前夜
「白夜叉を追うのはいいが、ここに入っからには仕事もやってもらうぞ」
これが、ボスからの初めての仕事だ。
「分かってる。具体的には何をするんだ?」
「そうだな……まずは顔や体を洗ったらどうだ? 服はこちらで用意してやる。それと食事も軽く取れ。今日は遅いから明日ここに来い」
鬼雨が、ここに来てからやったことは、三日ほど寝て、喚いて、泣いて、暴れるという、ただの迷惑しかない。
「そうだな、今日はもう疲れた。その……壁とかいろいろとすまない」
「なにを言う。我々の方が酷いことをした」
さっきとは打って変わり、ボスの態度がしんみりとしている。
「事情はリリィから聞いた。もう、よそう。その方が互いのためだ」
「そうか……では、明日から頼むぞ」
こうして、鬼雨は再び部屋に戻ってきた。
「まずは、シャワーだな」
すべてわかっていたように着替えは、玄関のそばに置いてあった。
「これは……軍服? こっちはジャージ。あ、寝るようだな」
ジャージと下着を持って風呂場へ行き、適当な場所に置いて入る。シャワーが頭から全身を濡らして流れ落ちていく。
「はぁ……久しぶりのシャワーだ」
数日ぶりのシャワーが、体の汚れを落としていく。水が少し黒いような気がするが、気にしない。シャンプーの泡が心地いい。
「とにかく状況整理だな」
鬼雨は頭の中で考える。今日、起こったことをひたすらに考える。そして、結局たどり着くのは妹であるかすみの死。
こんなことを考えたせいか、再び鬼雨の中で悲しみが出てくる。
「はは、色んなことが無茶苦茶すぎるだろ」
髪を洗い終わり、体を洗おうとした時、扉が開いた。
「あ、鬼雨いた! 私も入る〜♪」
リリィが全裸で入ってきた。
「あ、おい! ちょ、何してんだよ!」
慌てて止めるがもう遅かった。
「ボスがねぇ〜寂しがっているから体を洗ってやれ! って言ってたの。だから、洗いに来ちゃった♪ ついでに私も入る〜!」
Vサインを向けてニカッと笑顔で答える。
まともに直視できない。鏡越しで見えた豊富で柔らかそうな胸。恐ろしいほどすべすべの白い肌。極めつけは背中に生えている小さな翼。
リリィは、勝手にタオルをとり、ボディソープをつけて、鬼雨の背中を擦る。
「嫌だった?」
上目遣いでリリィが聞く。そんな目で見られては断れないに決まってるのに……
「ッツ! ……も、もう、いい。洗ってくれてありがとう」
湯船に入ろうとしたら、リリィの翼が気になった。
「これ、どうなってるんだ?」
軽く掴んでみる。
「ヒャッ!? な、なにすんの〜!」
リリィの意外にも可愛らしい反応に、鬼雨も色々やばい。
「つ、翼は敏感な所だから、触らないで!」
「き、気をつけます」
少し怒りながらも、顔は少し笑っている。リリィは自分の体を洗い始めた。
お互いに無言で黙々と過ごす。先に湯船に入った鬼雨がのぼせそうになったので、上がろうとした時、リリィが最後にーー
「あ、そうだ。鬼雨! 私ね、同居することになったよ!」