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1.初めての転移

とりあえず最初の10個くらいまで書けたので投稿し始めてみます。(2019/4/4)

 小暮百合。名は体を示すとは誰が言った言葉だったか。こぐれはまだいい。ゆりも女の子らしいと言えばそうだろう。


 たぶん、小説のヒロインでこんな名前の人物が出てくれば、身長150cmくらいの可愛らしい女の子を想像する読者は少なくないだろう。


 しかし、だ。身長187cm、体重100kgを超える自分が、新学年初日に名前を含めて自己紹介することは無い。察してくれ。後日、あれで百合は無えよと陰口を叩かれるのは不可避でも、たった一日か数時間でも、クラス全体を覆うコレジャナイ感を味わわなくて済むのであれば、私はそちらを選ぶ。


 女?と首を傾げられるのは日常。ひどいと、女性専用車両で複数の女性から引きずりおろされそうになることもしばしば体験する。自衛手段はあるものの、露骨すぎて口にはしたくない。


 幼い頃から同年代男子の体格を凌駕していたので、男性に憧れることは無かった。一度たりとも。自分の特殊な家庭事情も生い立ちも絡んではいるだろう。ただ一人の大親友以外に説明したことは無いが。


 女子とは普通に仲良くなれる。ただ、コイバナというものに加えられることは無く、それが悪意ではなく善意によるのは救いだ。自分としても、まさか意中の人とか言われるのを想像してない相手に心情を炸裂させ、その後の学校生活を破綻させたくなかったので。


 そう。自分は世間一般には同性愛者と呼ばれる存在かも知れない。カミングアウトはしていない。ただ一人を除いて。


 その相手こそが、大親友、大城祐子(おおしろ ゆうこ)。名前としてはむしろ私にこそ当てはまるような、そして私の名前のイメージがそのまま当てはまるような、小さくて可愛らしくて細くて、抱きしめたら折れてしまいそうな、女の子らしい女の子。


 小学生からの幼なじみで、こんな女の子になりたかったなという憧憬が、中学生に上がった頃には別の何かではないかと気が付き、高校も無理に彼女の志望校に合わせて受験し、何とか合格したが、中学の卒業式を終え、帰宅途中に寄ったファミレスで言われた。


「ユリちゃん、私のこと、好きでしょ?」

 唐突すぎて、頭の中が真っ白になった。というか何も考えられないまま、

「ユウちゃん、何を言ってるの?」

 と応えるのが精一杯だった。

「違うのなら、それはそれで構わないけど、私は誰も好きにならないの。そういう意味ではね」

「わ、私が女だから、ではなく?」

「違う。男とか女とか関係無いの。ただ、そういう人たちがいて、私もその一人ってだけ」

 この話はそれでおしまい。という風に彼女がメニューを開いて注文を選び始めて、私の初恋は終わった。彼女の言っていたそういう人たちのことを正確に指す言葉はむずかしい横文字で覚えていない。


 でも、自分も、ほぼ、あきらめていたから、変わらないのではないのか?そんな風にも考えてもみたが、やはり、好きになった誰かとそういう風になれたらいいなと思わないではなかった。そういう風の具体的な中身については自分の外見その他を省みると踏み込んで想像する余地は無かった。


 高校生活は楽しかった。一年目も二年目も大親友と同じクラスだったのもあった。自分に関しては、性別は除外された存在として扱われた。運動部からの勧誘はいつでも激しかったが、あまりにも熱心に誘ってくる柔道部の熱意に負けて体験入部した時は、もしかしたら自分と同じ性的指向の先輩との乱取りの際の彼女の息の荒げ方とか体をまさぐる手つきとかに怖気を催し、腕の間接を決めたままリストロックスローで場外まで投げ飛ばし、柔道着のまま制服を抱えて逃亡した。


 その後のストーキングは担任や学年主任などにかけあって封じてもらった。バレンタインは恐怖だったので思い出したくない。物好きな男子から逆チョコをもらったが冷やかしだろうと無視した。


 そんな、自分の外見や体格や体力やもろもろなんかを除けば、ある意味平凡な日々は、ある日唐突に終わりを、というか変化を迎えた。


 いつものユウちゃんとの登校の朝。駅のホーム。階段があって狭いスペースが、並んでる人たちでさらに狭くなってて、どうしてもホーム端を歩かなくちゃいけない、そんな状況で、電車もホームに入ってきていた。


 ユウちゃんの後ろを歩いてた私は、横合いから、押された。というか、自分の体格体重を考えれば、いくら不意を突かれても単にぶつかったくらいで揺らぐことすらない。その私がホームに落とされるくらいだから、成人男性か誰かが全力で突き飛ばしてきたのだろうけど、線路に落ちた自分には何が起こったのかわからなくて、ホーム上ではなく、自分のすぐ後ろに迫っていた電車で視界は埋まって。


ドン。


 そんな衝撃があって。あ、死んだかなこれは。そう思って、とっさに閉じてた瞳を開けてみたら。線路も電車もホームもユウちゃんも、さっきまで近くにいた筈の何かも誰かも跡形も無くて。天国とか地獄とか、神様とか悪魔とかそんなのもいなくて。ぐるりと見渡してみると、西欧風の街?村?中途半端な規模の人家が寄り集まった見知らぬどこかで、日本のサラリーマンたちが仮装してるとは思えない男たちが剣とかを手にして、あ、なんか街の人Aみたいな誰かを刺し殺して財布とか奪ったり、別の離れたとこでは女の人に馬乗りになって、あーいうの暴行してるっていうんだっけ。うわ、あれ、誰か止めないのかよ。


 展開に頭が追いつかないうちに、もっと激しい物音がしてるあたりでは、人間にはありえない緑の肌をした、えーとあれ、ゲームとかでゴブリンとかとして出てくる連中だっけ?そいつらも集団で、盗賊に見える連中と同じようなことをあちこちでしてて、しかも街の中央部分では互いにぶつかって殺し合いをしてて、私はそのすぐ脇に突如出現してきたらしい。


 え、これ何?ここはどこ?帰れるの?ゴブリンたちも盗賊たちも私に気づいて注目した。そして、その真ん中にいた若い女性。とてもきれいだけど服はびりびりに破られててあちこち見えてはいけない物が見えそうになってる危うい状況にある人が、私に駆け寄ってきて言った。


「あの、どこの誰かかはわかりませんが、助けて!」


 全く状況がわからない自分だったけど、何ができるかもわからなけれど、これだけは言えた。


「やってみる」


 こうして私の、異世界かどこかでの日々は幕を開けたのだった。



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