表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/64

32.運命の再会と、女神からの宣告

 知らせが届いた時には、当然だけど、すでにママシュの残留勢力が間の大陸(ヴォイユ)に上陸していた。そこに待機していたママシュの配下やユリエールからの監視兼交渉役が接触して、ひとまず戦闘にはならず、ママシュに関する処置も受け入れられていた。


 彼らが到着したという事は、アンデッドの皇帝もいつ来てもおかしくないという事でもあって、私は気が急いていた。


「予定通り、聖女さん達と会見済ませて穏便に事が進みそうなら、一度戻ってくるから」

「この二週間ほどこちらに留まっていたのですから、そろそろ戻らないとお母様も心配されているかも知れませんしね」

「そうかも。でも、出来ればこちらに留まっていたいって希望は伝えてあったし」

「それでも、まだお別れを済ませた訳ではないのですし。イグニオ翁の修得された手段がうまく機能してくれれば行き来は楽になるでしょう」

「そうだね」


 そうしてママシュを連れた私とクェイナ、その他ユリエールの中枢人物達は、魔の大陸から渡ってきたママシュ配下で保護されていた聖女とその守護者である聖騎士、付き添いの近衛兵の巨人との混合種の双子さんと会見場で対面した。


 聖騎士さんは二十代後半くらいの女性。聖女さんはその十歳くらい下、つまり私と同年代くらいに見えた。そして、彼女を見た瞬間、私の心臓は激しく動悸し始めて、何がなんだかわからないけど目頭も熱くなってきてた。

「ユリ、どうしたのですか?」

 クェイナにそう問いかけられても、私は答えられなかった。こちらに駆け出そうとした聖騎士さんの襟首を捕まえ、真っ白な布地に金糸で模様を刺繍された装束に身を包んだ聖女様が近づいてくるにつれ、動悸は激しくなる一方で、目の端から涙までこぼれ始めていた。


「ユリ、いったいどうしたのです?」

「ありえない。ありえないんだけど、ユウちゃんに、そっくりなんだ・・・」

 それが彼女が目の前に来るまでに言えた精一杯の一言だった。背丈や姿格好や顔の造形まで全く同じで、髪が金色で瞳が水色というくらいの違いしかなかった。でもそれは驚いた理由にはなっても、なんで涙がこぼれているのかという理由にはなってなくて、私自身にも全くわかっていなかった。


 こちらに駆け出そうとして引き留められていた白銀の甲冑をまとった女性は、居住まいを正して、自らと脇にいる少女を紹介してくれた。

「私は、女神ミシュタリアを奉じる教団の聖騎士、ミケラ・ルティカと申します。そしてこちらが、女神の巫女にして聖女たるマーレ様です」


「初めまして。クェイナ様」

 クェイナに挨拶した聖女様の声は、信じられない事に、ユウちゃんにそっくりだった。でも、それだけでは理由がつかないくらいに私の感情は揺さぶられて、涙が止まらなくなっていた。

 クェイナはそんな私を気にしつつも、聖女マーレへと挨拶を返した。

「初めまして、聖女マーレ様。私はゴブリンの女帝にして、オークやオーガー、そして魔物とされる者達と共に在れる人間達との間に作られた国、ユリエールの主でもあります。

 あなた達を保護されていたオーク・オーバーロードのママシュと対峙した私達は、これを倒しました。もうお聞きになられているでしょうけれども、人の大陸の帝国からの軍勢が渡海してくるのを撃退するまでは、ママシュの身柄はこちらに預けて頂きます。そして聖女様はママシュの身柄がその配下の元へ戻された後も、その前からも、私達と共に留まって頂きます」


 ミケラと名乗った聖騎士さんは不服そうな表情を浮かべたけれども、マーレという聖女さんはにっこりと微笑んで応えた。

「私はそれで全く問題ありません。ただ、教団の一般信徒は人の間に落ち着きたいと申し出る者がいるかも知れませんので、それは許して頂けますか?」

「問題ありません」

「ありがとうございます。そして私の供回りとして、ミケラの随伴も許して頂けますか?」

「はい。もちろんです」

「あの、私は、ママシュ様がいずれ配下の元に戻される時には、一緒についていきたいのですが」

「あなたがそう望み、あなたの仕えているマーレ様がそれを許されているのなら、私から口出しする事は無いでしょう」

「ありがとう、ございますっ!」

 ミケラさんは今にもママシュのところに飛びつかんばかりだったけれど、またマーレさんに襟首掴まれて何とか思いとどまっていた。


 ふと、マーレさんは私に向き直ると、尋ねた。

「そして、あなたは?」

「わ、わたしは・・・」

 いつもなら、クェイナを愛し仕える戦士といったような事を迷い無く答えていたのに。言葉が続かない私を見かねたクェイナが代わりに答えた。

「ユリ・コグレは、私の最優の戦士にして、私の恋人です」

 マーレさんは、

「へぇ、そうなんですか」

 まるで挑発するようにくすりと微笑むと、私に歩み寄り、私の手を両手で包み込んで言った。

「お久しぶり。この世界では初めましてだね。ユリ、私の運命の恋人」

 何を言われたのか理解できずに混乱していると、聖女様は私を抱きしめて小声で囁いた。

「忘れてしまったのかしら?あなたが私を望んで、これで逢うのは99回目だというのに」


 時が止まった。とか、頭をぶん殴られたような衝撃を受けて真っ白になった、とか。どちらも当たっていたにせよ、私の両目からは滂沱と涙が溢れ出て、私は思い出していた。今まで見た事は無かったけど、まるで走馬燈の様に、過去の記憶が脳裏に蘇った。

 最初の数回は楽だったと言えるのだろう。今の私とユウちゃんの様に、近い位置で生まれ育ち、やがて彼女が愛すべき唯一の存在だと苦もなく思い出せたから。

 十回目から二十回目は、その距離や関係性がだいぶ薄れていったけど、それでも一目でも見たり視線を交わせば、やはりそれと知れた。こんな風に接触すれば、全てを思い出せた。

 三十回目から四十回目は、巡り会うまでにだいぶ苦労して時間もかかるようになったし、諸国を巡り歩く間に男女を問わずいろんな人とも巡り会い、そのうちのいくらかは私なんかを求めてくれたりもした。私は彼か彼女達の想いに応えようとはせずに旅を続け、やがて彼女を見出して、自分の想いを貫き続けた。それが一度として報いられる事は無かったとしても。

 折り返しを越えた五十から六十回目。単に巡り会うだけではわからなかったりとか、敵同士の関係性から始まるとか、彼女が自分にとって何よりも大切な存在なのだと思い出せるまでがとにかく大変になっていった。

 七十から八十回目。年代や国籍だけじゃなく、種族まで違うなんてのも珍しくなくなった。自分が何を繰り返しているのか。何のために、という一番大切な目的を忘れたまま一生を終わりかけた時すらあった。

 そして九十回目以降。まさに手がかり無し、偶然無し、チート的補助無しといった、縛りプレイが当たり前になって、今回99回目の直前までは、全てがぎりぎりだった。


 そんな走馬燈が巡り終えるまでの間に、私は地面に膝をついてて、そんな私をマーレが抱き支えてくれていた。

 彼女はくすりと笑うと、尋ねてきた。

「思い出した?」

 私は小さくうなずく事しか出来なかった。

「これはこれまでのあなたの献身と愛に応え報いるべき最後の生になる筈だった。あなたはそれを汚した。神への誓いを破ったの。ああ、楽しみよ。これから起こる全ての事が!」

 そして私はマーレに唇を重ねられて、気絶した。


 夢と現の間というよりは、気絶して意識が戻るまでの刹那の真っ暗な空間で、私は誰かの声を聞いた。


 あなたが望むところを為しなさい。心配は無用です。


 それは、たぶん、私の聞き覚えが無い筈の声だったけど、聞いた事があるような気もした。でも確かなのは、それがユウちゃんの声でも、あの夢と現の間で私が告白していた相手の女神の声では無いという事だった。


 それでも、私が意識を取り戻した時、私の顔をのぞき込んでいたのは、ユウちゃんだった。その先の天井の様子などから、私が元の世界に戻ってきている事を確かめた。

「おひさしぶり。どんな気分?」

 そんな意地悪な表情と言葉に、

「さいあく」

 としか応えようが無かった。

「どうして?」

 にやにやと笑うユウちゃんに少しむっとして、私は体を起こそうとしたけど、ユウちゃんに両肩を抑えつけられてしまった。

 これまでの体格差や力の差からは、ユウちゃんが全力を出しても絶対にありえなかった事態に、私は動揺した。

「もしかして、また?」

「そうだね。もうユリちゃんが学校に顔出しても、完全な別人としか受け止められないだろうね」

 私の体に覆い被さって体を重ねてきたユウちゃんにどぎまぎしながらも、何とか起き上がってベッドから離れて、姿見の鏡の前に立った私は、愕然とした。

 かつての筋肉全開!な風貌はすっかり失われて、少し筋肉質で逞しいというか凛々しいモデルさんといった風貌に変化していた。


 これじゃ、二割どころか五割くらいは弱まってそうだな・・・。


「なーにを心配してるのかな、ユリちゃんは?」

 鏡の前に立った私を、ユウちゃんが背後から抱きすくめて、お腹やそれ以外の部分を撫でるようにまさぐってきていた。

「筋肉もいい感じに落ちて、でも引き締まってて、うん、私の理想型かなぁ」

「な、止めて!」

 小さい頃からじゃれあう事はたまにあったけど、私がはっきりと筋肉をつけ始めてからはそんな事は無くなっていたし、今のユウちゃんは艶めかしくて、胸とか腿の内側とかに指を這わされて、うなじをつーっと舐められて、私は立っていられなくなって壁に手をついて体を支えた。


「ねぇ、ユリちゃん。私が欲しい?」

 背後から抱きすくめられ、体中を愛撫されながら、耳元で囁かれた。

「わ、私には、クェイナが、いるっ、から!」

「強情ねぇ。あなたから、奪ってしまってもいいのだけど。良い罰になるでしょうし」

「奪うって、クェイナを?どうやって?」

「あなたは知るのよ、ユリ。あなたが、誰を裏切ったのかを。その罰が、どういったものになるのかを。恐れおののき、悔い改めなさい。そして、私だけを、愛しなさい」

 ユウちゃんの片手に顎をつままれ振り向かされ、唇を奪われ舌を絡められ、もう片方の手に触れてはいけない場所に触れられて、止める前に私はまた気を失った。気を取り戻した時には、また別の場所で目を覚ました。

「ここは・・・?」

「クェイナ様の城の、私に与えられた一室ですよ、ユリ」

 ついさっきまで聞いていたユウちゃんと同じ声のマーレが、寝台に横たわった私の手を取りながら、私を慈しむように前髪を指先でさらいながら、教えてくれた。


 ある意味で、醒めない悪夢だった。どちらの世界に移っても、待ちかまえられているのだから。


 寝台の脇にはクェイナもいたけど、強張った表情で私達の事を見守っていた。

 マーレは、気を取り戻しても動けないでいる私を横目に、クェイナに言った。

「多少の行き違いがあったようですけれど、ユリは、私の運命の人です。あなたには、渡しません。そしてあなたにも、ユリにも、拒否する権利はありません。私が与えませんから」


「あなたにそんな権利を与えて頂く必要があるのですか?」

 クェイナが気丈に言い返したけど、マーレは余裕の表情を崩さなかった。

「では、そんなあなたに問いましょう。あなたにとって、ゴブリンという種族と、ユリという存在と、どちらが大切なのかを」

「それは・・・」

 クェイナは即答出来なかった。痛いところを突かれたというような苦しげな表情を浮かべ、私が聞きたかったような言葉を口にしてはくれなかった。

 短剣で抉られたような痛みを胸に感じた私を慰めるように、マーレが私の手を強く握りしめてくれた。



ここからが本番の始まりです。おぼろげなビジョンはあるものの、具体的な展開は行き当たりばったりでキャラ任せ運任せになっていきそうな。皆様のご支援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ