カナダからの手紙
大好きなナンシーへ。
日本に帰って、ようやく就職できました。ナンシーはどうですか。カナダは今、一番冬が厳しい季節ですね。東京も寒いです。
ところで関西空港(KIX)からトロントへ直行便ができましたね。
今度、休みをもらったらそれでまたナンシーの家に遊びに行こうと思います。
もちろん添乗ついでに寄りたいけど、まあ、冬の期間はだれもカナダにはいきたがらないからあんまり期待しないで。元気で。 十二月十日 メリークリスマス 愛してる。 ヒロ
ヒロ、元気ですか。ナンシーは元気です。日本語もだいぶ上手になって手紙も書けるようになったけど漢字だけは私には芸術にしか見えません。日本語学校にも通っていますがとても難しい。でも頑張ります。いつかヒロと日本で暮らしたいから。今日、トロントはマイナス八度です。でも、いつもの年よりは寒くないです。リスやガチョウは元気に飛び回っています。私より元気です。日本はどうですか。年が明けたら遊びに行きますね。ヒロに会いたいです。 メリークリスマス 愛してる。
20日/12月 ナンシー
1994年、僕は日本に帰国した。1年バイトしてようやく稼いだお金を全部使って留学したけど、帰ってきてみると日本は空前の不況の中。就職したといっても日給六千円の海外旅行の添乗員だった。
この年、旅行業界は空前の不況だったが、関西国際空港と円高のおかげでようやくお客さんが帰ってきたところだった。恋人のナンシーとはお互いどちらの国に暮らすか決めないまま結婚の約束だけをして準備をしていたが、あっという間に年があけ1995年になった。
そのナンシーが東京に遊びにくるという。期待と不安でいっぱいだったが結論はいまは出さずにいよう。会えば分かることだ。
そんな僕に関西国際空港勤務の事例が下りたのは1月の15日のことだった。