選択の果てに
真っ白な世界の中に真っ赤なドレスを着た女が10mほど離れた場所にポツリと立っている。
コツコツとヒールの音を立てながら、こちらに向かい話してくる。
「さっきも言ったがお前に話さなければならんことがあるのだ」
「……ハハ、ハハハ……こんなに早くに再開出来るとはなぁ! 嬉しいぞ、白夜叉!! 俺は、お前を殺すためにーー」
鬼雨が最後まで言おうとしたが途中で遮られる。
話しながらも近づいてはいたがそれでも5mはある距離を一瞬で移動し、顔面を殴られた。
「ったく、相変わらず面倒いのぅ。少しは話を聞け!」
吹き飛ばされた鬼雨はすぐに起き上がり、反撃に出ようとするが、体が動かない。足元を見るとコウモリがびっしりと鬼雨の足をしがみついて離れない。
「これで、少しは話が聞く気になったか……鬼雨、お前は吸血鬼になれ!」
「前にも言ったはすだ、断る!」
即座に返答する鬼雨に痺れを切らしたレクリアが説明を加える。
「鬼雨、君ノ体ハボロボロナンダ。力ノ使イ過ギデ人間ノ体ジャ保テナイ」
「だから、吸血鬼になれというのか?」
「…………ウン」
申し訳ないような顔で言ってる。ユニコーンであるレクリアが言うのだ。つまり、もう人間の回復能力では無理なのだろう。
「それでも嫌だ」
鬼雨はそれでも吸血鬼に成り下がることを断る。
「チッ、本当に面倒じゃな。だったら、これから先力無きお前がどのようになるかを見せてやる」
真っ白だった世界が変わる。鬼雨の目の前には水溜りができ、そこから映し出されたものは鬼雨が心臓を貫かれたあとの風景だった。
女将がリリィを手で喉を突き刺し殺すところだ。
「……やめろ」
鬼雨の申し出を断り、見させることを続ける白夜叉。
次は、鬼雨が通っていた学校だ。時間は放課後。
教室の中には二人いる。銀髪の女と首を掴まれて踠く生徒。この二人が誰だかも鬼雨は知っでいる。白夜叉と東山 剛。剛は鬼雨の親友だ。
「見ろ、お前は力が無いせいでこいつも死ぬ」
「やめろ、やめろ、やめろ!」
鬼雨の願いは聞き入れて貰えず、再び見せられる。
今度は時刻は夕暮れ、場所は鬼雨がよく知る家の中。そして、最愛の妹であるかすみが腕と足と顔がそれぞれ分かれて死んでいた。
「やめろぉぉぉーー!!」
コウモリの縛りを自力で破り、白夜叉に抱きつきながら倒れる。
「なっ!」
一瞬、白夜叉がニヤリと笑ったが鬼雨は気にせず怒りを露にした。
「お前が力無き今、この先には大切な者達が死ぬ。さぁ、どうする?」
「…………お前の力を全て奪って守ってみせる」
それが鬼雨の答えだった。全てを守るために人を捨てると。
「……ハハハ……だったらわらわを殺してみせろ!」
「…………お前はかすみの命を奪った。当然の報いだ。白夜叉、力をいただく」
こうして、鬼雨は吸血鬼になった。