第二話:僕がこの世界に伝えた、一つ目のゲーム
僕は手渡されたトランプのようなカードを手に、どのゲームを紹介しようか少しだけ考えた。
「新しいゲームが遊べるなんて楽しみー」
ダリナはあどけない笑顔をこちらに向けている。
(期待に応えられる、楽しいゲームにしないと)
そう思っていると、テーブルの向こう側のイヴォナが口を開いた。
「あ、言うの忘れてたけど、あまり時間がかからないゲームにして? それと、ルール説明にも時間がかからないゲームがいいのだけど」
「わかりました」
僕は答える。
丁寧な言葉遣いになるのは、僕がこの宿屋の従業員で、イヴォナが宿屋の主人の娘だからだが、それだけじゃないかな。
イヴォナのお嬢様的な雰囲気が僕にそうさせるのかもしれない。
僕はどのゲームを遊ぶか決めて、カードを選り分け始めた。
「何してるの?」
ダリナが興味津々といった感じで僕を見ている。
「ゲームに使うカードを抜きだしてます」
「?」
ダリナは小さく首をかしげる。
カードセットの一部を使わないでゲームをするという発想がなかったのかも知れない。
「手伝うわ。どのカードを抜きだせばいいの?」
イヴォナが僕のほうに手を伸ばした。
「今回は3人だけで遊ぶので、1から3のカードだけを使います」
僕はそう言ってカードの束の半分を渡した。
「へえ。それで本当に面白いゲームになるのかしら」
イヴォナは首をかしげながらも渡されたカードの束から、1,2,3のカードを抜きだしていく。
「ダリナも手伝うー」
ダリナが僕のほうに手を伸ばしてきたので、ぼくはまた手持ちのカードの半分をダリナに渡した。
ほどなくして、テーブルの上には9枚ずつの「1」「2」「3」のカードが並ぶ。
「で?」
イヴォナが聞く。
「この27枚を切り混ぜます」
僕はカードを集めてシャッフルしながら、ゲームのルールを説明する。
「このゲームでは、カードの数字だけを見ます。カードのマークに意味はありません」
「うん!」
ダリナが頷く。
「ゲームの最初に9枚の手札を配ります。最初に9枚の手札を全部同じ数字にした人が勝ちです」
「ふーん?」
「ゲームが始まって自分の手札を見たら、交換したいカードを決めて、交換したい枚数をいいます」
「交換したい枚数?」
「枚数をいうの?」
ダリナは考えるような顔になっている。
「そう、枚数をいいます。自分の手札から3枚交換したいなら『3枚』みたいに言います」
「同時に何枚でも交換できるのね?」
イヴォナが聞く。
「そうです、ただ、一度に交換するカードは全部同じ数字でないといけません」
「ん? どういうことー?」
首をかしげるダリナ。
「例えばこういうことです」
僕はカードを適当に並べる。
並べた9枚のカードは、
1 1 1 1 2 2 2 3 3
という内訳。
「これが僕の手札だったとして、『1』をそろえて勝つつもりだったとします。つまり『2』か『3』を交換したいわけだけど、この時『2 2 2 3 3』の五枚を交換に出すことはできません」
「『2 2 2』の三枚だったらいいのね?」
と、イヴォナが銀色の前髪をかきあげながら言った
「『3 3』の二枚でもいいんだね?」
ダリナが嬉しそうにそういった。
「そうです。あと、『2』は3枚あるけど、『2 2』みたいに二枚の交換もできます」
「じゃあ、じゃあ、『3』は2枚あるけど、『1枚』って言って、『3』を一枚だけ交換してもいいの?」
「そうです」
ダリナの質問に答える。
「ふーん……」
イヴォナは早くも何かを考え始めているみたいだ。
もしかしたら、どうすればこのゲームに勝てるか、考えを巡らせているのだろうか。
まだ手札も配られてないのに。
「ルールはこんな感じです。質問はありますか?」
「ん、ない……かな」
軽くうなずくイヴォナ。
「むー。大丈夫だと思う」
ダリナは少し不安そうだ。
「あとはやってみればわかると思います、じゃ」
僕はカードをまとめ、切り混ぜて、裏向きに9枚ずつ配る。
「スタートの合図で自分に配られた手札を見てください。あ、それと、手札がすべて同じ数字にそろったら、テーブルの真ん中を軽くたたいて、『そろった』って宣言したら勝ち、です」
「分かった」
「いいよー」
「では、開始!」
配られたカードを確認する二人の少女。
僕もほぼ同時に自分の手札を確認して、手の中で数字順に並べる。
1 1 1 1 1 2 2 2 3
これが僕の手札だった。さっき例に出したものと似ている。
『1』 が5枚もあるので、これをそろえるのを狙おう。
「3枚!」
僕は宣言した。
「あなたの番からなのね」
イヴォナがちょっと不満そうに言ったので、僕はルールの説明が足りなかったことに気が付いた。
「ごめんなさい、ルールの説明が足りなかったです。このゲームに自分の番とかいうのはないです。いつでも、『2枚』とか『3枚』とか言って交換を宣言していいんです」
「へえ、そうなの」
イヴォナが感心したような表情になる。
「え、じゃあ、じゃあね、ダリナは『1枚』!」
ダリナが負けじと勢いよく宣言する。
「……ま、待ちなさい、ええと、『2枚』よ!」
イヴォナも宣言した。
「『1枚』ですか」
僕は一瞬考える。
僕の手札は、
1 1 1 1 1 2 2 2 3
という状態。
自分の手札を『1』に揃えたい僕は、『2 2 2』の部分を交換したくて「3枚」と宣言したわけだけど、一枚だけある『3』を交換するのも悪くない。
「じゃ、一枚で交換しましょう」
僕は自分の手札から『3』を裏向きにしてダリナのほうに差し出す。
ダリナは一瞬だけ戸惑ったような感じだったが、僕に向けて嬉しそうに一枚のカードを渡した。
それを見ながらイヴォナが少し不機嫌そうな表情になる。
自分が置いて行かれているような気分になっているのだろう。
僕は交換したカードを確認する。それは『1』だった。
これで僕の手札は、
1 1 1 1 1 1 2 2 2
となる。
もし、僕が次に「3枚」と宣言して『2 2 2』を交換に出して、交換したカードが『1 1 1』の3枚だったら、僕の勝ちだ。
まあ厳密にいうとその交換で交換相手も9枚の手札がそろった場合は僕の勝ちとは限らなくて、その場合は早くテーブルの真ん中をたたいて勝利宣言したほうが勝ち、なんだけど。
ここで僕の心に迷いが生じた。
このゲーム、手加減せずに勝っちゃっていいのかな?
ゲームは真剣勝負、常に全力で勝利を目指すのが礼儀、っていう考えの人もいる。
僕のその考え方はわかる。
でもこの場合は、どうなんだろう。
時間にして一秒にも満たないわずかな間、僕は考えた。




