怒りと悲しみ
部屋には、壁に無数のパソコンが張り付いており、明るさはそこから来ていた。だが、全体的には薄暗い。
鬼雨は、声のした方へ目を向けると、この場で一番高いところに、黄色い目が2つ、こっちを見ていた。
「ボス〜♪ 連れてきたよー!」
リリィが手を振って合図を送る。
「………………。そうか、あの白夜叉の……ついに目が覚めたか! これからおもしろくなりそうだ。クハハハハハ」
ボスは約5mあるも高さを、笑いながら飛び降りて来た。そして、廊下の光を浴びることによって、ようやく全身を見ることが出来た。
燃えるような紅の髪に黄色い瞳。服越しからでもわかる豊富な胸と引き締まった体。ヘソ出しだが、きっちりと着こなしている軍服。その上には黒いマントのような物を羽織り、胸の辺りには数個の勲章がある。
「君が一条鬼雨君だね? 私はここのボスをやっているステンノーだ。よろしく」
ボスは握手を求めてきた。
「どうも、一条鬼雨です。あの……どうして俺の名前を?」
単純な疑問だった。出会って初対面のはずなのに、俺のことを知っているなんておかしいのだから……。
「そんもの決まっている。全て見ていたからだ」
ボスは、その質問を待っていたかのように笑う。
だが、どこか少し申し訳なさを感じた。
「え……え、ちょ……えっ? み、見ていた?」
驚きを隠せない。
すべて見ていた。つまりあの化け物が俺たちを襲ってきたということも見ていた……?
「じゃ、じゃあ……あの時、俺の妹は……かすみは助けられたんですか? 」
「まぁ、不可能ではなかったな」
ボスは、どこか遠いところを見つめるながら言い放った。
「ちょ、ボス! それは話さないでいようって約束したでしょ!」
リリィが、なんでと言わんばかりの顔で、ボスに訴える。しかし、ボスは手を向けて待ての合図を出した。
何かを隠していることに、だんだんと怒りがこみ上げてきた。話から察するにわかってしまう。だからこそ聞かねばならない。
「なんで……なんで、あの時に助けてくれなかったんですか!!! あんた達が助けてくれたら、妹とは……かすみは、生きていたかもしれないのに!」
もう、怒りが爆発しそうなのを大声を上げることによって発散させている。
「お前が、遭遇したのは白夜叉と言われている吸血鬼。そして、奴を追っていたのが、リリィだ。私はリリィに待機命令を出していた」
「……つまり準備は出来ていたってことだな?」
「あぁ、そうだ。奴は気に入った奴は殺さいなから、油断していた。まさか、殺すとは……すまない。私の判断ミスだ」
鬼雨はその言葉を聞いて怒りが限界に達した。その時、脳内は怒りの色に染まり、何も考えられなくなり真っ白になった。
「ッツ……ふざけるなぁぁぁ!!!!」
鬼雨は壁に思いっきりパンチをした。普通なら壁が衝撃を跳ね返して、自分自身が痛い目に合うだけだが、鬼雨のパンチは違った。壁の大部分は崩壊し、天井にまでヒビが入っいる。
「なんてことだ、壁に穴が!! だが、まだ、この程度の覚醒で良かった……」
ボスは小さく驚く。そして、ニヤリと笑う。
「はぁ、はぁ、はぁ、俺は……いったい……」
心を落ち着かせて、意識が戻った鬼雨が目にしたのは、自分で開けた穴。そして、頭で理解する。
「あ、あぁ、あぁぁぁ……俺はもう、人じゃねーんだな」
自分がしてしまった罪悪感と指の回復や壁の破壊といった人間離れの力。もう、自分は人間の体じゃないという2つの感情だけが、鬼雨の心を支配する。
「あぁ、そうだ。お前はもう人間じゃない!」
ボスは鬼雨に向かって声を張り巡らす。
「妹を失くしたお前の居場所は、今日からここだ! そして、今からお前の生きがいは、全ての元凶を作った白夜叉を捕まえることだ!」
確定事のようにボスは言う。
さっきので力尽きたのか、怒りが収まり、次に悲しみが心を支配していく。暖かい涙が、頬から流れ、下に落ちた。
「お前を、正式に我が組織へ迎え入れようと思う。まぁ、すぐに答えが出ないだろう。今日は部屋でゆっくり休め……いい返事を期待している」
ボスは顎を使って、突っ立っていたリリィに指示を出して、鬼雨を連れていく。
「一条鬼雨……あれは監視しないと厄介になりかねない。この数日で、さっそく覚醒してきているか……フッ、まさかメデューサの開けた穴の倍以上を開けてくるとは面白い! ……本来は給料から壁代を引くんだが、これはサービスだ」
ボスが振り返ると同時に壁は、何事も無かったように元に戻っていった。