金剛、払う
両手を広げた金剛の周りを囲うようにして、人相の悪い男達が散開していく。
「五人か……そんな人数で俺に勝てると思っているのか……?」
「ふん、ぬかせ! 野郎ども! かかれ!!」
「待てい!!!!」
金剛の一声で、男達の動きが止まる。
「なんだぁ? 命乞いか? 金目のモノがあるなら考えてやるぜ」
リーダーらしき男がそう言うと、周りの男達がくすくすと笑った。
「ふん」
金剛は来ていたTシャツを破り去った。
そして、次々とポーズを決めていく。
「な……なんだコイツ……妙な動きしやがって!」
「お頭……それにしてもすげぇ筋肉してやすぜコイツ……」
「だからなんだってんだ。こっちは刃物もってんだぞ」
金剛を囲む男達が圧倒される中、離れた場所から声が響いた。
先ほど男達に囲まれていた青年だ。
「あれは……きっと魔法に違いないっす!」
「魔法だとぉ!? ってめぇ命が欲しくてハッタリこいてんのか!?」
「俺は一回だけ大賢者様が魔法を放つところを見たことがあるっす。あれはきっと魔法を放つ前の詠唱っすよ!!」
「え、詠唱……」
男達が気圧され、息を飲み込む真ん中で金剛は体を動かし続けていた。
「ふん……何をごちゃごちゃと言っているのか知らんが、これはポージングだ!」
「ぽーじんぐ……? くっ……いったいどんな魔法なんだ……」
「更に詳しく言うならば、サイドリラックスからのダブルバイセプスを起点に既に六つのポージングを披露したのだ」
「サイドリラックス……!」
「ダブルバイセプス……!?」
「お……お頭ぁ……」
「くっ……ひるむんじゃねぇお前ら! 魔法を唱えている間に飛びかかれ!!」
「へ……へい!」
一人の男が金剛に飛びかかった。
しかし、次の瞬間に鈍い音がしたかと思ったら、その男は膝から崩れ落ちるように倒れた。
白目を向き意識を失っているようだ。
「馬鹿者! ポージングの途中だろうが!!!!」
金剛の怒号が草むらに響いた。
静寂が辺りを支配した。
ポージングは続いている。
「すげぇ……魔法だ……ダブルパイセプスっていうのか……」
先ほどまで涙を流していた青年の顔に笑顔が浮かぶ。
金剛の動きが止まった。ポージングが終了したのだ。
「ふん……気分がノッてきた。さぁかかってくるがいい」
首をゆっくり回し、男達を見据える。
「お……お頭……」
「く……一人ずつじゃねぇ野郎ども。一斉にかかれ!!」
「おう!!!」
その言葉を合図に男達が一斉に飛びかかってきた。
しかし金剛はその場から動かず、両の拳を顎の付近に持ち上げた。
ゴッ……ゴッ……鈍い音がするたびに、一人また一人と男達が倒れていった。
「くっコイツ強い……お前、いったい何者だ!」
「俺は金剛だ。体脂肪率は3%」
「コンゴー……。その名前覚えておくぞ! ずらかるぞ!」
「待ってください。お頭!」
失神した仲間を残して、二人の男が去っていった。
「あの……ありがとうございます!」
先ほど、男達に囲まれていた青年が金剛に駆け寄ってきた。
「無事か?」
「お陰様で……この男達はどうするっすか?」
青年は草むらに倒れ込んでいる男達に目を向けた。
「ふん……雑魚は放っておけ……それより……」
そこまで言うと金剛が膝をついた。
「だ……大丈夫っすか!!」
「カ……カロリーが……」
「カロリー……? カロリーってなんすか!?」
金剛の大量の筋肉はその維持だけで大量のカロリーを消費する。
そう、彼は二度目の餓死の危機に陥っていたのだ。