怒りの果てに
リリィが目を覚ました時、周りには約20メートル先に若者が2人いる。さらにその先には……
「あれは……人狼!? なんでこんなところに人狼種がいるの!? それに……倒れているのは……鬼雨! ダメ! 殺されちゃう!」
起き上がろうとしたが、体が上手く動かない。それに、肺がやられているのか呼吸が苦しい。
「私は……なんで! なんで!! なんで!!! ……こんな時に…………また! …………体が動かないのよ! もう、鬼雨の時みたいなことを繰り返したことがないって! ……決めてたのにっ!」
悔しさで目から涙が出ていた。体を起こし、鬼雨をみると……
「あ、あれは、ほんとうに鬼雨なの?」
心の中で声が聞こえた。
(わらわの力が欲しいか?)と……
嫌な記憶が蘇る。あの憎き吸血鬼、白夜叉を。
「ふざけるなっ! はぁ、はぁ……お前に、力を借りるくらいなら、はぁ、はぁ、自分でなんとかする !」
こうしている間にも、おっさんは若者2人と帰ろうとしていた。
(このままみすみす見逃すのか? また、お前は苦しむな……ハハハ)
「黙れ。……黙れ! 黙れ!!」
(なら、わらわの力を使うか? もう良いではないか。体の10分の1はもう人間ではないのだから……)
「ふざける……な! お前が、そうしたんだろ! ……せ、責任を取れ!」
(ふむ、責任か……ふむ、よかろう。ならば、力をくれてるわ! これで存分に振舞え! アハ、アハハ、アハハハ)
だんだんと呼吸が楽になってくる。これもやつの力なのか、開いたはずの胸が塞がっている。
「傷が……治ってる。超回復ってやつか?」
(さよう、わらわの能力のひとつじゃ。……これはわらわの期待の分じゃ、受け取るがいい)
「う、うわぁぁぁぁぁ!! か、肩がぁあああ!」
もぞもぞと肩になにか入っているような感触があり、だんだんと自分と1つになる。気持ちが悪い。だが、力が不思議と湧いてくる。そして、それは確信にも近い感じでわかる。
「これならあいつらを倒せる!」
3人組を見るともう、子供のユニコーンを連れて遠くにいた。
「待て! 化け物共ー! その子を離せ!」
声が届いたのか、笑い声が聞こえる。おまけに、全員が人狼化していた。
「どこまでも舐めやがって……やられた分はやり返す」
リリィやユニコーン達を傷つけられたのが引き金となったのか、怒りがグツグツと湧き上がり、最大にまで達した。
次の瞬間、プツンと糸が切れる音がした。もう自分では制御しきれない。
鬼雨が気がついた時には辺り一面には血が広がり、おっさんと思しき人のお腹には、自分の手が刺さっていた。