幸せだった日々
世界にはまだ解明されていないことが、いくつもある。その中のほとんどが妖怪や幻獣など人には見えない者がやっている。
例えば、いつの間にか傷ついているとか、見えないものが見えたりするなどは、まず間違いなく世界の裏側が干渉している。
そんな不思議な世界で、一人の少年が、悲しみと希望を抱きながら事件を解決していく物語である。
名前は一条 鬼雨。今年でようやく高校1年生だ。
親は海外で働いているため、現在は妹と二人暮らしで、毎日お互いを支え合って生きている。
「お兄ちゃん〜早くしないと遅れるよー」
妹のかすみが起こしに来た。カーテンの隙間からチラチラと目に入る光りが眩しい。それに加えて扉をノックをする音が騒がしい。
コンコン。コンコン。コンコンコンコンコン。
ノックの音が止んだと思ったら、静かに扉が開き──
「お兄ちゃんー! 起きてー!」
かすみが、持ってきたメガホンを使って、耳元で叫んだ。
「うるさぁぁい! やめてくれ、やめるんだ、かすみ! 起きるから静かにしてくれ!」
「あ、起きたね。朝ごはんは出来てるよ〜早くしてね」
かすみのうるさいモーニングコールで朝から疲れるが、気合を入れてベットから起き上がる。冬のせいか部屋の中は寒い。急いで制服に着替えてリビングに向かうと、かすみが先に食事していた。
「あ〜やっと来た! 先に食べてるよ〜 」
こんがりと焼けたパンにはバターが乗っており、離れていてもわかるほど、香ばしい香りが漂って来る。テーブルには、朝食が用意されていた。鬼雨も席について食べる。
「今日もうまいぞ、さすがは俺の妹だ。いつも思うが本当に上手くなったな。料理を始めた頃は火は燃え上がるわ、レンジは壊すわで本当に大変だったのにな〜」
「過去のことは忘れてよ〜お兄ちゃんのバカ。もう知らない」
フンと首を振ってすこし頬を赤く染めながら、パンを食べて一気にコーヒーを飲み干す。
「学校まで送ってくれたら許してあげる」
玄関に向かいながら許しの条件を提示してきた。
準備を済ませて外に出ると、かすみが自転車の後ろに乗っていた。
「早くしないと遅刻しちゃうよ〜」
自転車のサドルを軽く叩きながら早く送れと指示をだす。こぐと同時に抱きつくようにかすみが手を回してきた。豊富に実った胸が背中に当たる。
「……かすみ、動きにくい。離してくれ」
「い〜や〜だ〜。お兄ちゃんに引っ付くもん!」
鬼雨からいっこうに離れようとしない。だが、なぜか鬼雨も悪い気はしない。多分だが、鬼雨も重度のシスコンだ。
「なぁ、かすみ。俺に彼女が出来たって言ったら、どうする?」
「……………………す」
「え? なんだって?」
小さすぎる声で、よく聞こえかった。信号が赤色になり、止まったので聞き直した。
「殺す。お兄ちゃんの彼女を殺す。お兄ちゃんは私の物だもん! ねぇ、お兄ちゃん。その人名前は……なに?」
振り返るとかすみの目が今にも人を殺しそうな目だった。しかも、回してる手に力が入っていて、縛られている。
「か、かすみ。冗談だ。冗談」
「……え? 冗談? そう、よかったぁ〜」
目がいつも通りになり、明るくなった。
鬼雨にとってかすみはたった1人の最愛の妹である。だから、かすみに彼氏が出来たら同じ反応をするのだろう。
カゴに乗せているかすみの鞄を見ると、昔に買ってあげたルビーの玩具が付いてある指輪があった。
「まだ、こんなもの持ってたのか……」
「だって、それは初めてお兄ちゃんが───してくれたものだもん!」
途中、風が強く吹いたせいで聞こえなかった。
「え? なんだって?」
聞き返そうとした時、
「あ、お兄ちゃん! 止めて!」
自転車で中学校の手前まで送り届ける。先生にバレると色々と面倒だからと言ってすぐに降りる。
「おーついたー! ありがとう〜! 私のお・に・い・ちゃ・ん♡」
かすみは即座に行くと思いきや、少し歩いてこちらを振り向いた。
「お兄ちゃん〜! 愛してる〜!」
「あーはいはい。早く行かないと遅刻するぞ〜」
かすみが学校の中に入るのを確認する。ついでに腕時計で時間を確認すると8時20分を過ぎていた。
「これはまず過ぎる。俺が遅刻しちまう!」
鬼雨はかすみとこうした平穏な日々がいつまでも続くと思っていた。