親友が恋したvtuberが俺な件について
『はーい。おハロー! 今日も夢見チャンネルに来てくれてありがとだぜー!』
画面のなかの少女がキャピって感じでウィンク。銀髪の長い髪を揺らす。後頭部についた金のゼンマイが垣間見える。あざといくらいに青い双眸でじっと視聴者を見つめていた。
「な? な? かわいいだろ?」
小中高で一緒だったこの野郎がLIVE2dで動く最近話題のvtuberを見せつけてくる。自称ヴァーチャル古代兵器の夢見銀だ。おもにゲーム実況をしたり声真似をしている。つい一週間ぐらい前に俺がオススメした。
「……それでなんで人を呼び出したと思ったらその動画を見せてくるんだ? そもそもオススメしたの俺だろ」
何が悲しくて日曜日の真夏、真昼間の駐車場で日陰にも行かずにたむろしなきゃいけないのか。いや、それ以上に俺はいや~な予感がした。
「オレさ――――」
この野郎は何かを言おうとして言葉を詰まらせる。キモイくらいに顔を赤らめて視線を逸らす。その時点で予感はほぼ確信に至っていた。
「オレさ、夢見ちゃんにマジで惚れたわ」
「ぶほっ! ゲホッ! ゴホッ!」
予感的中。それでも思わず咽てしまった。笑うなよ、と本気の睥睨が向けられるけど無茶な話だ。……本当に。
「どうせ聞かずとも言うだろうけど、どこで好きになったんだ?」
「まず声だな。いままで聞いた女の子の声のなかで一番可愛い。口調が男っぽいのもいい」
この野郎は照れながら動画のシークバーを動かす。二次元の女の子が恥ずかしいぐらいに奇声をあげて椅子から倒れ落ちて、カメラからフェードアウトしていた。
「な? かわいいだろ。ホラーゲームが好きなのにお前みたいにめっちゃビビッてやんの」
「俺だって椅子から落ちたことはねえよ」
嘘をついた。椅子から落ちたことはある。にしてもお前みたい……か。あいにく少し違う。この野郎はまだ気づいてないみたいだが、夢見銀の中身は俺だ。声が可愛いだとかいろいろアホなことを言ってるけど、変声機だって使っちゃいない。
「他には何がいいんだ?」
気づいてないからさらに聞いてみた。まさか恋愛相談の相手が恋の相手とは思うまい。けどどうにーも、嫌な予感がまだ消えなかった。
「彼女が話すネタがさ。大体オレ達が知ってるってのもあるな。初めてパート1を見たときからビビッて来たんだよ。相性だな。……ってなんでお前が恥ずかしがるんだよ」
「お前が臭いこと言うからだろ。何が相性だよドヤ顔すんな」
したり顔を浮かべて相性がいいとか言われるなんて思わなかったんだ。
「それでお前をわざわざ呼んだのはな。……っと、この回を見てくれ」
そう言ってこの野郎は俺に昨日の俺の動画を見せつけてくる。我ながら可愛くあざとく動けていると思う。けど着目されたとこは別だった。
『うわっ、敵来た敵来た! うへぇ、死にたくねーッ!』
ババババと銃声が轟くなか、注意して聞き耳を立てるとかすかに響く石焼き芋の声。夕方五時に響く鐘の音。
「な? もう分かっただろ? 夢見ちゃんはこの近くに住んでる。偶然かって思うか? けどパート1からこの地域でしか分からねえネタ挟んでるときあるんだよ」
この野郎……リアルを特定して凸る気か? けど残念だが中身は目の前だぞ。惜しいところまで気づかれてたみたいだが。
「凸るのか? けど夢見ちゃんはパート1から……」
俺はパート1から好きな人がいるって明言している。全ての回の最初でちょこちょこっとそいつの良いところを口にしてやるのだ。だからこそ、この野郎も参っていたようだ。
急に弱気になると一歩二歩と距離を取って頭を抱えだした。
「なぁ、あれって。あー……いや、そ、そうだよ。そうなんだよ! そうなんだよなぁ。オレだったら死ぬほどよかったのに。なぁ、なんでオレにあんな動画を見せるんだよ」
「別に……大した理由はねえよ。それで結局用件はなんだよ。失恋の愚痴か?」
イライラする。やっぱり嫌な予感は当たってたじゃないか。俺が詰問してやるとこの野郎は深い溜息をついて俺の手を掴む。太い指。熱が籠っていた。それからこいつは一気に息を吸って叫んだ。
「好きだあああああああ! 夢見ちゃん! 俺と付き合ってくれええ!!」
やめろ。恥ずかしいことを叫ぶな。この野郎のキテレツ行動は目に余る。また職務質問されるのは御免だ。
「なんで叫ぶんだ!? ああ糞、俺は逃げるからな!」
慌ててこの野郎の手を振りほどいた。俺は顔を俯けてすぐにその場から逃げた。アスファルトを蹴り上げて真夏の地面に汗を散らして必死に逃げちまった。晴天のなか走り続けて、息が絶え絶えになったから立ち止まる。
「あー、くそ。なんであれだけヒントあげたのに気付いてくれないんだよ。……マジで男だと思われてるのかな」
俺は無い自分の胸に手を当てて、嘆息した。