誘拐犯
遥か上空から落とされ、なんとか着陸に成功した。地上に着き、初めて目にしたのは、平地に折れた角を持ち、全身ボロボロの1匹の白い馬だった。
「あれは……なんだ?」
リリィに聞いてみるが返事がない。
「っておい、聞いてんのかリリィ! あれはなんなんだ?」
「…………おおお!! うおおおおおお!! き、鬼雨! ユニコーンですよ! ユニコーン!」
リリィの断言と、見た目が自分のイメージしてた通りなので、間違いないのだろう。しかも興奮したせいでいつもの話し方と違う。
「リリィ、ユニコーンってそんなに珍しいのか?」
「ユニコーン自体はまぁまぁです。時々、見かけるレベルだね」
「だったら、なんでそんなに喜んでんだよ」
「子供だからですよ! ユニコーンの子供はまず、見かけません! 親が隠してしまうので……だから、子供がここに一匹でいること自体レア中のレアなんですよ! それに――」
このまま鬼雨は5分間、長々と説明を聞かされた。
「もう、いい! わかったから! それよりもあいつの怪我は治してやろう」
近くによるとユニコーンは震えていた。
「よっぽど怖かったんだろうな。よく見ると出血も酷い。おい、リリィ。お前の担いでるバックには何が入ってる?」
ボスから持たされたバックの中を開けると、救急用セットと腕時計が2個。あとは見たこともないコインと着替えしかない。
「あ、あのババァ! 覚えてろ!! ……って、それよりも傷の手当が先か」
震えるユニコーンを抑えながら、消毒したガーゼを当てる。可哀想だが傷が染みたのか鳴いている。手早く処置を済ませ、震える体に包帯を巻いた。
「優しいですね」
「ん? あぁ、まぁ、昔に似たような境遇だったからな……だから、子供にこんなことさせるのは許せねぇな」
鬼雨の記憶がチラつく。無残で無慈悲で残酷な過去を――。
「よし、もうこれで大丈夫だろ」
ユニコーンの手当が終わる。すると、ヒヒィーンと鳴いた。体の震えも止まり、今にも立とうとしている。
その時、遠くからユニコーンの鳴き声が聞こえた。
空中を蹴り、走っている。立派な角に大きな体。あれが本来のユニコーンなのだろう。
「あれは……親か? 子供を迎えに来たのか?」
リリィに尋ねてみた。すると――、
「ちょっと鬼雨! なんかこの子震えてますよ!」
猛スピードで角を向けてこちらに向かってくる。狙いは子供のユニコーンだった!
「ッツ……危ねぇ!」
子供のユニコーンを抱き、なんとか回避する。親のユニコーンを見ると、次の攻撃モーションに入っている。
「なんでこの子を狙うんだ?」
「多分、角なしだからですよ。ユニコーンは、角の大きさによって立場が左右します。見る限りあの親ユニコーンは……かなり上の方です」
再びリリィの説明が入る。が、鬼雨にはあまり理解できなかった。
「つまり……なんだ?」
「角なしの子供は、自分も弱いと思われるので処分しに来たんでしょう」
「…………」
今度は何故かしっくりきた。自分がそういう環境にいたからだろうか……。
「なるほどな……俺が大嫌いな決まりだ」
親のユニコーンが、攻撃を仕掛けてくるがなんとか回避する。
「止まらねぇな」
逃げならが考えるが、なんとも気に食わない。
ふと疑問が浮かび上がった。
「そういえば、なんでこんなところに子供のユニコーンがいるんだ?」
そもそもの疑問だ。会った時からボロボロ。そして、答えは違うところからやって来た。
「それはなぁ〜俺達が拐って来たからだよ」
と、足音が3つと低い声が聞こえてきた。