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第3話 少年吸血鬼の嘆息

【preparation of banquet】


 ――それは異界と呼ばれる世界。


 現世とはまた別の、異なった世界。

 二つの世界は、魂というモノでのみ干渉しあう。

 現世からやってきた魂が、異界でひと時を過ごし、現世へと返る。

 魂は異界の者が管理・保護する。誰が作ったのか、どのようにして成り立っているのか、誰も知らない理。

 では、異界の者たちの魂はどこへ向かうのだろうか?

 それはまた、別に語るとしよう。

 

 異界。その広大な世界を、短時間で移動するために造られた魔列車という乗り物が存在する。

 短時間で移動できるのには理由がある。列車前部に取り付けられた魔導石の効力によって発生される亜空間を使うのだ。これはもともと、異界と現世を行き来する死神業者の技術である鬼門――ワープゲートとも呼ばれる――を参考に、魔導社の社長であるラビット・ジョーカーという男が考案したものである。


 現在もその巨大な発明は、亜空間の中を駆け抜けていた。


 とある客室に、一人の騎士を乗せて。


「フライヤ。報告が遅れました。間もなく地獄アジア支部に到着します」


 西洋甲冑姿のまま、椅子に座る女。

 彼女の前には魔導石による映像回線が繋がれていた。立体映像で映し出されているのは、少女である。


『ヴァルキュリア! なんでこんな時にヨーロッパ支部をほったらかしにしてアジア支部なんかへ行くのよ!』


「……知人が、遠い場所より帰ってくるので」


 どうやら立体映像の少女は甲冑姿の女の上司、という立場らしい。

 ヴァルキュリアと呼ばれた女騎士は、言いづらそうにそう報告した。

 すると少女は腕を組み、ヴァルキュリアを睨みあげる。


『はぁ!? そんな事で出張? アンタ自分の立場わかってんの!?』


「申し訳ありません」


『大体ね、アンタを地獄に派遣するってだけでもこっちにとっては不益なのよ。こっちが変な連中に襲われたらどうすんのよ!』


「しかし……私が居なくとも…天国にはオーディンが……」


 騎士がそう呟いたとたん、少女はますます眉間に皺を寄せた。

 部下を指差し、一気に責め立てる。


『アレは定期メンテナンス中だっての! あと《アースガルズ》を天国だなんて呼ばないでくれる!? あー腹が立つ!』


「申し訳ありません。なら、アーとエルが全身全霊を以て守ってくれるかと」


 ここで少女はニヤ、と口の端を不敵に持ち上げた。


『あ。そっか。あの二人が居るからまず安心ねー。ま、この忙しさももうすぐ終わり。時が来たらアンタにはこちらに戻ってもらうから』


 その言葉にヴァルキュリアはピクリと反応する。

 まるでそんな話は聞いていないというかのように。兜の下の目は鋭くなっていた。


「それはどういう事でしょうか」


『なんかよくわかんないけど、異界政府から電報が届いたのよ。詳しいことは言えないけど、ちょっと……大きな事が起こりそうね。ま、私にしたらアースガルズが安全ならなんだっていいんだけどさ』


「………」


『はぁ。だから早いとこアンタにはこっちに戻ってもらいたいわけよ。でもその前に政府はアンタに仕事を与えるみたい。それだけは覚えておいてね』


「了解」


 怒りがおさまったのか、少女はうっとりとした表情になり、映像の向こう側から画面を指でなぞった。

 おそらく、向こうに映っているヴァルキュリアの顔を触っているつもりなのだろう。


『嗚呼……。早く、早く戻ってきてねヴァル。私の四騎士……st.4knights(セント・フォー・ナイツ)の一人。早く私を守りに来て……。ヴァルは私のものよ』


「無論、心得ております。フライヤ」


 そして通信が切断された。

 ヴァルキュリアは緊張したのか、彼女にしては珍しく大きな息を吐いた。

 そんな彼女を、部屋の隅で見ていた者が居た。

 否、者というよりは――物か。


〈フライヤ、怒ってたね。ヴァル〉


 それは壁に立てかけてあった聖剣から放たれた言葉だった。


「ええ。エクスカリバー、珍しく口を挟まなかった」


〈あったりまえでしょ! 天国の最高権力者にただの武器が口を挟めるわけないって!〉


「良い判断」


〈なんか大事な話だったみたいだけど?〉


「……他言無用」


〈うん。でも、なんだか嫌な予感がする〉


「気のせい。フライヤは絶対。絶対の正義。私は正義の為に存在」


〈わかったわかった! 熱くならないでよー。ホラ、もうすぐ地獄! バンプ達に会えるわねー〉


「……楽しみ」


〈アハハ〉


 こうして何事もなく魔列車は走り続ける。

 機械はいつの時代も、どの世界でも、世の移り変わりに関わらず与えられた役を淡々とこなす。


 ――開宴は、まだ先か。




 ◆ ◆ ◆

 


【地獄旅館、迷子センター】


 ………。


 ねえ、僕思うんだけど。

 せっかく久しぶりに戻ってきたのにさ、いきなり迷子センターって……。

 ひどくない?


「あっははは、バンプもドジだなー、もう大きいんだから迷子センターなんて来るなよ」


「僕より先に居たカブキさんに言われたくない」


 そう。ここは地獄旅館の迷子センター。

 文字通り、迷子になった子供――こ・ど・も――が来る場所。

 といっても、僕ヴァンパイアは迷子になったから来たわけじゃない。

 一緒にいた須藤彩花さんが、いつの間にかどっかへ行っちゃったんだ。


「で、カブキさんはどうしたの?」


「ん、俺? 俺はアレだ。ホラ、えーと。なっ、わかるだろ! 迷子!」


 お願いだから胸を張って言わないで。

 ここの幹部が迷子にならないでよ。

 半年振りのカブキさんとの再会が、まさかの迷子センター。


 すごく憂鬱になる。


「あっははは、嘘嘘。ホントは白狐から隠れてただけだっての!」

「相変わらず…」

「とりあえず閻魔んトコ行こうぜ。今日はそのつもりで来たんだろ? 須藤も閻魔と居るかもよ」

「うん」


 とりあえず迷子センターを出ることにした。

 カブキさんは、半年前と全然変わってない。相変わらずド派手な衣装だー。

 隣で鼻歌を奏でながら歩く化粧をした顔を見上げてみる。


「んっんんー」


 懐かしいなー、ついついもっと昔のことまで思い出しちゃう。

 僕とロシュとメアが、ヨーロッパ支部のヴァルさんに預けられてた頃。

 今度はアジア支部の閻魔さんにお世話になるって時に、僕たちを迎えに来たのが、たしかこのカブキさんだった。


――『よう、ちっちぇえなー。こりゃあ閻魔に触らせたら壊れちまうぞ? あっはははは』


 新しい場所へ行くことで、多少は緊張していた僕――だけかな? に、陽気な調子で、カブキさんはそう言っていた。


「ん? どうしたよバンプ」


 カブキさんは僕がじっと眺めていたことに気付いた。


「んーん、僕達が初めてアジア支部へ来る時も、こんな感じだったよね」


「おー、そうだったな。まったく、あの時は苦労したんだぞ?」


「えー、僕たち迷惑かけちゃった?」


「いんや、苦労したのはヴァルキュリアだ」


 え……ヴァルさん?

 カブキさんは笑いながら腕を組み、当時の事を話してくれた。


「あれには困ったぜ。ヴァルの奴、なかなかお前らを離したがらなかったんだぞ。俺の着物の裾を掴んで『閻魔に乱暴させるな』だとか『食事はきちんと決まった時間に与えてくれ』だとか、『よく迷子になるから常に目を配っておけ』とか……。もう聞いてたらキリがないっつーの」


 ………へえ。

 ヴァルさんが…そんなに心配してくれたんだ。

 ちょっと想像できないや。あはは。


「でも、子育てするような歳じゃないアイツは、すごく頑張ってたみたいだぞ。無理もない。地獄に派遣されて、仕事に不慣れなまま、お前らを預けられたんだ」


「……うん」


 なんか、申し訳ない気持ち。


「と、アヌビスがヴァルにそう言ったら殴られたんだけどな。あはははは!」


「え?」


「めちゃめちゃ怒りながら、あのヴァルが感情むきだしにしてアヌビスに怒鳴ったんだぞ。『私は三人を預かって辛い思いなどしたことはない。むしろ助かっている』ってな」


「それって……」


「慣れない仕事場で、いきなりの管理職でしんどい時も、お前達が居たから、頑張れたってことだ――ってバンプ!? お前何泣いてんだよ!」


「ふえぇ〜。ヴァルさーん」


 知らなかったー。

 アヌビスさん程じゃなくても、厳しめな人だと思ってたからー。

 ふえぇー。


「おい泣き止めコラ! 俺が泣かせたみたいじゃねーか! 男の子だろー!」


 ふえぇー。



 ◇ ◇ ◇



「ほら着いた。閻魔の部屋だ」

「うん」


 地獄旅館、そのすべてを取り仕切る閻魔さんの部屋は、入り口からして大きい。もう見慣れちゃったけどね。

 閻魔さんを始めとする支部長達は、本当にすごいと思うよ。

 アジア支部の場合、閻魔さんの仕事を簡単に並べてみると、こう。


 現世から絶え間なくやってくる魂達の誘導と、個々の情報を把握。

 上級任務派遣課のエリート餓鬼の統括・指揮・指令役。

 魂の数を調整するため、他支部との連携会議に定期的に出席。


 そしてこれが一番凄いことなんだけど……。


 地獄旅館全域――壁や魂達の宿泊部屋――に、魔力コーティングを施す。これは旅館内のすべての者を守るためなんだ。

 この巨大な都市型施設の隅々まで、閻魔さんの魔力が行き渡っているって事。

 常に魔力を送り続けているんだよ……。

 改めて考えると、すごい……。


 部屋の入口に立ったまま冷汗を流す僕。

 それに気付いたのか、カブキさんがポンと僕の背中を叩いた。


「どうした、さっきから懐かしさに浸ってるみたいだけど。まー、ここも閻魔も全然変わってねえから! 安心しな、あっはははは!」


 あっははは、と笑うカブキさん。

 でも……その笑い顔は……長くは続かなかった。


「あらーカブキー。こんな所に居たのー」


「あっははは! おうよ、俺はこんな所に居たんだよ白狐ー! あっはははは! はは…は……」


 後ろから、殺気といっしょに響いて来た女性の声。

 それを聞いたカブキさんは、笑って返事をしながら――途中で気付いた。

 非常事態だってことに。


「は……はは……」


 か、顔が青ざめている。化粧の上からでもわかるくらい。


「な、なあバンプ」

「え?」

「悪いけどさ、後を振り返ってみてくれないか」


 カブキさんは怖くて首が動かないらしい。


 言われたとおり、僕はゆっくりと振り返る。


 ………。


 ………。


 か……!


 僕は途中で首を止めて、また前を向く。


「無理無理無理無理! 無理だよぉ……!」


「なんだよ途中まで振り返ったじゃねえか!」


「キ、キツネの仮面だけはチラリと見えたんだよ? 見えたんだけど…」


 それ以上、言葉が出なかった。

 い、一体なにをやらかしたのさ、カブキさん……!


「アラー。オカエリナサイ、バンプ」


 はががががが。

 ブルブルっと背筋が震えた。


「た、だいま。白狐さん」


「イッパイ話ガシタイケド……。チョットダケ、コノ人形ヲ借リルワヨ?」


 に、人形。

 僕は、僕には、こうとしか答えられない。


「どうぞ!」


「バンプてめええ!」


「ひいいい!」


「アイツが俺の事を人形とか言った時点で、この後俺がどうなるか想像――ってあああああ! 着物を掴まれたあああああ!」


 ひいいいいい!

 こ、怖い怖い怖い怖い!

 カブキさんの方を向けないー!


「あああああ! やべえ、これはやべえ! ピンチだ俺! ピンチだカブキ! ピーンチーだカーブキー! 行けバンプ! 俺の役目は、ここまでだぁぁぁ―――」


 声が…遠くなっていく……。


――ズルズルズルズル


 ああ、引きずられてるんだ、きっと。


 そして――


 引きずられる音は、遠くなり――ついには消えてしまった。

 閻魔さんの部屋の前で、一人残されてしまった僕。

 妙に、静かだった。


『フハハハハ、なんだなんだ? 外が騒がしかったみたいだが』


 あっ!


 僕が扉を開ける前に、中から開いた。

 そして地獄の総大将がひょっこりと顔を出す。

 その目が僕の姿を捉え、閻魔さんは呆気に取られた。


「んぁ? お……おお。お前……」


「えっと、ただいま。ただいま閻魔さん!」


 力いっぱい、ただいまの挨拶をした。

 力いっぱいの笑顔といっしょに。


「バンプ……バンプなのか?」


「うんっ、ヴァンパイア・マーカス。ただいま戻りまし――うわぁ!」


 なぜか…閻魔さんは僕に飛びついた。

 なに? どうしたの?

 半年ぶりなだけだよ?


「バンプ! お前ホントにバンプなんだなぁ!?」


「そ、そうだよ」


「良かったー! 生きてたぞ、バンプが生きていたぞコラー!」


 な、なんで僕が行方不明者みたいな立場になってるんだろ。

 この閻魔さんの様子は尋常じゃない。


 ……これは、おそらく。


 ……ううん、ほぼ間違いなく。


「彩花さんはなんて言ったの、閻魔さん?」


「須藤か? 須藤からは 《バンプが空港でいきなり『ゴーイングマイウェイ!』とか叫びだし、そのまま滑走路へと逃走。そして発進しようとするジャンボジェット機の前に仁王立ちになり、また叫んだ。『僕の爪切りー! ドコデスカー!?』と。だが、ジャンボ機の機長にはそれが『僕のつま先ー! ドコドコドーン!』と聞こえたらしい。で、ジャンボ機の機長は思った。『コイツ駄目だ……』と。だからそのまま滑走路に居たバンプに……突撃してしまった》 と、説明された」


 ぼ、僕が凄いことになってる……!


 いや、もう突っ込みきれない。ここまで来たらホントにアホな子供としか言いようがない。爪切りについて突っ込めば、同時に最初に叫んだ『ゴーイングマイウェイ』についても突っ込まなければならなくなるし。

 そもそも機長の判断が……あー! 僕じゃ無理だよ準くーん! 助けてー!


「しかし無事でよかった。本当によかったぞバンプ!」


「う、うん。心配してくれてありがとう」


 自分のフォローすらできず、敗北……。


 僕は閻魔さんに腕を掴まれたまま、ずるずると部屋の中に引き込まれる。

 ねえ、僕ってさ、久しぶりに帰って来たんだよね?


 ……ああ、以前準くんが言っていた言葉が、頭の中に蘇ってくる。


(そういうときは……諦めろ……)


 準くーん!


 僕の中で、準くんが悲愴なまなざしをこちらに向けて遠ざかっていく。これは準くんという強者が、あまりのツッコミどころの多さに軽い絶望感を抱いたときの目だ。

 僕もきっと、同じような目をしているんだろうな。

 そう思いながら顔を上げると、案の定、彩花さんが先に閻魔さんの部屋に居た。

 まるで何事もなかったかのように足を組んで部屋の中心にあるソファに座り、お茶なんかを啜っている。

 しかも両隣にエリート餓鬼を一人づつ従えて。

 彼女はカップを口元に持ってきたところでピタリと固まり、僕に気付いた。


「あらバンプ、遅かったじゃないの。まさか迷子センターなんかに行かなかったでしょうね?」


 この人は……!


 僕は閻魔さんの腕を離れ、そのまま彩花さんへ突撃。


「そろそろ壮大な嘘でみんなを困らせるのはやめれー!」


 ダッシュで彩花さんへと接近する僕だったが、彼女が人差し指をピッと立てた瞬間、両脇に控えていたエリート餓鬼が目の前に立ちはだかった。

 きっと彩花さんの手駒にされてしまったんだ。


「バンプ様を止めろという命令を受けていますので」

「我ら二人が壁となります」


 スーツをぴっちりと着こなした背の高い二人。包帯で覆われた頭部はこちらを向いている。

 体勢が低いからタックルをかましてくるつもりだろう。


 ――けど、一瞬二人は顔を見合せ、低くしていた身体を伸ばした。


「壁となる」

「――と、言いたいところですが…」


 二人のエリート餓鬼はスッと身を引き、僕に道を開ける。


「須藤様の嘘には」

「我々も衝撃を受けました故…」


「指令に背くのは遺憾ではありますが」

「これも須藤様の為と判断します」


 なるほどー。この二人もこの部屋に居たんだから、閻魔さんと一緒にさっきの嘘を聞いていたんだね。で、さすがにこれはひどいと思ったんだ。きっと。

 エリート餓鬼二人に裏切られた彩花さんはというと――


「う、裏切ったわねアナタ達ー!」


 おもいっきり悪役のセリフを叫んでいた。

 しかも彼女らしくきちんとカップをテーブルの上に置いてから、回避行動に移ってる。

 その間に僕は彩花さんの腰に飛びついていた。


「さあ覚悟してよね彩花さ――」


 腰に飛びつき、彩花さんを捕まえていられたのは――ほんの一瞬だけだった。

 なぜなら僕は、レザーパンツのベルト部分を誰かに掴まれ、引き戻されたから。


「え…ええ!?」


 僕のパンツを引っ張っているのは……銀色の腕だった。

 そう、鎧の籠手の部分だ。

 籠手の部分だけが宙に浮いて、ベルト部分を掴んでいる。

 こ、これは見覚えがあるよ!


 そうだ、ヴァルキュリアさんの魔導防具。《艶鶴甲冑(えんかくかっちゅう)》だ。

 装備した人の意思で、鎧のそれぞれのパーツが自律した行動を取る、驚異の魔導防具なのだ。扱いが難しくてヴァルさん以外の人が装備しているのを見た事がない。

 あー、たしか昔、この艶鶴甲冑が欲しいって思ったことがあったなー。

 だってロケットパンチとかできるんだよ!? 夢みたいだよー。


 なんて言ってる場合じゃないねー。

 艶鶴甲冑がここにあるってことは……。


「……おかえりなさい。ヴァンパイア・マーカス」


 部屋の入口に立っていた騎士が、宙づりにされた僕にそう言った。

 片腕の籠手だけがないヴァルさんだ。


 ……ちょっと、彩花さん。下から突っつかないで。


「……おかえりなさい。須藤彩花さん」


 次にヴァルさんは彩花さんに向かってそう言い、彩花さんは笑顔で ただいま と答えた。

 ヴァルさん、会いに来てくれたんだ。嬉しいな。

 でもまずは降ろしてほしいなー。


 そんな僕の願いは届かず、僕を掴んで宙づりにしたまま、銀の籠手は主人の方へと戻っていく。

 最終的にヴァルさんの腕に籠手が装着された結果――ヴァルさんに片手で吊りあげられるという、すごく恥ずかしい格好になった。


「ただいまヴァルさん。とりあえず、すごく降ろして欲しいよー」


 だがヴァルさんは、そのまま僕の頬や頭、肩や腕をペタペタと触ってくる。もちろん無言で……。

 まるで僕が実体であるかを確認してるみたい。


 ……実体を……確認……?


 ま、まさか。


「バンプ。本物と確認。次に私の行動の理由を述べる」


 いや、いいです。


「須藤彩花さんの言葉をそのまま引用。 ――バンプが空港でいきなり『ゴーイングマイウェイ!』と叫びだし、そのまま滑走路へと逃走。そして発進しようとするジャンボジェット機の――」


 うわああああ! また面倒くさいーーーー!


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