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【長編ダークファンタジー・完結済み】煙だけを食べる  作者: 佐藤さくや
第四章 片鱗 第一部 終章
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三九 駒


 三九

 


「おい、本当にこっちであってるんだろうな」


「移動系統の能力を手に入れてから、グレイの方向感覚は大分、成長した。しかし氷生がいるのかどうかは、わからない」


「じゃあ、お前はどこに向かってるんだ?」


「外倉の国の、雰囲気が危ない感じの方向だ」


 瀬木根は、まだ青い空間の中にいた。


 ただ、異質な感じは明らかだった。確かに晴れてはいるが、空が淀んでいる気がするのだ。


 氷生の、竜が起きる。もしくは、あの海牛が暴れる。それらが心配だった。いや、結果として氷生を守ってくれるならそれでいいが、下手なことをして、敵意を持たれるのも危険だ。


 町谷から、話は聞いている。殺すのが目的でないのは、わかった。


 氷生におかしなことはさせない。


 世界の中へ、降りる。空が瀬木根を包んだ。


 頭の中で、大まかな方向を瀬木根は描いた。前に宮内と一緒にきた場所とは、離れている。


 貧しい街。そんな印象を受けた。


 外倉の国で、天子たちの街は、どこもそんなようだと聞いていた。まさに、聞いた通りだ。なにかが、腐ったような匂いがする。


 瀬木根は、扉を出した。


 直感で、かなりの距離を移動するだろうと思った。グレイと一体化し、扉をくぐる。


 急に高低差が生まれた。


 コンクリート?


 ビルだった。


 深い部分の情報は、まったくない。


 ここが、外倉のいる世界なのか。




「この子で、いいんでしょ」


 気を失っている氷生を、指差して羽村は言う。


 ビルの中の一室。


 部屋には生田もいた。


「そう、そう。こいつだ。こいつは、外倉が前から欲しがってた死神だ」


「外倉の能力を、使わせてもらえるんでしょ?」


「外倉が帰り次第、僕から頼んでみるよ」


 羽村の前には、確かに自分が殺したはずの神、生田がいる。


 羽村たちがいるのは、生田が能力で作り出した空間だ。移動系統と、創造系統の中間のような能力だ。


 瀬木根たちが行っていたことを、まさか自分がやるとは、思っていなかった。


 羽村の体は、本当に、完全な実体としてそこに存在した。だが、死んでも、このビルの部屋に戻ってくる。


「お、目を覚ますぞ。外倉がくるまでてきとうに相手をしてやれよ。外に出るから、連れてこい」


 生田は入口の扉に背をつける。


 氷生が、体を起こした。


「こんにちは」


 羽村は身を屈めて膝をついて、そう言った。





 五稜は、本当にどうしたらいいのかよくわからなかった。


 青い空間に漂って、外倉がいたはずの場所をぼんやりとみていた。


 外倉は、今回のことを本当にしらないのか。


 外倉は、沙灘のことを、本当に殺したのか。


「誰だ、てめえ」


 誰かが、そんなことを言った。五稜はその声の方をみる。


 裏切られたという気持ちは強い。


「おい」


 そう言った死神が、五稜だということに気がついて、目を大きくした。


「お前」


「は、はい」


 急に男は背を伸ばし、指先までまっすぐになった。


「外倉たちの住んでいる場所は、あっちか」


 五稜は指をさす。


「そうです」


 男は声を張って、答えた。


「じゃあ、お前はこっちにいけ。誰にも、俺に出会ったことを言わず、しばらく戻ってこない方がいいぞ、危ないからな」


「わかりました」


 男はそういうと、手をばたつかせながら、五稜の示した方へ飛んでいった。それをみてから、五稜はその男に姿を変えた。


 正しいことをしよう。


 五稜はそう思った。


 かろうじて、自分がいま、なにをしなければならないのかは理解できた。本能だと思った。もう、自分に染みついている。揺るがないんじゃない。もう、そういうものだと思ってしまうのだ。


 外倉は能力で、沙灘の能力を奪った。


 だが、五稜は違う。亡骸を相棒に喰わせて、受け継いだ。


 生田の時間を、外倉は巻き戻した。生田自身も、なにかの能力で完全に死んではいなかった。そうでなければ、沙灘の能力でも生田が元に戻ることはできない。


 五稜は、青い空間を進んだ。




「お姉ちゃんたち、誰?」


 氷生は不安そうな顔で、そう言った。


「瀬木根さんの、友達だよ」


「なんで私、ここにいるの。瀬木根さんは? 町谷さんは?」


「ここにはいないの。でももう少ししたら、迎えにくるからね」


 羽村は、そう言ってから、自分の言ったことは嘘でないと思った。

 必ず、瀬木根はくる。


 それも覚悟はしていた。いまさらだ。後悔なんてない。だって春木さんを殺したのは、あいつだ。


「なんで、私はここにいるの?」


「移動系統の能力で、ここにきたんだよ」


 羽村は笑った。笑うことができた。


 恨んでない。


 なんて、言えない。我慢しただけだ。


 私だけが。


「なんで、なにかあったの? 瀬木根さんは、無事なの?」


「無事だよ。いこう、氷生ちゃん」


 羽村は手を伸ばした。


 氷生は見上げながら、ゆっくりとその手をつかんだ。


 羽村は、いこう、と言った。


 入口に立っていた生田が、無言で頷く。


 生田の能力で作った場所の外に出る。


 灰色の平屋が多い。変わった街並みだった。その平屋の入口から、羽村たちは出た。扉を出す。


 この変わった街の奥に、外倉はいつもいる。誰も住んでいない平屋が、何百と続く、この街の奥だ。


 吐くほど、外倉には犯された。だが途中から、どうでもよくなった。そんなに自分を犯したかったのか、と羽村は思った。


 外倉は自分自身を壊したがっていた。それが、わかった。ある意味、かわいそうな男だとも思った。こんなことでは自分の欲求は満たせない。それをわかっていても、他にどうしたらいいのかわからない。外倉はそういう男だった。


 抵抗しなかったのは、殺されたくなかったからだ。外倉はただの哀れな男だ。だからといって、同情はしなかった。自分はまだ耐えているからだ。



 宮内の国の領域で、羽村は外倉の国の死神たちに捕まった。


 散々な目にあったあと、羽村の目の前に、ふらっと生田が現れた。


 そこで、生田が生きていることをしった。


 あのビルにいた生田は、死んだ。それは間違いない。だが外倉の能力で、生き返ったと生田は言った。


 それを聞いて、羽村の頭には、すぐに別の考えが浮かんだ。


 もう一度殺す、などということは、微塵も考えられなかった。


 春木を生き返らせる。羽村の頭の中にあったのは、それだけだった。





 外倉。


 街を進んでいると、目の前に現れた。表情で、本当に驚いているのがわかった。


「お前が欲しがってたものを、持ってきたぞ」


 生田が言った。


「この子は」


「お前が欲しがってた死神だ。嬉しいだろ?」


 口だけが動いて、なにかを外倉は言おうとしている。


 羽村はうしろをみた。三人が歩いてくる。


 前を歩いているのは加藤。そのうしろに、瀬木根と五稜がいた。


 加藤はなぜこんなところにいるのだろう。宮内の国に、逃げているはずではないのか。渡し屋はどうなった。


「あらら、とんでもないことになっちゃったね」


 そう言って笑う生田を、羽村はみた。初めから、五稜と外倉を争わせるつもりだったのか、生田。それに、自分は利用された?


 能力は?


 外倉の能力は?


「春木さんは生き返るの?」


 羽村は外倉に向かって、言った。


 外倉がみていたのはもっと遠い場所で、羽村の言葉は耳に入らなかった。


「生田。どういうことだ。お前が」


「いや、羽村がさあ。僕は止めたんだよ、やめろって。外倉はそんなことをしても喜ばないってさ、言ったのに」


 生田は、そんな話を続ける。


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