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「あ~、あなたがルカ、こんにちは。リサからよく話は聞いていましたよ」


玄関の扉を開けると同時に呼び寄せた祖母が、私の隣にいる長身の青年に向かって声をかけた。


ここは、狭い石畳の路地に軒を連ねる、レンガ素材の小さな家々の中の一軒。敷地と路地が接する間口が広くない分、家の奥行きはあり、天井は高い。


「こんにちは」

「あ、えっと、そこで本当に偶然に会ってね、シュト―レン作るの見たいんだって」


言い訳をしているかのような気分になるのはなぜだろう。

って、私、おばあちゃんにルカのことどんな風に……アニカの幼なじみだって話したことあるのかな。


「あらあら、失敗作を無駄にせず食べてくれる心優しい紳士かしら」

「あはは、そうです」

「初めて作るからって、そんな言い方っ」


ルカが突然家に行っていいかなんて聞くから、つい、いいよ、なんて。

おばあちゃんがいるからって、本当はこんなこと……アニカの彼を家に連れて来るなんて、だめに決まってるのに。


「まあ、でも私もリサのこと言えないのよ。お菓子作りなんて柄じゃないし」

「そうなんですか?お花柄のエプロンつけてキッチンに立たれている姿が目に浮かびますよ」

「あら、そんなタイプに見えるかしら?」


社交的な者同士の調子のいい会話をため息交じりで横目に見ながら、私は廊下を真っ直ぐにキッチンまで進む。


六角形の半分を形取ったような構造の壁に窓が連なり、レース状の短いカフェカーテン越しに日の光が銀色のシンクやその下に並ぶダークブラウンの扉に及ぶ。

暗く深みのある色調の木目が綺麗なダイニングテーブルに袋を置き、一息ついた途端にハッとした。


そうだ、アニカよ、アニカを呼べばいいんだわ。

それなら、きっと、罪悪感もなくなる。


もしアニカに用事があったとしても、誘ったことで筋を通した気がする……し!


そんなことをつらつらと考えながら、晴れやかさを押し付けたような面持ちでスカートのポケットから勢いよくスマートフォンを取り出す。

取り出したところで。


「リーサッ」


半分振り向いた先にいる、未だに不思議な存在に指先の動きが止められた。


もしアニカがここに来たら、きっと私は。

改めて、二人の馴れ初めを聞き。

私が知らない、今までのデートの行き先を聞き。

順を追って詳しく、より仲を深めたであろうケンカの内容を聞き。


ルカがアニカにそっと近づく姿を、スローモーションで目に焼き付けなければならないのでしょう。


「始めに何からするの?」


呑気に袋を覗き込む彼の見えないところで私はそっと、手にしていたものをポケットに滑り込ませた。


今日で最後にすることを、私は誰に誓えば許されるのでしょうか。

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