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幸福のつかみ方  作者: TK
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スモールワールド

 急に話しかけてきたなこいつ。

 でも、目には下心等は感じられない。純粋に話したい、という顔。


人気(ひとけ)のない場所に」


「ほーん、まぁそうだろうなぁ。大変だなぁお前」


 腕を組み、うんうん、と頷く有村。

 お前に何がわかるんだ、と言いかけたがやめておいた。ただの八つ当たりになってしまう。


 彼が何をしたいのか見当もつかないが、飄々とした態度は俺たちの空気を少しだけ和ませた。


「つーか、朝に篠宮に渡してたあのでっかい箱何? すげー気になるんだけど」


「え、あれは……」


 ちら、と篠宮を見ると、鬼のような形相をしていた。理由は不明だが、真相は隠しておいたほうが良さそうだ。

 顔めっちゃ怖い。


「えーと……げ、ゲーム?」


 苦し紛れに思いついたものを口に出した。かなり無理があるが、大きさだけで言えば悪くはない、はず。


「マジ? 篠宮ってゲームとかすんのか、意外だな」


「あ、あぁ、そうだ。最近格闘ゲームを教えてもらってな、鳴海から借りたというわけだ。……本体ごとな」


 付け加えるように小さな声で囁かれるゲーム機本体。弁当の大きさを考えて、ソフトだけでは無理がありすぎることに気がついたのだろう。

 一応、彼には俺の趣味として料理や読書、格闘ゲーム、とは伝えていたが、有村には教えていないし、逆効果だったかもしれない。

 篠宮の顔をよく見ると、冷や汗が伝っているのがわかった。こいつ思ってたより表情豊かだな。


「格ゲー? じゃあ鳴海も格ゲーやんの?」


 突然俺に向けられる矛先。

 俺は格闘ゲームは普通にやるし、普通に楽しんでいる。先日もネッ友とやったばかりである。


「まぁ……やるけど……」


「そうなのか! 俺もやるんだよ、昨日友達にフルボッコにされたけどな!」


「そ、そうなのか……」


 会話のペースを完全に握られている。

 俺は典型的な人見知りなので、あまり話さない人からこうも迫られると、何を言えばいいのかわからなくなる。


「お前の腕がどんなもんか知らないけど、なんか親近感湧いてきたわ! これからよろしくな、鳴海!」


「あ、うん……よろしく……?」


 差し出された手を、迷いながらも握る。


「お前手ェちっせぇなぁ! コントローラ持てんの?」


「うっさいなぁ、俺はアケコンだから問題ないの!」


「マジか! でも同時押しキツそう」


 リアルで趣味が合った人と会話するのは初めてだったが、楽しい。

 そんな俺を見て、萌希と篠宮は目を合わせて安堵しあった。


 ─────────


 午後も何事もなく座学を終え、帰路に就く。

 あの後、有村とは連絡先を交換し、今夜にでも対戦しようと誘われた。俺はどうせ家にいるので承諾はした。


「良かったね、友達増えて」


「……うん」


 有村とは初めて会った気がせず、何かが胸に引っかかるような感覚がして、萌希の言葉にそっけなく返してしまう。

 そういえば、篠宮についての誤解も解いておかねばならない。俺の勝手で、彼の印象が変わってしまったらちょっと申し訳ないからな。



 マンションに着いて、萌希と別れる。

 家に帰って、とりあえず手洗いうがい。それから洗濯物を取り込んだり、弁当箱を洗うなどといった、いつも通りの日常を過ごす。

 有村はとっくに帰っていたようで、メッセージで『いつやる?』と届いていた。

 俺は徒歩で三十分くらいで帰れるのだが、送信時刻を見ると、十分程度で帰宅しているように思えた。速すぎないだろうか。

 中学校までは大体の人が近くの市立に入学し、高校からは県立となり、遠くから来る人が増えると思っていたのだが、近い人はやっぱり近いようだ。


『今から夕飯まではできる』


 返信すると、即既読が付き、さらに返信が来る。


『おけ、通話とかできる?』


 ネッ友相手なら断っていたが、彼はリア友だし、今の俺を知っているので問題ないだろう。


『できる』


『よし、かけるわ!』


 こちらの通話の準備がまだだというのに、携帯に電話がかかってくる。普段はパソコンから通話をしているため、少し新鮮だ。


「おっす、とりあえずフレンドなっとこうぜ。送ったから」


 ふとメッセージに画面を戻すと、数列が送られてきていた。

 これはゲーム内でフレンドになるための各々に割り当てられたコードである。

 それを入力するため、ゲームを起動する。


「あれ……既にフレンド……?」


「え、マジ?」


 彼とは高校で初めて会ったし、リアルの人とこうしてゲームをするのは初めてなはずだが。


 不思議に思い、数少ないフレンド一覧から、フレンドコードが一致している人を探す。

 母数が少ないため、それはすぐに見つかった。

 その瞬間、俺は世界の狭さを感じた。


「嘘だろおい……」


「どうしたどうした。よくわかんねぇけど、フレンドなってるならいいや。部屋立てたぜ」


 彼はあまり細かいことを気にしない性格なのだろう。だが俺は違う。

 というかこれは細かくない。

 なぜならーー。


「やば、フレンド全員に部屋開放になってるせいで俺のネッ友入ってきたんだけど。あいつ暇だなぁ、蹴るか」


 彼の対戦ルームに誰かが入ってきて、それは彼のネット友達らしい。でも、そのネット友達こそが。



「それ、俺だよ」

区切りよくしようと思ったら文字数めっちゃ少なかったです。

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