覚醒の時
真ん中に中年のおっさんがいて後ろに若い兄さんが2人いた。
「おい、兄ちゃん。そこの子供のユニコーンを置いてとっとと失せな」
おっさんが脅迫まがいに言ってきた。
「ふざけるな! 誘拐しきたやつに渡すなんて出来るか!!」
「まぁ、そらそうだわな。……手荒いことはあまりしたくねぇんだが、仕方ねぇな。お前ら、やるぞ!」
おっさんの合図で、後ろの若い2人が武器を取った。
だが、鬼雨は目の前の敵よりも別のことに気を取られていた。
「と、その前に兄ちゃん達よりも、あのユニコーンを何とかしねーとな」
怒り狂った親のユニコーンが、こっちに向かっていった。
「あれは……おぉ、上物だな。袋を用意しとけよお前ら!!」
親のユニコーンは、まっすぐにおっさんに向かっていった。
「やっぱりこっちに向かってきたか。しょうがねぇーな」
おっさんは一直線に走っていく。親のユニコーンは物凄い勢いで追いかける。角がもうすぐおっさんに当たる――
「ッ! あ、危ねぇ!!」
親ユニコーンの攻撃を紙一重でかわしながら、おっさんは草原を走ってゆく。先に見えるのは、巨大な大樹が密集ような森だ。
「あのおっさん……いったい何すんだ?」
気が付くと、子供のユニコーンがいつの間にかいない。おっさんのそばにいたはずの2人も。探そうとしたら、リリィが叫ぶ。
「まさか……それはしてはいけない!!」
リリィは大声で叫ぶ。だが、もう遅かった。
「やったぜ。これで終わりだな」
おっさんは大樹に向かって走り、そのまま登って行く。
親ユニコーンは下を向いたまま突っ込んでいたため、角が大樹に刺さる。後ろに動けば、刺さった角は取れるのだが、怒り狂ってる状態では難しい。おまけにあの辺はドロドロだ。
木を登っていたおっさんは、見事な宙返りを決めて着地した。
「よぉ~し、これで完了。仕上げだ!!」
おっさんは腰にしまってた鉈を取り出し、振り上げる。
そこで鬼雨はようやくわかった。こいつらのやろうとしてることは――
「やめろーーー!!!!」
バキッと遠くから鈍い音がして、数秒後に親のユニコーンは倒れた。
「やったぜ! こりゃ~上玉だ!」
いつの間にか合流した若者2人とおっさん。
この3人に攻撃を仕掛けたやつがいた。……消えていた子供のユニコーンだ。
「よせ! やめろ! お前がかなう相手じゃない!」
鬼雨は止めようと走り始めた。その間も子供のユニコーンは攻撃を仕掛ける。後ろ蹴りやジャンプの攻撃。
だが、相手は何も感じていない。
それでも必死に子供のユニコーンは攻撃する。
しかし、とうとう終わりを迎えた。
「おい、こいつもいい加減に黙らせろ」
「そこまでです! これで、あなた達は立派な犯罪者です!」
リリィが子供のユニコーンの前に立ち、止めに入る。
が、おっさんは一瞬でリリィの前に現れて、腹に蹴りを食らわせる。
「ガハッ!!」
飛ばされた先には鬼雨がいて、一緒に飛ばされる。
リリィに意識がない。そして、そのまま地面に倒れる。
「うわっ!」
すぐに起き上がって見ると、子供のユニコーンが頭を向けて走っていく。だが、おっさん達はその行動をあざ笑うかのようにかわし、若い連中の一人が子供のユニコーンの顔面を蹴り飛ばした。
飛んできた子供のユニコーンを、何とか鬼雨がキャッチする。
「おい! お前ら! なんでお前らはこんなことするんだ!」
リーダーであろうおっさんに話しかける。
「……なんだ、そんなことも知らねえのかよ。そのチビ見てみろ!」
抱きかかえる子供のユニコーンを見てみると角が生えてきている。
「どういうことだ? なんで角が生えてきて――」
言葉を言い切る前に顔面に飛び膝蹴りを食らい、その場で倒れる。
「ユニコーンってのはダメージを受けるすぎるとエネルギーを1つにまとまるために角が大きくなる。つまり、何度でも生えてくるって訳さ」
鬼雨は身もだえながらも考える。そして予想は正しかった。
「へぇ、俺の膝蹴りを食らって、まだ意識があるとはやるな。それも、もう終わりだがな」
おっさんは鉈を取り出し、振り下ろす。
今度はパキッと柔らかい感じだが確かに折れた。その角も袋に詰めて帰ろうとする。
「お、おい、お前たち!! ま、待てよ!! こんなことしてただで済むと思ってんのかよ!」
リリィもユニコーン達も倒れた。残りは自分しかいない。よろよろと立ちながら言う。恐怖で足が震えているにも構わずに。
「わっかんねぇかな。思ってるから、こんなことしてんだろ。せっかくだから思い知らせてやるよ」
おっさんの姿が変わっていく。よく見ると全身がごわごわしてきた。鼻はまっすぐに伸び。耳は頭に付き、手は鋭い爪が生えてきた。
それはまるで獣だった。否、人狼。そう呼ぶのがふさわしい。
「月が出てねーからあんまし力が出ねぇーか。だが、お前のタフさからこれぐらいがちょうどいいか……」
今は午前。太陽が一番上まで登りつくまでもう少し。
「行くぜ」
一言だけ言ってから、鬼雨に向かってもうスピードで駆けつけて来た。怖さのあまり腰が抜けそうだったが――
「あの時よりはぜんぜん怖くもなんともない!」
おっさんに向かって行くが、その決意が少し遅かった。狼化したおっさんがすでに目の前にいて攻撃モーションに入っていた。
「このっ!!」
蹴りを繰り出そうとした瞬間、右胸の中に衝撃波が走った。見ると右胸がポッカリと穴が空いている。
意識が遠のいていく。膝を付き、体が倒れる。
鬼雨は逃がすまいと何とか右手で左足をつかんだ。
「おいおい。さっきの食らってまだ意識があるのかよ。そら、おまけだ」
掴んだ足はあっさりほどかれ、腹に思い切りの蹴りを食らった。
「ガハッ!!」
自分でもわかるくらい宙に飛ばされた。口の中で切れたのか、血の味がする。
ドサッと倒れて、無理やり顔を上げると、ぼんやりとだが子供のユニコーンを担いで連れて行こうとしているんが見えた。
「ま……て……」
肺に穴が開いたせいか、心臓の音がやけにうるさい。
――ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン、ドックン――
やけに高鳴る鼓動の中、頭に自分ではない声が聞こえた。
(わらわの力が欲しいか?)と……。