リリィ・プリシア
「って、ちょ、待てよ! どこなんだよここ! 病院じゃねーのかよ!」
鬼雨は少女の肩を掴み、質問を投げる。
「あーーー! もぅ〜うるさいなぁ! さっきから違うって言ってるでしょ!」
鬼雨が掴んだ手を払い、腹を思い切り蹴飛ばした。
「グハッ……何しやがる。それに、まだ1回しか言ってねーよ!」
「いいから、黙って付いてきて!」
そう言って少女は、扉の向こうに出ていったので、ついて行くことにした。
扉の先には廊下があり、学校の廊下の幅より2倍はあった。周りは白い壁、天井にはライトがいくつも付いている。
そんな廊下をずっと歩いている。部屋はいくつもあり、それぞれによって扉の大きさが違っていた。
「いったいここはどこなんだよ?」
鬼雨が、同じ質問を何度も聞いているせいか少女は答えない。
そして、ようやく立ち止まったと思ったら、周りよりもひときわ高級感を漂わせる扉に入っていった。
「おい、人の話を聞けよ! ……って、聞い……てんの……かよ 」
鬼雨は言葉を失った。
ただ、でかい。目の前に、壁があるように思わせるほどの大きな体があった。
「……では、姉様。ん? 坊やは確か……あぁ、思い出した。三日ほど前にここに来た子よね?」
話しかけてきたのは上半身は女性。だが、髪の毛が蛇化しいる。下半身なんて蛇そのものだ。左手には大きな斧を持っている。それにサングラスをしている。
そう、それはまるで――
「って……み、三日!? そんなに寝てたのか!」
どうやら自分でも信じらないほど寝てたらしい。
「おや、リリィから聞いてなかったのね」
蛇の女性が呆れてた顔で、少女リリィを睨む。
「お前、リリィって言うのか……」
「リ〜リ〜ィ〜! ちゃんと自己紹介しなさいっていつも言ってるでしょ!」
蛇の女性の口調が変わり、やばいと感じたリリィはすぐさま態度を改める。
「げっ、やばい! あ〜ゴッホン、ゴッホン。自己紹介をします。私の名前はリリィ・プリシア。気軽にリリィって呼んでね♪ さて、これで私の番は終わりですよね? メデューサ様」
リリィは、可愛くニコッと笑いながら蛇の女性の方を向いて、頭を向けた。
「よく出来たわね。いい子いい子」
蛇の女性は、そう言いながらリリィの頭を撫でた。
と、見えたが実際には手を大きく広げてリリィの頭を潰す勢いで、鷲掴みしていた。
「い、いた、痛だだだ! す、すみませんー!」
よほど深くめり込んだのかリリィは話さなさくなった。
「あ、そう言えば私もまだだったわね。私はメデューサ。ゴルゴーン三姉妹の一人にして治安部隊の総隊長を任されている者よ」
メデューサが握手を求めてきた。
あのとんでもない握力で、手を潰されるかと思ったが、そんなことはなかった。
「あ、あの! ……メデューサ? さんってあのギリシャ神話に出てくる? あ、一条鬼雨です」
「えぇ、そうよ。あなたは物知りね。っと、時間が押してるから詳しいことは、奥にいる姉様に聞いてちょうだい」
目標を見つけたように壁をぶち壊しながら、自分の進む方向に一方通行で進んで去っていった。
「え、え、えぇぇぇぇぇ!? こんなにぶ厚い壁が、パンチ1発で開くのかよ……ほんと、どうなってんだよ……」
鬼雨はしゃがみ込み、深呼吸して状況を整理をする。
「考えるんだ……まず……そうだ。かすみが殺された……殺されたんだ。」
少し記憶が曖昧だが、徐々に思い出してきた。
「それから……俺はあいつの血を飲んで……気がついたらよく分からない場所にいて、ギリシャ神話のメデューサがいた。頭がおかしいとしか考えられねぇ……かすみ……かすみぃぃぃ!!」
「そこのやつ、うるさいぞ! ……少し黙れ」
どっしりとした重たい女性の声がした。
「あ、ボス! 白夜叉が力を与えた一条鬼雨を連れてきたよ〜♪ 」
リリィが自慢気に反応した。
鬼雨は顔を上げると、高い椅子に座っている人がいた。リリィの言葉を返さない。
ただ、蛇のような縦線の入った黄色い瞳が、こちらを見つめていた。