仕返し
「鬼雨〜早く行こよぉ〜」
リリィはなぜか着いたばっかりの部屋から出ていこうとしている。しかもお風呂セットを持って。
「おい、リリィ? なぜ、この部屋から出ていこうとする? 風呂ならこの部屋にあるだろ?」
「えぇ〜! 何言ってるの。この部屋にお風呂はないよ!」
いつも通り、また訳のわからないことを言っているのかと思ったが、本当にない。
「なん……だと! なら、今日は風呂は無しか」
もう、今日の疲れの癒しは寝ることだけだと思っていた。
「鬼雨の変なの。ここは温泉がある旅館だよ〜!温泉だよ! お・ん・せ・ん!」
顔を近ずけながら主張するリリィに、取間取りつつも頭が理解した。
「お、お、おぉぉぉ!! 温泉か! なんか、馬鹿にして悪かったな! さっそく行くぞ!」
ここ数日はろくな事がなかった。
化け物に襲われ、上空からのスカイダイビング、おまけについた先にはユニコーンの角を狩る人狼が3人組。
「改めて考えるとほんとにやばいなぁ。よく、生きていたな……俺」
廊下を歩きながらこれまでの出来事を思い返す。もう遅いせいか、廊下には俺達以外には誰も見当たらない。
「鬼雨〜! こっちだよぉ〜!」
リリィに案内されるがまま付いていくと、鬼雨の中で危険信号が出た。
「じゃぁ、俺はこっちに入るわ」
そうして、男湯へ入ろうとすると体が動かない。リリィのサイコキネシスだ。
「おい、リリィ。サイコキネシスを解いてくれ。これじゃぁ、風呂に入れねぇだろ」
「えぇ〜じゃぁ、鬼雨がこっちに入ってくれたら解いてあげる♪ 」
リリィが指を指したのは混浴だった。
「………………リリィ。一応、理由を聞いてもいいか? 」
「一緒に入った方が楽しいでしょ?」
「やっぱり、俺は男湯に入る!」
(そんな理由で一緒に入ったら、俺がどうかしてしまう。なんとしてでも男湯に入らねば!)
「だ〜め♡」
鬼雨の抵抗はサイコキネシスで、無理やり混浴の脱衣に飛ばされ、あっけなく終わった。
「えい! 忍法! 脱衣の術!」
服がボロボロに破けた。もう、ほとんどパンツ一丁だ。
「お、お前ー!!! どうしてくれるんだよこれ!」
「いいじゃーん。上の服は鬼雨が翼を生やしてボロボロだったし、ついでにズボンもボロボロにしただけだよ♪ 」
「ふざけるなぁ! お前、このあとの服、どうすればいいんだよ!」
リリィがお風呂セットと一緒に持ってきたバックから取り出した。
「ジャジャーン! 浴衣でーす!」
その辺はきっちり用意していた。
今、出ていこうとするとリリィのサイコキネシスで捕まる。だとすれば、答えは1つしかない。
「……わかった。入るぞ。どうせ、俺が逃げないよう後から入るつもりなんだろ? 俺から入る。着替えるからあっちを向け」
リリィはニカッと笑いながらわかったと答える。
扉の向こうはいきなり露天風呂だった。今は誰もいない。湯に浸かってリリィを待っていると、上から何かが落ちてきた。
湯気がだんだんと晴れる。よく見ると女の浴衣を着ていた。手にはショットガンを持っている。
「お客様、失礼やけどあんたがけんじさん達を殺した吸血鬼か?」
この旅館の女将であろう人が銃を構えて訪ねてきた。