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プロローグ

 

 直径200キロメートルの小惑星が、ゆっくりと地球に近づいていた。


 この大きさは、ほうき星として有名なハレー彗星の約20倍となる大きさである。


 ハレー彗星とは、公転周期が約76年で楕円形軌道を描いて太陽を回っている小天体のこと。

 このハレー彗星は、地球と同じ太陽を回る星たちの仲間だ。そして、人が、一生に一度見られるかどうかといった星なのである。


 彗星の最大の特徴は、何と言っても肉眼でも観測できるという彗星の長い尾であろう。

 有史以来、幾度となく人類の目に触れ、その名を歴史に留めてきた。


 壁画に、タペストリーに、貨幣に、そして書に、人類の活動とともに、その存在を記されてきた。

 人の営みとは全くの無関係で定期的に現れる彗星ではあるが、人にとってのそれは、慶事であり凶事だったのである。


 たなびく彗星の尾は、太陽熱によって溶かされた塵やガスが太陽光を反射して観測できるもの。その長さは、地球と月の距離の数百倍にもなる。

 それは、太陽と地球と彗星の位置が織り成す、一大天体ショーであることは間違いない。


 中でも承和じょうわ四年(847年)に現れたハレー彗星は、桁外れの大彗星となった。

 その尾の長さは天空の60度にも渡ったと記録に残る。


 空を見上げて欲しい。


 天空の60度と言えば、空の三分の一を占める空間なのである。


 夜空を二つに分かつように尾をひく彗星を見た人たちは、何を思ったのであろうか。

 無関心では、いられなかったであろうことは想像に難しくない。

 日本では、彗星が現れた承和四年で元号が終わり、翌年から嘉祥かしょうに改元されているのである。



 尾をひく彗星であれば、必ず空を賑わせるかと言えば、そうでもない。


 観測者のいる地球や太陽や彗星の位置によっては、暗い星が増えただけ、流れる尾など肉眼では見えないなどということも珍しくはない。


 人知れず地球の軌道と交わり、太陽を回り、そして、去って行く。そんな彗星も数多く存在する。


 彗星よりも遥かに大きい直径200キロメートルもある小惑星もそのような軌道で地球に迫っていたのである。


 その小惑星は、どこからやって来たのか?


 火星と木星の間に広がる小惑星帯、アステロイドベルトからであった。

 小惑星帯には直径100キロメートルを超える天体が、およそ200個程度存在すると言われている。そのうちの一つが、地球への軌道に変えられた。


 誰かの意図で地球へと進んでいたのだ。


 もし仮に、迫りくる小惑星が地球へと激突したらどうなるのだろうか。


 今から6500万年前に地球に落ちたという小惑星は、繁栄していた恐竜という種族をほぼ絶滅に追いやった。わずかに、小型化した爬虫類や鳥類として生き残ったに過ぎない。


 小惑星の衝突で全ての恐竜が打ち倒された訳ではない。

 衝突による火災煙や粉塵が原因で寒冷化が始まった環境に、大型化していた恐竜たちが適応できなかったのが主因と考えられる。

 寒冷期を生き延びた物たちは、寒冷期が終わると同時に大きく進化して繁栄している。


 このように小惑星の衝突とは、直接的な災害と間接的な災害とを招く。


 この大災害をもたらした小惑星の大きさは、直径11キロメートルと想像されている。おりしも、ハレー彗星とほぼ同じ大きさである。


 さて、それでは、直径200キロメートルもの小惑星ではどうなるのだろうか。


 この巨大な小惑星が、地球と衝突したら地球はどうような結果になるのかという話である。



 地球の直径は、約12700キロメートル。小惑星のおおよそ63倍である。


 それは、127センチメートルの大玉に、2センチメートル、一円硬貨大の小玉を投げつけるのを想像するとよい。


 その時、大玉の表面を覆う海の水深は、平均で0.4ミリである。

 大玉の表面が濡れている程度では、小玉がぶつかるのを和らげる緩衝材にはならない。

 さらに、硬い岩盤である地殻も大陸部で平均4ミリ程度、海洋部では0.6ミリしかないのである。


 小玉は、地球の七割を占める海洋部に落ちたとしよう。


 2センチメートルもある小玉は、易々と大玉の鎧とも言うべき海と地殻の合わせて1ミリの壁を突破することになる。


 地球に激突した小惑星は、地殻を破壊しマントル帯に到達、そして、その衝撃により小惑星は融解する。


 マントルの熱、衝突のエネルギー、それらの高熱の原因が全て合わさり、一万度近くにも達する超高温物質が誕生する。


 その超高温物質は、誕生地で高度百キロの高さに達すると、そこから四方八方に拡がっていく。

 地表を焼き、地表を溶かし、地形さえ変えて地表に存在した物を全て消し去る。


 地球の半分を覆うのに12時間。時速1500キロメートルという速さで地球を飲み込むのである。


 地球を覆うまでにかかる時間は、たったの24時間。

 小惑星の衝突から24時間で、地球の表面から動植物の痕跡が、始めから存在していなかったかのように消える。


 音速を超えた衝撃、荒れ狂う灼熱の炎からは何者も逃れることはできない。

 例え、それをしのげたとしても、地球の全ての酸素は燃やし尽くされているのである。


 地球を覆った高温物質は、数千度に冷える。しかし、それはまだ、海を沸騰させることができる熱量だ。


 北極と南極の氷が溶ける。それは、海面を上昇させる暇もなく水蒸気となって消えていく。


 海は煮え、徐々に海面は下がる。見たこともない海底が現れ始める。そして、海に住む生き物たちを絶滅に至らしめるのである。深海の奥底に潜んでも逃れることなどできない。


 海から沸き上がった水蒸気は、地球に暴走温室効果をもたらすだろう。金星の灼熱地獄のように、それは、数百年、数千年、いやもっともっと途方もなく長い時間に渡るのである。


 しかし、原初の地球がそうだったように、数億年の歳月が屍色の地球を、生命輝く青い地球にしてくれる。


 再び、地球の海と陸には、植物が生い茂り、動物が闊歩する世界がやって来るに違いない。


 もとの世界とは全く違った世界が拡がる可能性がある。



 今、地球の陰となる軌道に潜んで、そのような大災害を起こしかねない巨大な小惑星が地球に迫っていた。


 いつも、天空を見上げ、星を観察している者であれば小惑星に気がついたかも知れない。しかし、世界にそのような者は多くない。

 そして、気がついたとしても、どうすることもできない。自分の信じるものに、小惑星と地球の軌道が交わらないことを祈る他は。




 天空を見上げている者がいた。


 時より何か、囁くように唇が動く。

 誰にも聞き取れることのない、小さな声である。


 これを、企んだ者だろうか?


 このまま、地球と小惑星が衝突しては、自分も大災害に巻き込まれてしまうのは必至であるのに。


次回、続きと新たな始まり


ちなみに、次にハレー彗星が地球で観測できるのは、2061年夏と予想されています。

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