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ルカだ……、ルカ、ルカ、ルカ!
約一年前の卒業式以来の再会に心が決壊し、塞き止めていた想いが溢れ出す。
自分の名を呼ぶ声に薄く反応して振り向いた、あの人は。
「あ、リサ!」
道路の向こう側、生い茂る木々を背に、変わることのない笑顔をこちらに向けて手を上げた。
間違いなく月日は経っているはずなのに、どうして変わらない。
信号機の人影が青に変わるやいなや、飛び出すように彼の元へ走る。
どうして変わらない。
彼は、自分の元に走り近寄る私を、あの余裕のある態度で待っている。
どうして変わらない。
「ル、ルカ、ど、どうしたの、こんなところで、珍しいね」
息を弾ませ、まだ信じ難い思いで、背の高い彼を見上げた。
どうしてこんなにも、想う気持ちが、変わらない。
「大学の友達の家がこの辺でね、遊びに来てたところ」
よく見ると、綺麗に真ん中で分かれていた前髪に軽くウェーブがかかっている。
「そうなんだ」
目の当たりにしている奇跡の塊が、少しずつ以前とは違うものになっているのではないかという現実に、次第に弾んだ息が退いていく。
「そいつがいきなり彼女に呼び出されてさ」
「彼女……」
アニカ。あなたの彼女はアニカよ、私、知ってるのよ。
「だから、まだ昼過ぎなのに暇になっちゃったよ」
友達の彼女の話題は周りを漂う温い風に自然に溶け、ルカ自身はアニカと付き合っているという報告をしそうな素振りは感じられず。
「リサは?そういえば家、この辺だったか」
「うん」
「スーパーで買い物?」
「うん」
アニカのことは、言わないみたい。
うん、私も、積極的に聞きたいわけじゃ……。
「何?これ、お菓子の材料じゃないの?もしかして」
無遠慮にさり気なく、私の腕に通された袋を覗き込むルカ。
「そうよ、シュト―レン作るの」
心持ちルカから身を遠ざけて、袋の口をキュッとつかんだ。
意味もなく近いの、やめてよ。
「へ~、春にね。それ、見てていい?」
「え?」
ぼんやりとした陽気が、人の思考を狂わせる。
「リサの家、行っていい?」
変わらないあなたの態度に、変わらない自分を通せば良かったのに。
以前みたいに、冷たく突き放すのよ、ねえ、リサ。
ねえ。
「……いいよ」
ぼんやりとした陽気が、私の思考を狂わせた。
嘘、陽気のせいなんかじゃない。
ただの私の欲が、また光の粒になって消えてしまいそうなあなたの袖を精一杯つかんでいるだけだ。
本当にもう少しだけ、もう少しだけでいいから。
再び消えてしまうであろう、その青い眼差しと無意味に響く甘い言葉を、今だけ。




