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【長編ダークファンタジー・完結済み】煙だけを食べる  作者: 佐藤さくや
第四章 片鱗 第一部 終章
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三八 希望


 三八

 


「俺とここでやり合って、気が晴れるのか?」


 千石は、炎に身を包んだ瀬木根に問うが、答えはない。


 こいつはもう少し鍛えれば、いい死神になるし、ここで殺したら、五稜さんになにを言われるか、わからないからな。


 千石の相棒のカメレオンが、緑に色づく。


 カメレオンは、吸収系統の能力でためておいた砂を吐き出した。


 砂で物を作る能力も砂になるものがなければ、使えない。しかし、それを補うのは、簡単だった。


「俺の方が速く動けるし、その炎は俺に届かない。勝てるのか、瀬木根」


 千石はカメレオンと一体化した。瀬木根が火の玉を飛ばしてきたが、千石は砂で壁を作って、消し去った。


「お前の持っている能力では、こんなもんだ。斬りかかってみろ」


 喋りながら、千石は瀬木根に近づく。


 瀬木根は、剣を出した。それを振ってきたので、大人しく斬らせてやった。千石の首が跳ね上がる。血は出ない。それを千石は自分の手でつかんで、元に戻した。


「どうする、斬っても、俺は死なないぞ。なにかないのか。こういう能力に対しては、真っ向からいった方がいいぞ。もしくは、お前の吸収系統の能力で、俺の砂と同化するかだな」


 喋っている間も、瀬木根は斬ってくる。だが千石の体は、斬られてはくっつくということを、ただ繰り返している。


「俺の助言を、少しは聞け」


 砂をまとった状態の腕で、千石は殴りつけた。瀬木根の体は炎になり、風に煽られたように流れた。


「完璧な能力なんか、ないんだよ」


 瀬木根の顔が、苦痛に歪んだ。


「吸収系統の能力を使って、相手の性質かその反対の性質を取り込むんだ。そうすれば、訳はない。お前も春木と戦ったとき、そうやっただろ」


 経験が浅すぎるな。


 瀬木根が振ってきた剣を避けて、砂をまとったまま、腹に拳を突き立てた。また瀬木根の体は炎になったが、意味はない。


 瀬木根は、気を失った。


「グレイ、出てこい」


「え、なんですか」


 グレイが、瀬木根の体から顔を半分出した。


「お前も痛みは感じるのか?」


「あ、はい。多少は」


 千石は、グレイの頭を殴ってみた。勢いで、グレイが瀬木根の体から飛び出した。


「痛いって言ってるじゃないですか。能力を付加した状態は駄目、本当に」


「そうなのか、やっぱり相手の能力を取り込むと、攻撃が効くようになるっていうの

は、理にかなってるんだな」


 試しに、千石はカメレオンから離れた状態で、もう一度グレイを殴ってみた。


「痛いよー」


 千石は、グレイを睨んだ。


「嘘です、すいません、本当は痛くないです、はい」


「なるほど、勉強になった」


 漂っている瀬木根を、千石は背負った。


「この馬鹿の代わりに、もう一人の馬鹿がいった」


「え、なんですか?」


「勝手に解毒したな?」


「いやなんか偶然、解毒しちゃった、みたいな」


 千石は、能力を込めてグレイを殴った。





「千石さんは、眠ったか?」


「ああ、しっかり眠ってる。やり方次第ではなんとかなるもんだな」


 グレイは、そう言って笑った。


 瀬木根は、千石が殴ってきたときに触れ、吉光の能力を使った。


 効かないのかと思ったが、すぐに千石は動かなくなった。


 千石の体を支え、世界の方へ動く。千石の腰のあたりには緑色のカメレオンがいるが、敵意はないようだ。


「五稜さんが向かったのか」


 世界の中へ入ると、ビルの外に町谷が出ていた。千石の体を渡す。


「お願いします」


「はい」


 町谷はなにかを言いたそうにしていたが、瀬木根はそのまま青い空間に出た。


「他の死神の能力を吸い取る力は、ずいぶん上がったみたいだな」


「千石さんの移動系統か、これ」


「まあな。吸収系統の能力はこういうのがあるから、便利だよな」


 瀬木根は、体を全力で飛ばした。


 大まかな方向しかわからない。近道の仕方もしらない。だが、宮内ではなく、外倉の国をただ、瀬木根は目指した。



 

「お前が、ここまで馬鹿な弟だとは思わなかったぞ」


「なんの話?」


「氷生という死神を、返せ」


「はあ?」


「どこにやった」


「俺がしるかよ」


「羽村をよこしたのは、お前だろ、外倉」


「羽村? 羽村がなんだよ」


「それにお前は、沙灘の能力を持ってたんだな。もちろん、お前の元の能力は吸収系統だったことは、覚えている」


 おそらく、二十人ほどの死神をすでに五稜は葬っていた。場所は、外倉の国の領域にあたる、青い空間だ。


「俺は、なんにもしてないぞ」


「羽村が、お前の欲しがってた子どもの死神をさらった。それが、お前の指示じゃないっていうのか?」


「俺はしらない」


「羽村は、こっちに逃げてきた。あの死神は、もう宮内を切ったのか?」


 外倉は、考えるような表情をした。


「まあ、いい女だぞ、あれは」


 そんなことを言ったが、外倉は真面目な表情をしていた。五稜には意味がわからなかった。やっぱり、羽村は外倉の国についたというのか。


「探したかったら、探せば? 俺はなんにもしてないから。氷生って死神は、あんたがここまでやるほどなんだろ。俺は、そこまで馬鹿じゃねえよ」


「探すよ。お前に言われなくてもな。ついでに聞いておくが、お前は、なんで沙灘が死んだか、しってるか」


 答えなんてわかりきっているから、もう聞くことはないと思っていたこと。どうして、いまそんなことを言ったのか、自分でも、わからなかった。希望があったのかもしれない。


 兄弟であり、家族だから。


 また、外倉は答えないだろう、と五稜は思った。


「それは、俺が、殺したからだ」


 外倉は、そう言ったらしい。


「なあ」


「姉貴は、俺が殺したんだよ」


 外倉の表情と、叫ぶような大声が、なにを物語っているのか。


 五稜はわかりたくもないし、認めたくもなかった。


 それでも、心の中で首を縦に振ってしまった。


「どうして、だ?」


 五稜は口の中だけで、そう言った。唇が震えてうまく動かせない。


 外倉は、移動系統の能力を使った。離れた場所に現れ、そしてまた消えた。


 五稜の視界から、遠ざかっていく。


 疑問しか、頭に浮かばなかった。


 追いかける気には、なれなかった。


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