第10話 いっしょに
――惨劇のカタストロフが最凶の怪人だと知ったのは、奴が自分の身体を取り戻した時なわけで。
――里原準としてのオレと、裏人格としての惨劇が初めて出会ったのは、そう、肌寒い病院の中でだった……。
◆ ◆ ◆
【最終戦争終結後。人間界】
『失せろ』
オレの口から飛び出したのは、オレの言葉ではなく俺の言葉だった。
『どのツラ下げて来やがった。てめえ、殺されたいのか』
オレは眠かったから、病室のベッドの上でなんともなしにやりとりを聞き流しつつまどろんでいた。口は惨劇が使っているし、目も顔の筋肉も、今はあいつの支配下にあった。
当時のオレではとても使おうとは思わないような、眉の間を寄せる筋肉を惨劇は酷使して誰かを睨んでいた。相手は黒いローブに身を包んだ背の高い大人だ。
「……鴉天狗の息子……大きな傷跡を残してしまった」
『失せろって言ってんだ! こいつの身体じゃなかったらてめえを粉々に擂り潰してるところだ!』
「……だな。ただ、一目見ておきたかった。惨劇、君と彼の、姿を」
オレはむしろ喚く惨劇の方を鬱陶しく思っていたかもしれない。
大人の事情とかはわからないから、とにかく静かに寝させてくれと思っていた。カラステングだの言われたところでピンとも来なかったし、傷跡と言われても傷なんか負っちゃいない。
惨劇が喚く度に、どういうわけかオレの疲労度が増して息をするのさえ苦しくなっていった。
『チィ、まだ身体が拒絶反応を示しやがる。さすがに子供の体力じゃ無理があったもんな』
「……人格の共存、か。そうまでして君はこの子を守ろうと」
『てめえには関係の無い事だ……いいから失せろ。とっとと失せろ。俺の怒りでこいつの身体に負担が掛かってるんだ屑野郎……!』
惨劇はなんだかすごく我慢しているみたいだった。
オレにもその我慢が伝わってきて、惨劇は凄い奴なんだなあと思っていた。オレだったら絶対に耐えられない。泣いて叫んで、駄々をこねて暴れて、そうやって我慢を発散させるだろう。でも惨劇はぐっと堪えて、きっと悔しくて泣きたいのだろうけどそれも堪えて、偉いと思った。
「きっとここで私が謝罪の言葉を述べても、もはや何を言っても、君の神経を逆撫でるだけだろう。私自身、言葉が見つからず安易に口を開く事すらままならない。」
『許さねえ……』
「構わない……」
『俺はてめえを許さねえ……!』
ローブの大人はもう何も言わず、オレ達に背を向けて部屋を出ようとしていた。
『絶対に、殺す……! 確実に殺す……必ず殺しに行く……! 俺は許さない。てめえを許さないからな!! ギル・スカルヴ―――――!!』
惨劇の怒号は大きすぎて、あんまり覚えていない。けれどすごく怒っていて、あの黒いローブの大人は嫌な奴なんだということはわかった。
だからオレもなんだか無性にイライラしてきて、惨劇の怒りが少し移ったようだった。
「今の人は?」
オレが惨劇に問うと、あいつは言葉を濁して『二度と会う事はない奴だよ』と教えてくれた。
零から始めた矢先に、幸先の悪い事だとぼやいたりしていた。
急に静かになった病室はもの寂しくて。寝たかったのに胸が締め付けられそうな想いが芽生えた所為で眠気もどこかへと行ってしまった。
たまに様子を見に来る看護婦さんもあまり好きじゃあなかった。
惨劇と話していると、どういうわけか怒られた。
聴診器を首に下げたお医者さんもやってきて、一緒に白衣を着た男の人も付いてきたりした。
今日は惨劇と何を話したのか、惨劇とは誰の事なのか、惨劇は友達なのか、惨劇の性別は、惨劇と知り合ったのはいつなのか、惨劇はどんな――人格なのか。何度も何度も。毎日毎日。そればかりを訊いてきた。白衣の問いに、全部惨劇が応えていたのが面白かった。
――“なるほど。そのサンゲキちゃんは、聡明且つ耽美であり、海より深く空より広い心を持った、神々しき光りをイメージとして顕現させる人格。ということか”
白衣の(精神科医とか名乗った)男が、とても満足そうに、とても真剣にそう言って頷く姿を見た途端……病室の中は大爆笑で包まれていた。気分を害した白衣の男は二度と来なくなり、せいせいした。
そうやっていろんな人間をからかいながら、オレと惨劇は暇な病院暮らしの日々を潰していたのだ。
『なんだ準、ニヤニヤして。ご機嫌か?』
黒ローブに気分を害された惨劇が、思い出し笑いをするオレに絡んできた。
「ううん。むしろご機嫌斜め」
『そうか、俺と同じだな』
「うん」
二人のどちらが吐いたとも知れない一つの溜息。
惨劇は膝を叩いて『よし』と気合を入れた。
『散歩にでも繰り出すかあ』
まあ日課のようなものだった。気分転換の意もあったのだろうが、惨劇はよくオレと歩きたがった。
この頃はそれが何故かはわからなかったけれど、何年後か経った時に“お前の歩く速さ、歩幅、リズム。その変化を感じていたかった”とか言っていた。
病院ってのは嫌いだ。薬品のツンと鼻を突く臭いとか、どこを見ても真っ白な廊下とか。病院が嫌いだから、この臭いや景色も嫌いになった。早くこの場から去りたいと訴えても、惨劇はもう少しだけ我慢しろと言う。身体のどこにも異常があるとは思えないのに。
歩きながら、いつもならこの不平をぶつけるところだけど、黒ローブの男と話した後の惨劇は機嫌が悪かったので黙っておいた。
廊下を歩いていると、見知った顔の若いナースが向かい側から歩いてきた。
「あら準くん、今日も散歩?」
『うるせえブス』
惨劇はすこぶる機嫌が悪かった。
まあ……いつもの事……なので、ナースも苦笑いするだけですれ違って行った。言ったのはオレじゃないけど。
そしてこの日の惨劇は一味違い、すれ違ったナースの背中に追い討ちをかけた。
『ヘイ! ブスナースバスガス爆発!』
意味のわからない追い討ちだった。
だがナースは悪口を言われたと気付き、鬼のような形相でこちらに振り返った。足が震えた。
「……」
『あそこのナースはよくガキ食うブスだ』
「コラアアアアアアア!」
『逃げろ準!』
走るのはオレの役目らしい。
「廊下は走らなーい!」
聞こえない振りをして逃げた。
病院の外に出て、中庭に着いた時にはかなり息が上がっていた。
惨劇はあのナースが好きじゃないようだ。聞けば女の直感ってやつだそうな。結構都合のいい言葉だと思う。
『クハハハハ! あー面白かった。準は女の子にあんな言葉を使ってはいけないぞ』
「えええ……」
『所謂、反面教師ってやつだな。うん』
「はんめんの、先生?」
さっきのナースの表情を見た事もあってか、なんとなく鬼の仮面を被った先生を思い描いた。
惨劇の欠伸と、建物の間を貫いて吹き抜ける風。
周りは白くて、空は青くて。
そんな視界の中に一点、黒いものが入った……。
◆ ◆ ◆
「へーい、準くーん? まだ寝てるのー?」
「……むう」
目をこすり、上体を起こす。
ベッドの横に死神が立っていた。
すごく顔の皮膚が痛い。多分あれだ、コイツ自分の髪の毛を鞭にしやがったな。
周囲を見回し、ここはオレの部屋だと認識。そうか、どうやら帰ってからすぐに寝てしまったらしい。
部屋の電気を付けっぱなしにしていたから気づくのが遅れたけど、外が暗い。うわあああ夜だああああ。
「すまん死神、すぐに夕飯を……」
「できてるぜい!」
「……へ?」
両手を腰に当てて胸を張る死神。
「作ったのか?」
「イエス!」
「マジで?」
「オゥ、イエス!」
ほー。
「おやすみ」
「イエス! あ、え? ヘイ、ヘイヘイ、ヘ……え、ちょっと本当に寝るの!? おい、おーい!」
お前は一人で作らせたらトンデモ料理が大量生産されるからな。
「起きれー! 準くん起きれー!」
「……」
オレまだ死にたくないもん。
「……起きぬか。起きぬのか準くんや」
「……」
「《Crush to DEATH(ver.死神)》!!」
「ぐはあああああああああ!」
死神は腹に強烈な肘打ちを入れてきた。
ていうかどっかの最凶の技を、まさかの自分アレンジで繰り出しやがった。
「起きた?」
「おう。起きた」
腕を掴まれ、部屋から引きずり出される。
その時……オレは不思議な感覚を受けた。
今までになく強い、引っ張る腕の力。死神であれど弱い少女だと思っていたこいつの、どこか頼もしいような、芯の入った強さ。
怠惰で頼りなくだらしなく、オレの腰にぶら下がっていたあの頃の死神は……もう居ないんだな。
眠っていた時間が長かったからなのか? こいつの著しい成長がよくわかってしまう。
◇
「おいしい?」
満面の笑みで目の前に座り、覗きこむように顔を窺ってくる。
オレはそんな死神の顔を見ないように、視線を落としながら口を動かしていた。
驚いたな……。
美味い。
「よくここまでできるように、なったもんだ」
ぽろりと零れた一言の感想。
この一言は死神をとても喜ばせたようだ。
「初めて! 初めて準くんに料理で誉めてもらったよ!」
伏せた目を上げると、頬を高揚させて笑う死神の顔がとても愛らしかった。
「ああ……大したもんだよ。死神」
本当に大したもんだ。
これなら少しくらいオレが居なくても、十分にやっていけるだろう。心も身体も、いろんな技術も、目を見張るほど成長したんだもんな。
「へへっ」
死神は金髪を手で押さえて顔を寄せ、キスをした。
「全部準くんのおかげだよ」
「死神……」
……話そう。
今のこいつなら、きっと大丈夫。
オレからのキスを求める死神を離し、向き合う。真剣な表情で見つめるオレの気持ちを察したのだろう、死神は一度残念そうな表情をしただけで座り直した。
「あのさ、話があるんだ」
「話?」
「オレとお前の、これからについて」
死神の表情は明るいままだ。
「うん! 準くんも冬音さんと同じで、地獄旅館に勤務してくれるんでしょ? 異界に来てくれるんだよねっ」
「異界へは……行く」
「うん!」
「でも、地獄旅館には……勤務しないつもりだ」
「……え?」
水を被せられたように死神の顔が固まった。
そして、また笑う。
「そっか! 治安維持課じゃなくて、獏さんの食堂で腕を磨くつもりだなー? 私に追いつかれそうだから焦ってるんでしょー! 心配無いぜ準くんは私の師匠なんだものそんなに――」
「違うんだ」
「じゃ、じゃあゲルさんの雑貨屋さんだ! 狩魔衆に襲撃されず最後まで形を残したままだったからねあの店、もはや話題のお店だからそりゃ新しい店員が必要だよね! そういう意味だよね!」
「旅に出ようかなって、思ってる」
死神もようやく話の意味がわかったのだろう。それでも取り乱したりはせず、冷静さを保とうとしていた。ここも成長した点だな。
死神は本格的に地獄所属の死神業者として勤務することになる。でもオレは地獄旅館を離れ、異界を巡ろうとしている。死神とオレは、離れ離れになる。
バンプと彩花さんのようにな。
「……私は?」
「……」
「いっしょに居られないの?」
「それを相談したくて、話したんだ」
これはオレの意思によるものだから、どうしようもないわけじゃあない。
オレが旅するのを諦めて地獄旅館で治安維持課に所属すれば万事オーケーなのだから。
死神に理解してほしくて相談しているんじゃない。オレもどうしたらいいかわからないから、二人で相談したかった。一緒に居たいのは、当たり前なんだ。そして惨劇と父の見た世界をオレも見たいというこの気持ちも、本物なんだ。
「私は準くんといっしょに居たい。準くんもきっとそうだから悩んでるんだよね」
「ああ。同時に、異界を巡ってもみたい」
「惨劇と、準くんのお父さんが見てきた世界。準くんの気持ち、よくわかるよ。だから私は止められない。行かないで欲しいけれど、行っても欲しい」
「だが異界を自分の脚だけで巡れば、少なくとも二年……いや三年は帰って来られない」
「それは辛いよね……。私も付いていって、二人で旅するのは――」
「駄目だ。お前には死神業者の仕事がある。責任感を持たなくちゃ駄目だ」
「はい……」
三年は戻れないと言った時、やはり予想はしていたが死神は辛いと言った。当たり前か。当たり前だよな。
我慢してくれなんて言うのは酷だ。
こいつなら一人でも大丈夫だと、そう思ってしまったのはきっと間違いだ。
「私は耐えられない。一年でも、半年でも、一月でも、一週間でも、準くんと離れるのは嫌……。惨劇に準くんが連れて行かれた時のショックはずっと残り続けると思う。あんな辛さはもう耐えられないよ。ましてや三年だなんて……私には、無理……」
死神は拳を握って目元を数回こすった。
「私には耐えられない……」
「そっか」
オレは一度大きく深呼吸をする。
「じゃあ、諦める。お前を一人残したりなんてしない」
「でも……もうちょっと、考えよう? 準くん」
「そうだな……」
死神とオレはいろいろ話し合った。
他に方法は無いのか模索し、数々の意見を出し合い、提案を繰り返した。
魔列車を利用して小まめに繰り出すというのはどうかという発想も出た。これなら旅をせずとも遠出して帰って来るのを繰り返せばいけそうな気がした。が、魔列車もまだできてからさほど年月が経っていないもので、行ける場所も限られていた為にこの案は没となった。
バンプの使い魔に協力してもらって転送魔法を使った移動はどうかと死神が提案するも、魔法を弾く地質の地域がある事を惨劇に聞かされていたので無理だった。オーディン程の高出力魔導兵器くらいしか転送魔法が通じないらしく、そのオーディンも失われた今、転送魔法による移動方法は断たれた。だから父や惨劇は旧魔導社がバックに付いて居ながら自分の脚で旅をしていたのだと思い知らされる。
短期間で移動して帰って来る方法は無い事がわかった。
「うし。じゃあ、違うアプローチで考えてみるか」
「そうだね!」
なんだかこうして二人で考えるのは楽しかった。
二人で、二人共に居られる方法を懸命に探す。このひと時はとても幸せだと思えた。
「……そういえば」
「どうしたの準くん?」
「いや。オレの身体ってさ、最終決戦の影響で普通の人間とは違うようになったのは知ってるよな」
「うん、惨劇の力の断片を受け継いで、準くんも圧力制御能力を持っちゃった件でしょ? それがどうしたの?」
「断片とはいえあの惨劇の能力だ。冬音さんがナイトメアという魔力を身体に持ったのと同様、オレも惨劇の力を身体に宿した。そんなオレに、閻魔さんが声を掛けてきた事があってさ」
「閻魔さんが?」
「死神業者として戦力になってくれないかって。でもその時のオレは地獄旅館に留まらず旅に出たい気持ちがあったから断ったわけ。まあ、それを思い出しただけ」
「……準くんも死神業者に――んん?」
死神は腕を組んで何かを考え出した。
そして眉を寄せて「あっ」と声を出す。
「方法が……ある……!」
「何!?」
「あるよ準くん! 方法があるよー! あのね――」
死神業者とひと括りにされているがその中にも階級はある。
一つは主に人間界へ降りて魂を導く役割。死神業者のほとんどがこれだ。
そしてその上に死神業者の管理役――つまり歌舞伎さんや白狐さんのような幹部がある。
さらに上が、死神業者及び管理機関の地獄を統括する支部長。
アバウトに分ければこうなる。
が、異質な役割の死神業者も中には居る。
“異界回収役”というのがその一つだ。
これは人間界から異界へ送られる途中に流れから外れ、異界のどこかへ飛んでしまった魂を回収する役割。魂は魔獣の餌になってしまうこともあり、相応の戦闘力も必要とされ、危険も伴う。
そしてその性質上、どこの支部にも属さない。異界中を駆け回って魂を探し、魔獣から守り、近くの支部へと送り届ける死神業者の遊撃部隊だ。
支部長や幹部のように上に付く者がおらず、ほとんど独立した部門の為に死神業者連中の中では“無鎖”と呼ばれている。
死神の口から出たのは、そんな少数しか居ない役職についてだった。
「無鎖……。そんなものがあったのか」
「うん、確か歌舞伎さんは死神業者“無鎖”出身だって聞いたから思い出したの!」
「異界で活動する死神業者か」
「異界中で、だよ! 異界の隅々まで回らなきゃいけない仕事なの! まさに“旅”だよね!」
「おお……」
「まあ旅して延々と異界を歩きまわるのは御免だって人が多いから、狙い目だぜ!」
死神業者“無鎖”。
これにオレと死神が志願すれば……二人で離れることなく、異界を見て回る事ができる!
「うん、私も無鎖は行ってみたいと思うもん! 天国の業者とも破壊業者とも連携することがあったり、いろんな経験ができそうだもの!」
「決まりだな」
「うん!」
「ありがとう、死神」
オレは死神の手を握って礼を言った。
諦めずに、二人で頭を悩ませて良かった。
「閻魔さんと夜叉さんに申請しないとね」
「ああ、すぐに行こう」
ようやくオレも踏み出せそうだ。
一歩目をな。
踏み出す先がようやく見えたんだ。
能力をくれた惨劇と、一緒に頭を悩ませてくれた死神に感謝だ。
◇ ◇ ◇
【地獄旅館】
「ふむ。話はわかった……」
おなじみ閻魔さんの部屋の中。
腕を組む閻魔さんと、その隣で黒い般若面を撫でる夜叉さん。
早速死神と共に申請を行うべく地獄へ赴いたオレは、二人の前に立たされていた。
「里原。ロシュ。まさかお前らが無鎖所属の申請を出すとは思ってもみなかったぞ。かなり驚いている」
「某もです。しかし、良い案です。里原殿の異界を見て回りたいという気持ちと、離れたくないという二人の気持ちが導いた道ですな。同時に叶えられるのは、ふふ、確かに無鎖しかありませんな」
「まさか俺様の地獄旅館から、無鎖を輩出することになるとはなあ……フハハハ」
「どうでしょう閻魔殿? 申請を受理しては」
「ああ、二人の選択だ。俺様がとやかく言うことじゃねえ。久々に“地下”を使う事になるな、夜叉」
……地下?
首を傾げるオレと死神に、夜叉さんが説明をしてくれた。
「いいですか? 無鎖とは、死神業者の中でも危険に見舞われる確率が圧倒的に高く、戦闘も多い部門です。故に、無鎖は申請だけでは所属を許可することはできません。輩出する支部が、合格を出さない事には……ね」
……合格?
「今回の申請者は二人。里原とロシュのペア申請となる。つまり、支部長である俺様と夜叉を相手に一本取る事が、無鎖所属の実戦試験となる」
オレと死神で、閻魔さんと夜叉さんに勝てってのか……!
「準くん……」
「成程、こいつはでかい壁だな」
閻魔さんと夜叉さんは立ち上がり、それぞれ武器を手に取った。
「フハハハハハハ! 里原、ロシュ。生半可な気持ちで危険な任に就かせる事はできん。俺様と夜叉を納得させる実力を見せろ」
「二人とも。これは貴方達にとって最後の壁ではありません、死神業者としての最初の壁です。今までとは違い、某達は手を抜きません。御覚悟を」
魔力回路の回復した、全力の閻魔さん。
元狩魔衆の闇討ち、全力の夜叉さん。
ペア戦かあ……思い出すな、地獄旅館のイベント。死神業者最強決定戦。
あの時も閻魔さんと夜叉さん、オレと死神でペアを組んでいたっけか。
だけど――今回は遊びじゃあない。
実戦なんだ。
「やろう、準くん。私達の幸せの第一歩だよ!」
「ああ。二人がいっしょに居る為の!」
惨劇、力をくれ。死神と夢を歩む為の強さを……。
幸せを描く為の強さを。
「俺様と夜叉のスケジュールが重なるのは明日だけか」
「はい。急ですが、仕方ありません」
「では明日。地獄旅館の封鎖された地下で実戦試験を執り行う! フハハハハ、寝坊すんなよ二人とも!」