吸血鬼の力と代償に
かすみの絶叫が聞こえる。急いで玄関に向かう。鍵が閉まっていることを思い出し取り出す。あとは差し込むだけだった。
その間もかすみの絶叫は、続いている。自分の名前を何度も呼ぶのが聞こえてくる。だが、だんだんと声は小さくなってゆく。
「あ、あれ、おかしいな。……入らない。なんでだよ」
ただ鍵を入れるだけなのに何故か上手くいかない。原因は、ただの震えだ。なにか不吉なことが起こっているという予感が、鬼雨の心を支配して、不安を掻き立てている。
「くっそ、……くっそくっそ、入れ!……入れよ!」
鍵が入ったと同時にかすみの声が途絶えた。急いで回してドアを思いっきり開ける。
「確か声が聞こえたのは……リビングの方か」
靴下のせいで足が滑りそうになるのを足の筋肉で無理やり押さえ込み、力ずくで走る。自分の家なのにリビングまで続く廊下が、やけに長いように感じる。
「かすみ……はぁはぁ……かすみ」
リビングに入るときの扉に手がかかった。あとは、この扉を開けてかすみを助けたら、また、今まで通りの生活が帰ってくるはすだ。
「ん? なんじゃ?……この家は2人住んでいたのか……」
扉を開けた瞬間に目にしたのは、透き通るような綺麗な銀髪。美しい顔立ちに、燃えるような赤い瞳、そして、容姿を一番際立たせているのは、真っ赤なドレス。黒色も少し入っていて、白い肌がよく合う。それに背中には大きな翼がある。
異様なのは容姿だけでは収まらず、口の周りには真っ赤な血で染まっていた。
「誰じゃ、お前は? わらわの食事の邪魔をするのか?」
「お、お前こそ誰だ……」
鬼雨の力無き反論が、スルーされる。よく見ると彼女の右手にはかすみの頭が掴まれている。
かすかの目がだんだんと暗くなってゆく。首元には2つの穴が空いており、今も血が絶え間なく流れている。
「お、おにぃ………ちゃん……」
微かにかすみの声が聞こえた。
「か、かすみ……? まだ、息はあるのか? 待ってろよ……助けてやるからな」
「ほほぅ、こやつの兄であったか! おい、お前。褒めて遣わすぞ! こやつの血は実に美味であった」
彼女は再び、かすみの血を吸い始めた。抗うために彼女の顔を押していたが、徐々に力が弱まり、ついに手がブランと、真下に伸びた。
「た……たすけ……て……おにぃ……ちゃん……」
それが最後のかすみの言葉だった。
「ッツ! こっ……の野郎が! かすみを離しやがれ!」
走り出し、勢いをつけて、殴りに行く。だが、彼女は体を反転させ、足をかけて鬼雨を転すと同時に、鬼雨の首に手刀を入れた。
「ガハッ!」
まるで超重力でも受けたかのように、鬼雨は一瞬で床に倒れた。 途切れそうな意識を、なんとか気合で保ちながら見上げる。
「お前、わらわの手刀を受けてまだ意識を保つか……ハ、ハハ、ハハハ。お主、気に入ったぞ! わらわの血を飲め」
「お、お前、何言ってるんだ!?」
彼女は、自分の腕をちぎって、鬼雨の目の前に投げ捨てた。
「飲め、飲むのだ」
「そんなの嫌に決まっているだろ!」
気を抜くとら飛んでゆきそうな意識を、なんとか保ちながら抵抗する。
「ちっ、めんどくさいのう」
そう言って、近づき鬼雨の腹を蹴る。体は壁に当たり、そのまま床にうつ伏せで倒れた。そして、彼女は足を使い、すくい上げられるように蹴られて、鬼雨の体は仰向けにされた。
直後、お腹に何か入った感触を感じた。
「ほぅ……これがお前の色か……先のムスメよりは色は汚いがそこそこいい色だな」
そう言って彼女が持ち上げたのは、鬼雨の腸だった。彼女は両手で腸を互いに逆方向に引っ張る。
「ま、まさか、お、おい、冗談だよな? や、やめ、やめろー! やめろやめろやめろ!!」
ブチッ。
自分の腸が目の前で切れた。体中が熱い。全身が火傷したように感じがする。叫んでいる間に、口の中に彼女の切った腕の切り口が入ってきた。
「ふははは! どうだ? これで飲む気になったであろう。さぁ、飲め!」
全身から汗が吹き出し、口には血が溜まっている。そしえ、我慢の限界が来た。窒息から逃れようと、血を飲んだ。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
「いいぞ! いい飲みっぷりじゃのう。これでお前はわらわの力を手に入れたわけだ。わらわの楽しみが増えたわ。あはははははは…………お? あれはなんじゃ? 」
彼女が目にしたのはかすみの鞄に付いてある指輪だった。
「それ……に……さわ……るな!」
「ほほぅ、どうやら余程大切なものらしいな」
彼女は指輪を床に落として、思いっきり踏みつけた。その威力が強すぎたのか、家の中が揺れ、お揃いの食器や棚などが倒れ、壊れていく。
「く、くそぉぉぉ!!」
かすみと共に大切にしてきたものを、次々と壊されていく。いつまで経っても彼女の破壊は止まらない。
「そうじゃ! これで終いにしよう」
もう、ほとんどボヤけた視界の中かすみの全身が映っていた。
「これでわらわに敵意が向く。先が楽しみじゃ」
彼女が持ってきたのはかすみだった。もう生きているかどうかは分からない。そんなかすみが、目の前で顔と腕と足が同時に5つに別れて飛んだ。
「お、おまえ!! 殺す! 殺してやる!」
最後にそう言い残し意識が途絶えた。
ここまで読んでくださってありがとうございました。まだまだいたらないところがありますが頑張って行きたいと思います!