノートは貸してもらおう。


 昼休みになり、俺はいつも通りに屋上へ向かおうとしていた。

 俺は用を足すために、離れのトイレに来ている。ここには誰も来ないだろうと、先生方から教えてもらった場所だ。一応女子トイレである。

 萌希と篠宮は先に屋上へ向かった。


 一旦教室へ戻って、弁当を持って屋上へ行こうとしていたら、トイレの出口付近に女子たちが三人ほど群がっていた。

 こんな辺鄙な場所にあるトイレを利用しようだなんて、変な人もいたもんだ、と出ようとしたが、その女子たちに出口を塞がれる。


「……どいてくれません?」


 声をかけても反応しない。俺は瞬時に状況を悟った。

 あの鋭い目線はこういう意味を含んでいたのか。面倒だな。


 女子の一人が無言で俺を押す。非力な俺の体は呆気なく倒れる。トイレの床は少なからず清潔ではないのだから、帰ったら制服を洗わねばならない。

 今度はもう一人の女子が、俺にバケツ一杯の水を掛ける。普通に冷たい。

 最後に、三人目が俺を蹴る。あまり痛くはないが、俺の肌は簡単に傷ついた。

 人のことを蹴り慣れてないんだろうな、と思う。兄貴に比べれば可愛いもんだ。

 しかし、なんてベタないじめなんだ。

 こういうことには慣れているが、反撃しようにも体は動かない。まぁ、こういうのは反応しないのが相手に一番ダメージを与えられると思う。


 シャツが濡れて、肌にくっついて気持ち悪い。

 ただひたすらに黙っていると、蹴ってきた女子が声を荒げた。


「なんでなにも言わないのよッ!」


 俺が喋らないことが気に食わないのか、手にモップを持って戻ってきた。あれで殴られたら流石に痛そうだ。それに、トイレの床なんか比じゃないくらい不潔そうである。


「いや、こんな漫画みたいないじめられ方したら驚きで声が出なくて」


「……っ!」


 蹴ってきた女子はモップを落とし、全身を震わせながら去っていった。それに続くように、他の二人も消えていった。


「あーもう、制服ぐちゃぐちゃだしびしょびしょだし、災難だな、俺」


 体を拭いてから常備していた絆創膏で傷を塞ぐ。血も出ていたし、できれば消毒したかったが、仕方ない。

 それにしても、誰だったんだろう。クラスにいた人かもしれないが、生憎、顔は覚えていない。

 何か気に障るようなことをしてしまっていたなら謝りたいところだ。


 濡れたまま教室へ戻ると、それはそれは注目された。

 しかし俺はお構いなしに、弁当の入ったリュックを持って屋上へ向かった。

いじめにつよい(?)


2019/11/17 誤字修正

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