第四話:異世界生活好転、第二歩目
はじめてダリナとイヴォナのふたりとゲームを遊んだあの日から、僕らは日課のように同じゲームを遊んでいた。
たまに仕事が忙しくて僕が参加できないと、ダリナは決まって不満げな顔をして僕を見つめるのだった。
そして、僕の異世界生活が好転する第二のポイントであるあの日がやってきた。
その日も僕ら三人は同じゲームを遊んでいた。
ちなみに、僕が紹介したこのゲーム、基本的には「ピット」という名前で知られているゲームだ。
……知られている、と言うのは僕がこの異世界に来る前の、地球で、って事だけど。
この世界に転移してくる前に僕は何度か遊んだことがあって、シンプルで盛り上がるこのゲームを僕は好きだったから、よく覚えていたのだ。
その日は、町の酒場を兼ねているこの宿屋の食堂はかなり混んでいた。
酒場の客、食事に来てる宿泊客などの様々な声が飛び交っていた。
「おーい、こっちにビールくれよ!」
「ウィンナーとサラダ二つずつ注文だ!」
「……これが飲まずにいられるかー!」
「きゃっ! 触らないでくださいー」
こんな日はなにか仕事を手伝った方がいいんじゃないかという気分に
なることもあるが、だいぶ前に食器を割ってしまうドジをしてからと言うもの、食堂・酒場の仕事は手伝わないでくれと言われている。
というわけで僕、ダリナ、イヴォナの三人で例のゲームに興じていたわけだ。
「三枚!」と僕が交換を持ちかけ、
「二枚どう?」とイヴォナが別の提案をする。
「二枚、交換しよ!」ダリナがイヴォナの提案を受け、カードを交換する。
その時だった。
「おいお前ら、何やってんだよ!」
少し酔っているらしい、若い男が僕らの方に怒鳴るように大声を出した。
「ゲームだよ! とっても面白くて、素敵なゲームなの!」
ダリナが臆することなく男に答える。
「はっ、素敵ね、どうせガキの遊びだろ」
僕は嫌な気分になったが、表情に出さないように努めた。
『ガキの遊び』とは思ってない、大人でも楽しめるいいゲームだと思ってる。
でも、それを説明するのは難しいこともあるし。
「素敵だもん!」
ダリナが大きな声を出したので僕は驚いた。
「『ガキの遊び』じゃないもん! 誰でも楽しめるすごい遊びだと思うし! あなただって遊んでみたらその面白さが分かるよ!」
ダリナの剣幕に毒気を抜かれたようになる男。
しばし、男は自分の無精髭を自分の指で撫でていたが。
「じゃ、やらせてみろよ」
「うん! やってみてよ!」
ダリナはそう言ってから、僕とイヴォナの方を見て、
「いいよね?」
そう言った。
「僕は構いません」
この男がこのゲームを楽しいと思うかどうか、それは分からないけど、試してみる価値はあるだろうと思った。
「ケイ、このゲームは4人でも遊べるの?」
イヴォナが僕に聞く。
「はい、8人ぐらいまで大丈夫です」
「そうなんだ!」
ダリナが新発見に驚いたような声を出す。
そんなことがあって、ヤーヒムと名乗ったその男を入れて四人でのゲームが始まる。
「3枚!」
ダリナが先陣を切って宣言する。
「3枚いいよ!」
僕が交換を承諾、実行。
「……2枚よ」
イヴォナが交換を持ちかけ、
「2枚交換しよ!」
ダリナがまた交換する。
「おい、俺の番はいつ来るんだ?」
「ああすいません、このゲームに手番は無いんです、誰でもいつでも交換を持ちかけていいんです」
「なにっ! 聞いてないぞ!」
「ケイはちゃんと始める前に説明してたよー!」
ダリナが僕を弁護してくれた。
「そうだったか? よし、じゃあ3枚! 俺の3枚を交換しろ!」
「3枚、いいわよ」
イヴォナがヤーヒムとカードの交換をする。
「うほーっ!」
ヤーヒムが歓声を上げる。交換したカードで数字が少し揃ったのだろう。
「じゃあ、次は2枚だ! 俺の2枚交換しろ!」
いつの間にかヤーヒムの顔から不機嫌な色は消えていた。
「交換しちゃいけないような気がするー」
ダリナが鋭い直感を発揮していた。
僕も同意見だった。
今、彼の交換提案を受けると彼が9枚の手札を揃えて勝利する可能性が濃厚、そんな雰囲気が漂っていた。
「ダリナ、1枚どう?」
「うん、交換しよー」
イヴォナの提案をダリナが受けて交換。
「1枚どうですか」
僕の提案を、
「1枚、よくてよ」
イヴォナが受けて交換。
「ちょ! 俺を無視するな! 交換しようぜ!」
ヤーヒムの声は楽しさを感じさせるそれになっていた。
その後少しゲームが進むと、イヴォナが優雅なタッチでテーブルの中央を叩き、勝利を宣言した。
「なんだよなんだよ!」
手のひらを額に当てて天を仰ぐヤーヒム。
「よし、もう一回だ! 文句はねえな?」
「『ガキの遊び』じゃなかったでしょ?」
再戦を要求するヤーヒムにダリナが軽く詰め寄る。
ヤーヒムはちょっと虚を突かれたような表情になってから、
「いやいや、もう一回遊ばないとそれは分からないな!」
そう言ったが、その楽しそうな表情を見れば、彼がこのゲームに否定的な感情を持っていないのは明らかだった。
何度もこの4人でゲームを重ねているうちに、近くの神殿の鐘が鳴った。
「もうこんな時間!? いけない、帰らなきゃいけない時間過ぎてた!」
ダリナが慌てて立ち上がる。
「残念だな、もうお開きか!」
ヤーヒムは上機嫌ながら、本当に残念そうにそう言った。
「機械が会ったらまたやりたいぜ」
そういい残して、ヤーヒムは自分の宿泊している部屋に戻っていった。
「ねえ、ケイ」
「はい」
「このゲーム、4人だと複雑になって、また面白くなるのね」
「そうですね」
僕が答えると、珍しいことにイヴォナがクスッと笑った。
「どうしましたか」
「別に。ただね、今日は……いや、いつももだけど、今日はだいぶ楽しかった」
「良かったです」
「あなたがうちの従業員になってよかったと思うわ」
イヴォナは照れ隠しのように、額にかかる銀の髪を指でもてあそびながら、穏やかな笑顔でそう言った。
胸を突かれるような。
美しい姿だと、急に僕はそう思った。
翌日。
僕は仕事時間中に、マルツェルさん、つまり宿屋の主人に呼び出された。
「何でしょうか」
僕は恐る恐る聞いた。
「ケイ、お前、昨日の夜、ゲームでも遊んでいたのか」
「はい」
これはもしかして怒られる流れだろうか、僕は密かに覚悟をした。
「うちの宿泊客も参加したのか」
「はい」
「ふむ」
目を閉じて何かを考えるマルツェルさん。
「あの、問題だったですか」
恐る恐る尋ねる。
「いや、そういう訳ではなくてだな……ケイ、お前な」
「はい」
「そのゲームも、お前の仕事ってことにしてみないか」
思いがけない言葉。
僕の異世界生活の好転、その第二歩目だった。




