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7.5

この物語のあらすじを提供してくださった武 頼庵さまに、私の「小説家になろう」一周年記念としてSSをいただきました。

本当にありがとうございました。

夏樹と理沙が小学生の頃のエピソードです。


subtitle「想い」

隣り合わせの家に響いた産声は同じくらい大きく、そして力強いものだった……


 月をまたぐように二つの家族に生まれた二人の子供。

 先に生まれたのは女の子。後に生まれたのが男の子。二人には理沙、夏樹と名付けられ共にすくすくと成長していった。


十年後――

理沙が失踪する二年前の話――


「待ってよ夏樹!!」

「なんだよ!! ついてくるな!!」


 互いの家が隣同士だという事で二人は学校に行くのも一緒。友達と遊ぶのも一緒。それが当たり前で普通の事だと思っていた。

変わり始めたこともあるのだけれど二人はまだ知らない……


「だからついてくるなって!!」

「いいでしょ!? どうせ行くところなんて同じなんだから!!」

「理沙が一緒にいると……」

「なによ!?」

「……何でもない!!」

「変な夏樹」


 たわいもない会話をするのが日常で当たり前だった。ケンカだってしょっちゅうしていた。殴り合いのけんかで血を流すことだってあったけど、周りは仲のいい姉弟きょうだいのような存在として何も感じてはいなかった。


 理沙と夏樹。

 二人に芽生え始めていた感情は誰も知らないままだった。いつもと変わらない二人を[仲がいいな]って感じるくらいで。


 この日も結局二人は競うようにして、いつも友達と遊んでいる広場に到着した。


「着いた!!」

「結局一緒に来ちゃった……」


 その気はなかったけど、道中を走ったり歩いたりと繰り返し競うようにしながら向かってきたことで二人とも息遣いが荒くなっていた。


「なんだよ!? 理沙と夏樹は今日も一緒か!?」

 広場に待っていた男の子達が夏樹を見つけて駆け寄ってくる。夏樹の友達だ。

「仲がいいからなこの二人」

 着いて夏樹に飛びついたりしながらからかうような声が飛ぶ。

「そうね。この二人なんだかんだ言っても一緒なのよね」

 理沙の女の子友達も駆け寄ってきて、手を取りながら笑顔を作る。

 そんなやり取りが日常で同じことの繰り返しで、いつものように二人が否定しながら抗議してそれを周りが茶化し流れるように遊びに向かう。それが日常だったのに……


夏樹と友達――

「理沙かわいいもんなぁ。夏樹もそう思うだろ?」

「え!?」


 男の子達の中からそんな声がかけられた。それは今までと違う世界が動き始めた瞬間だった。

「この辺じゃ一番かわいいってみんなが言ってるぞ」

「確かに最近じゃ周りの女子とは見た目が変わってきてるもんなぁ」


 夏樹は何も言えなかった。

 いや今まで隣にいるのが当たり前で、女の子として見た事なんて無かったから。この男友達の中での会話が、夏樹の心の中に今までにない感情を芽吹かせた。

「理沙が……かわいい?」

「何だよ。今まで考えたことなかったのか?」

「だって理沙は理沙だし……」

「お前ら仲いいからな。でも俺達には理沙は女子だぞ」

 夏樹はその場に立ったまま動けなくなった。そして視線だけは知らない間に理沙に向けられていた。そのまま少し理沙の姿を追いかけていた夏樹は友達からの掛け声でハッと我に返り友達との遊びの中に溶け込んでいった。


――時刻も進み夕日が山の向こうに沈み始めるころ。

 自然流れで遊びは終わりを迎える。誰ともなく家路につき始め、一人また一人と広場から姿を消していく。

空が夕日の赤と夜の黒の半々に分かれ始めるころには広場に残っているのは夏樹と理沙を入れても数人というところになっていた。


「夏樹……そろそろ帰ろっか……」

「あぁ……そうだな……」


 いつの間にかそばに来ていた理沙。言葉にうなづいて理沙の顔を見る。山に沈んでいく夕日がちょうど理沙の顔に当たって輪郭を浮き上がらせていた。


「え!?」


 赤い夕陽に照らされる青い瞳をした少女。その姿はずっと身近に一緒にいたはずの理沙ではなく、夏樹にとっては女の子としての理沙に感じた。


「綺麗だ……」

 自分でも気づかないうちに出た言葉。

「え? 何か言った?」

 こちらを振り向いた理沙はもういつも見ている顔の理沙だった。

「あ、いや。なんでもないよ。帰ろうか」

「うん」

 そうして家路につく二人は競うようなことはせず、二人並んでゆっくりと夕日に溶け込むように帰って行った。


「女の子としての理沙……か……」


 夏樹にとって初めて感じる気持ち。それが何なのか自覚するのはもう少し先。

 その時は近くまで迫ってきていることを二人はまだ知らない……

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