催花雨で咲く頃に。
三作目です。
今回も恋愛系です。
名前を変えたくて考えていたんですが、その時ふと見つけたのが「催花雨」という言葉。意味を調べたらとてもしっくりきたのでそのままその名前へ変更しました。
意味を調べた時に一緒にこの物語が浮かんだので書きました。
たまには友情系てきなのも書こうかな?と考えています。
相変わらず未熟野郎ですが、よろしければ最後までご覧ください。
春、雨が降っている中、僕、河原 颯は立って傘をさしながら、ただひたすらに桜を眺め、止む頃には家に帰り、というのを桜が咲いている間ずっと繰り返す。毎年だ。
多分今年もいないだろう。そう思いながらも来てしまうのはきっと、僕はまだ鹿野上 花雨のことが好きだから。
春って聞いて思い出すものは何だ?
昔、そう問われたことがある。僕は真っ先に、催花雨でと答えた。彼女が好きなものであり、僕が好きなものでもある。そして、彼女と会わなく、いや正確には会えなくなってから十数年間が経った今現在、僕が唯一彼女と再開できるかも知れないと希望を捨てずにいるのも、この催花雨のせいだ。
彼女との関係を幼馴染みと言えるのかはたまたそうでないのかはわからない。よく、幼馴染みとは小さい頃からずっと一緒やら親同士が仲良いやら色々あるが、僕と彼女は違う。
小学校は一緒で、僕と彼女共に丸々六年間はいたけれども小五で初めて同じクラスになった。僕のいた小学校は二年に一回しかクラス替えがないため、六年までは一緒だったけれど中学になった時には彼女はもうその町にはいなかった。それに、僕の親は彼女の親を知らないし、彼女の親も僕の親を知らないだろう。だけど、仲が良かったのは事実だ。当時、小学校で上級生になったということもあってかやはりクラスではもう男女が仲が良い人はそんなにいなかったが僕たちは全然そんなことは無く、毎日一緒に喋って学校では何をするにも一緒、と言って良いくらい。
そんな彼女と過ごした時間は、短かったけれどとても楽しかった。
***
「あー…みんなとクラス離れたぁ!」
クラス分けの表の前で煩いくらいに賑わう人混みを掻き分けて三、四年と仲が良かった友達三人の前で喚く。
「まぁまぁ、合同授業とかあるだろうし。」
「そうだけどさぁ!」
他はみんなして二組のくせに僕だけ三組。意味がわからない、と言った風に嘆いた。
「ほら、教室前までは一緒に行けるから。」
と、俺を引っ張り歩き出す。
いよいよ教室前まで着いて、友達は「じゃあね」と楽しそうに話しながら別の教室へ入っていった。
一呼吸し、横開きの扉を開けると、既にクラスメイトらしき人達はグループで固まっていて実を言うと人見知りが激しい僕が入れそうなわけでもなく、座席表を見て仕方なく席に着いた。ぼんやりとしていると、隣の席の椅子が動いて、そこに長袖の服を着た女の子が座った。
どうやら彼女も乗り遅れたらしい。
「えっと、おはよう?」
「…おはよう。」
「河原くんって言うの?よろしくね。」
座席表を見る時に隣を確認していた様だ。まあそれは僕もなのだが。
「いや、名前で呼んでいいよ。君付けもなしで呼び捨てね。そのかわり、僕も名前で呼んでいい?鹿野上さん。」
僕がそう言うと、驚いたような顔をする。
「え、今くらいの歳の人達って名前で呼ばれるの嫌なんじゃない?ひやかされたりするし…」
確かにそうだ。でも、仲良くなりたいと思っているのに名字で呼ぶのは何か嫌だった。
「いいじゃん、お隣さんなんだし。」
すると彼女は「よろしくね、颯!」と笑った。
「ん、よろしく、花雨。」
そこからは色んな話で盛り上がって、気が付けばチャイムが鳴り、先生も来ていた。
日に日に仲良くなっていって、放課後もよく遊ぶようになっていった。
そんな中、僕はある事に気がついた。
「花雨?その傷…どうしたの?」
彼女の真っ白な彼女の肌には夏服から覗かせた青色があった。その青色がアザだと気が付き、彼女に問う。
「あー、なんでもないよ。少し机で打っちゃったんだ。あはは」
苦笑いしている彼女がいった言葉を、幼かった僕は直ぐに飲み込み、「そっか…気を付けてね?今日は何して遊ぶ?」と話を変えた。
それから、彼女の傷は増えていった。さすがにおかしいと思ったが何を聞いても、何度聞いても「なんでもないよ」と言う彼女。苛立ちがつのっていった。
彼女とあってから一年後の春、僕はついに放課後の学校でキレた。
その日はそう、雨が降っていた。
「何にも話してくれないの?!僕達、友達なんじゃないの。僕ってそんなに頼りないの?」
そんな僕に彼女は全く関係のないをことを呟いた。
「催花雨って、綺麗だよね。」
と。
「ねぇ、帰り、ちょっと寄り道しよっか。」
その言葉に、僕はまた怒りそうになったが、そのまま彼女に着いていった。
外は雨が降っていて、傘をさして下を向きながら、隣を歩く。
「あのね。私、兄からいじめられてるんだ。」
急に立ち止まった彼女はそう、呟いた。かろうじて聞こえるか聞こえないかの大きさだったが、僕にははっきりと聞こえた。思わず目を見開いて彼女を見る。そんな彼女は、まっすぐに前を見ていた。
「お前はいらないって、殴られたりしてね。お前がいるから俺は愛されない。なんでお前はそんなにいろんな事ができるんだよ、ふざけんなってさ。いらないことくらい知ってるよ。存在しているだけで人を怒らせちゃう、私なんか生まれてこなきゃよかった。」
前を向きながら、彼女は泣いていた。
「そんなことない!」
気が付けばそう叫んでいた。
「僕は花雨と会えてよかったよ。だって、会えなかったら多分僕は去年も今年も、ずっと一人だった。友達作るのとかあんっまり得意じゃないからさ。
花雨と遊ぶの、すっごい楽しいし、話すのも楽しい。花雨がいてくれるだけで、楽しい。
花雨と会えて本当に良かった。
だから、その……
生まれてきてくれて、ありがとう。」
幼いながらにしっかりと伝えた。僕が思っていることを全部。
そしたら、彼女は、涙を一滴、二滴と流しながら笑うんだ。
「そっか、ありがとう。ありがとう」って。
そんな彼女が、ただ純粋に綺麗だと思った。
泣いている彼女を横目に、傘を上にあげて真っ直ぐ前をみた。
「わぁっ。」
目の前には綺麗な桜。しとしとと降る雨の中で佇む桜は本当に綺麗で、思わず声をあげた。
「綺麗でしょ。私のお気に入りの場所なんだよ。この桜の木も、すっごい好き。」
好きなものを知ってもらえたのが嬉しいのか声を弾ませる彼女。
「そういえばさ、さっき言ってた、サイカウ?って何なの?」
ふと気になり、聞いてみる。
「催花雨って言うのはね、三月下旬から四月上旬に降る雨のこと。冬で枯れた植物達の恵みの雨。その雨で、花を咲かすから催花雨って言うの。
桜と催花雨はとても綺麗でね。でも、桜の花が散ってしまう可能性もあるから、"美しくもはかない雨"ってこと。」
一旦口を閉じて、彼女は言葉を続けた。
「私も、催花雨みたいな存在になりたかったなぁ。絶対に、なくてはならない存在に。みんなから必要とされる存在に。」
なんていえばいいのかわからなくて、開いた口をまた閉じた。
「さ、帰ろっか。」
首を縦に降って頷き、彼女の後を追った。
時が流れるのはとても早くて、気が付けばもう卒業式。卒業式なのに曇っていて、その日は雨が降りそうだった。
表彰やなんやら、色々なことが終わり、「友達と帰るから」と事前にいっておいたため、親も帰っていった。
「ねぇ、花雨。桜、みに行こう。」
「え、えぇ?ちょっ、」等、声を上げているが放っておいて傘も持たずに彼女の手を握り駆け出す。
あの桜の木の下についた時には雨は既に少し降り始めていた。
「僕さ、花雨の事が好き。だから、付き合ってくれませんか?」
心臓が大きな音を立ててなっているのがわかる。顔は暑いし、なんだか顔を合わせづらい。
「…ごめんね。付き合えない。
ずっと言ってなかったけど、私、今日、
この町から引っ越すの。だから、これからはもう会えないんだ。」
一度も聞いた事がなかった衝撃の事実に、「え、」と声をもらす。思わず、涙がこぼれた。
「いつ帰ってくるかもわからないし、ここからはとても遠いところ。
…だからさ。いつかまた、この桜の木の下で会おう?催花雨でこの桜が咲く頃に。催花雨の中、この桜が佇む頃に。」
そう言って微笑む彼女も何処か泣きそうな顔をしていた。
「絶対だからな?絶対に、絶対だからな?!」
涙が溢れてきて、僕から見える景色を濁す。
「うん、絶対に絶対に絶対。」
泣きじゃくる僕をあやす様に優しく言った。
前とは違って、今度は泣く僕を横目に、まだ蕾がいっぱいの桜の木を眺める彼女。
「ほら。泣き止んで。桜が綺麗だよ。」
彼女が指差す方向を見てみると、そこには一輪だけ咲いている桜が催花雨の中で揺れていた。
「私も、颯の事が好きだよ。だから、絶対に会おう。今回は泣いててもいいから、次会う時は、笑顔でね。」
「うん、わかった、次会う時は泣かない。次会うまでも泣かない。」
「よし。……それじゃ、荷物の用意とかしなくちゃいけないからさ、さようなら。」
そう言って離れていく彼女に、叫ぶ。
「催花雨で桜が咲く頃に!また、会おう。何年かかっても、待ち続けるから!
またね。」
振り返った彼女はいつもと同じ様に笑いながら「またね」と返してくれた。
***
今年の春ももう終わりに近づいてきて、桜の花弁はもうほぼ散りかけている。
きっと今年は明日で最後だろうと思いながら、催花雨がやんできたので帰ろうと向きを変えて歩き出す。
こんなことは考えたくないが、もしかしたらもう死んでしまってるのも知れない。自殺かも知れないし虐殺死かも知れないしはたまた事故かも知れない。いつ会えるかも分からないのに、会えないかも知れないのに、「また、来年くるかぁ」と欠伸をしながら呟く。
「来年こそは会えるよな。」
それはきっと自分に向けた言葉。そう暗示でもかけなければ壊れてしまいそうになる。
中学生の頃から毎年待ち続けてもう大学生。
"来年は。きっと来年は。" そう願い続けてはきたけれど、もう限界だ。
「いつ、僕達は会えるんですか。催花雨で咲く、あの桜の下で、雨の日に。そう言ったのは君じゃないか。」
目頭が熱くって、どうしようもない気持ちになって、少しずつ涙を流した。量はどんどん大きくなっていくばかりで、一向に泣き止めそうになかった。幸い、まだ雨がほんのり降っているの中傘をさした自分は周りの人からは見えないだろう。でも、泣き止まなきゃ。泣かないって、約束したじゃんか。
そう言い聞かせ、上を向く。
深呼吸を大きく、一回。そしてもう一回、と何度も繰り返す。
やっと落ち着いて涙も止まったから、今度は正面を向いて歩く。
その時、ふと視界に入ったすれ違った女性を、二度見三度見した。
だって、その人があまりにも、彼女に似ていたから。すっかり背も伸びていたけれど、なんとなく、彼女の面影があるように感じた。
固まった僕など露知らず、その女性は、あの桜の木の方向へ進んでいく。僕達が約束した木の下へと。
彼女じゃないかも知れない、偶々似ている人だろう、別に彼処は誰でも行くような場所だし…
色々な考えが浮かんだが、遠ざかって行くあの人を。小さくなっていくあの人を見て、あの日を思い出してしまった。
傘を落とした。けれども構わずに、走った。勘違いかも知れないけれど、彼女に会いたいって気持ちが強かった。別に勘違いでもいい。もしかしたら彼女かも知れないって可能性を捨てることなどできなかった。
だから僕は、ただ走った。
-fin-
読んでくださりありがとうございました。
やっぱり、最後を読者様の解釈に任せようとしたらどこか曖昧になってしますね...
今回の解釈は私が考えられるもので五つ。
きっとそれ以上にもあると思います。解釈に正解、不正解はありません。ですから読者様が思ったエンドがその方にとってのエンドです。
一つ目は喜劇。
最後に追いかけた女の人が花雨で、二人はめでたく結ばれて結婚。
二つ目は悲劇。
最後に追いかけた女の人が花雨ではなくて、また来年も、再来年も、とずっと待ち続ける。
三つ目も悲劇。
追いかけた女の人は花雨だったけれど、彼女は自分のことを忘れていて、素敵な家庭を築いていた。
四つ目は喜劇。
二つ目と似ているけれど、年をとって意識が朦朧とした中、最後に力を振り絞り桜の木の前までいく。すると幼い姿の彼女が桜の木の前で座っていて、そのまま一緒に天国へ行く。
五つ目はよくわからない。
走り出したけれど結局、声をかけられず過ぎ去る彼女を見つめ、そのまま家に帰りそのことを一生悔やむ。
ん〜、もう少し先まで書いても喜劇悲劇で分けられるような小説をかきたいけどできるかなぁ。今度作ってみるか。
ここまで、後書き含め読んでくださった方々、本当にありがとうございました。