宴章 クロスキーパーの戦い
空母キーパー1とキーパー2を結合させ、海上に浮かべた天国ことアースガルズ。未だその艦内では零鋼に操られた自律兵器が蠢いていた。
大量の敵を内に含んだ艦の甲板上。
吹き付ける風を受けながら四人は立っていた。
先頭に立つのは天国の最高権力者フライヤ・プロヴィデンス。老いる事なき少女の異名で知られ、その名の通りどれだけ時が経とうとその可憐な容姿は変わらぬままであった。
彼女に従い、後ろに立つのはSt.4knightsのうち三人。ヴァルキュリア、Rガーディア、Lガーディアだ。三人とも白銀の甲冑に身を包んだ聖騎士である。
戦況はNO.13が圧倒的優勢。もはや天国という勢力の兵力はこの者達のみなのだ。自律兵器という数で勝負の軍力は、皮肉なことに零鋼のサイバージャックによって一瞬にして反旗を翻した。あげく雇った破壊業者は壊滅状態。状況は劣悪、どこからどう見ても天国の敗北である。
しかし敗北などという言葉、この四人は一度も思い浮かべてはいなかった。
防護服を纏ったフライヤが三騎士の方を振り向く。
「あの機動歩兵隊には悪いけど、オーディンの試射に使わせて貰ったわ。複数魔法陣の展開に問題はなし。この甲板上でNO.13を迎え撃つ」
片腕を横へ振った。
三騎士は頭を上げ、ヴァルキュリアは腰から剣を抜く。聖剣エクスカリバーの切先が銀光を放った。
R、Lガーディアは背負っていた大きな盾を下ろす。それはそれは大きな盾だった。身体をほとんど隠してしまうほどだ。そして彼等二人の盾は独特の形状をしており、左右対称だった。
フライヤの長い髪がたなびく。彼女はヴァルキュリアに近づき、甲冑をこつんと叩いた。同じようにR、Lガーディアの盾も叩く。
「私はオーディンに乗る。敵は徹底的に駆逐なさい。これが最後――そう、St.4knights最後の聖戦にする」
鼻で大きく深呼吸をし、フライヤは空を仰ぐ。
「こんな私に、今まで従ってくれて有難うね。私達の戦いが正義でない筈がない。この戦いを果たさないと、私達は正義足り得ない。もう少しだけ……私にアンタ達の力を貸して頂戴」
そう言いながら三人を通り過ぎると、彼女は甲板上に突き刺さったキーパー2へと向かった。
残った三騎士はしばし無言でその場に立つ。
広大な甲板で、彼等は実に小さかった。それでも彼等ならばこの甲板を裕に破壊することができる。
兜の中でRガーディアは笑みを浮かべた。
「さて、と。ヴァルキュリア……」
呼ばれ、ヴァルキュリアが彼の方を向く。
「少しの間なら、No.13は俺とLが引き受けてやる。だから――」
「お前はお前の思うように行動しろよ。Rと俺は心配ないからよう」
明朗に言われ、女騎士は動揺した。
「なぜ……」
「なぜって……。俺達とお前はどれだけの付き合いだと思ってんだよ」
「そうそう。フライヤだって気付いてるっつーの」
「ま、何が気になってるのか俺達にはわかんねえけどさー」
「とりあえず、あいつらなんだろ?」
Lガーディアが空の彼方を指さす。
その先を目で追うと、青の中に一点のくろがねが見えた。それは飛空挺だった。猛スピードでこちらに向かってきているようだ。
――やはり来たのか。
ヴァルキュリアは溜息を吐いた。
二人のガーディアはひらひらと手を振り、彼女から離れてゆく。
一人だけその場に残されたヴァルキュリアの手元から声が聞こえてきた。
〈ねえヴァル、バンプが来たよ……〉
それは意思を持った聖剣、エクスカリバーの声だった。
「無謀。そう忠告した筈」
〈仕方ないよ……〉
「百も承知」
〈承知……か……やっぱりつらい?〉
ヴァルキュリアは無視して聖剣を振り、上段に構える。
聖剣に魔力がほとばしり、刃が青く輝いた。
女騎士は、まだ小さく見えているだけの飛空挺に向けて大きく一閃。
巨大な剣圧を放った。
飛空挺の大きさなら真っ二つになってしまうだろう。
当然、飛空挺は緊急回避を試みる。
巨大な刄の速度は遠く離れた標的をも射止めるかと思われた。ところがその飛空挺、大きさの割に機動力がある。艦をロールさせ、縦に躱そうとしたのだ。
それを見たヴァルキュリアは
「ほう」と声を洩らす。感心した様子だ。
〈へー。珍しいわね、飛空挺があんな動きするなんて〉
「操舵士。良い腕」
〈うん〉
「しかし――」
飛空挺から黒い煙が上がった。避けきれなかったのだ。
魔力刄は飛空挺の艦底を削り、コントロールを奪った。
艦は大きく揺れ、高度を落としてゆく。
〈墜落かな。不時着なんてできそうにないし〉
「……否。突っ込んでくる」
〈え。ええ!?〉
黒煙を撒き散らしながら、飛空挺はこちらへ軌道を修正しつつ、しかし速度を落とそうとはしない。
ヴァルキュリアの言う通り、突っ込んでくるつもりなのだ。
「愚策。このキーパー1の内部は無人兵器で溢れかえっている」
〈でもきっと、すぐにやってくるわよ?〉
「それでいい。私が直に仕留める」
〈本当にそれでいいの?〉
「あの子達が選んだ事」
〈ヴァルどうしちゃったのよ!〉
エクスカリバーが吠えた。
〈フライヤを一番に考えるにしても、あまりに極端よ! バンプもロシュも大事な筈でしょ? 須藤彩花さんだって仲良くしてくれたじゃ――〉
「黙れ」
聖騎士は冷たく言い捨てた。
〈ヴァル……〉
「確かに私はあの子達の親代わりだった。だがそれ以前に私はSt.4knights。それを忘れてはいけない。そしてアースガルズが地獄と敵対した瞬間、私とあの子達は敵同士になった」
〈でもあの時、ヴァルはバンプをこちらへ誘ったじゃない!〉
「あれは……チャンス。チャンスを与えただけ」
〈嘘よ! ならどうして彩花さんを――〉
エクスカリバーの言葉を無視して、ヴァルキュリアは剣を鞘に収める。
と同時にエクスカリバーはピタリと喋らなくなった。
「貴女、少し喧しい」
ヴァルキュリアは呟き、飛空挺を見やる。
案の定煙に巻かれながら下降していき、キーパー1の中へと突っ込んでいった。
機動歩兵等が出撃に用いるドックに飛び込んだのだ。
「RといいLといい、余計なお節介が過ぎる……」
飛空挺の行方を見届けた後、彼女は振り返ると一気に凍り付いた。兜の中では驚きの表情を浮かべていることだろう。
なんと、甲板の上では既に二人のガーディアが戦闘を始めていたのだ。
相手もまた二人組――Dealarsだ。
「馬鹿な、早すぎる」
急いで二人のもとへ駆け出す。
そう。既に天国とNo.13の戦いは始まっていたのだ。
◇ ◇ ◇
「空間転移による奇襲かよ!」
「卑怯くせえ!」
ガーディア二人は愚痴を零しながら大盾を構えた。
突き立ったキーパー2の真下にNo.13の刺客は現れた。奴らは常に突然だ。この争いも、その加速する様も、突然なのだ。
ディーラー・ダイヤとディーラー・スペードの二人は、亜空間移動という未知なる技術を用いて今回も奇襲に現れたのだ。
狙いはオーディンだろう。大盾の聖騎士達はこの者達をここで食い止めなければならない。
ガーディアは得意げに盾を持ち上げた。左右対象に。
金色の装飾が日光を反射し、それ自体が太陽であるかのように輝いていた。
「俺達を突破する事は不可能!」
「絶対なる防御、とくと見よ!」
Rガーディア、Lガーディア。そしてディーラー・ダイヤ、ディーラー・スペード。四人が対峙する。どちらも二人組。
ディーラーズにとっても、ガーディアは早々に退けたい敵だった。
『鴉闘技……』
先に仕掛けたのはディーラーズだった。
ダイヤは脚を振り、真空の刃を発生させる。縦と横に一本ずつ、宙に十字を刻む。
その交差した点を勢いよく蹴り抜き、巨大な竜巻を発生させた。
真空刃を操る鴉闘技の一つ、インフィニティ・エアである。
その威力は魔力によってコーティングされた魔列車の壁をいとも容易く粉砕する程。
対するガーディアの二人は大盾をドッキングさせた。
そう。彼らの盾は、一つの巨大な盾を二つに割った形状をしていたのだ。
二つで一つの聖盾。これこそが守護を司るRガーディアとLガーディアの象徴。
「俺達の盾は」
「堅固にして不砕」
ダイヤの放った竜巻は、盾を破ることができなかった。
『ほう……』
竜巻が打ち消される様子を見たスペードが、声を洩らす。
『分散の力か』
「その通り」
「俺達の前では力は無と化す」
『双百合の力と似ている……な。もっとも、あれは特殊なものだが』
スペードの周囲に、大量のカードが出現した。
カードを自在に操るのはスペード特有の能力であり、正確には彼の素体となったラビット・ジョーカーの能力である。
かの鴉天狗が用いた闘技と、聖域を守護する絶対の盾。
まさにこれらがぶつかり合おうとした、その時だった。
垂直に突き立ったキーパー2が内側から爆発した。
中から巨大な黒い影が、棺を破ってその一部分を覗かせる。
巨人の頭のような……。
だがそれは兵器だ。
上半身だけを見れば、巨人を模したロボットに見える。
ところがその兵器――戦略傀儡兵オーディンの脚は六本あった。
多脚なのだ。
「げ。もう出やがった」
「フライヤも気が早いねー」
その大きさは、影だけでキーパー1の甲板に立った四人を裕に覆ってしまう程だ。
空母クロスキーパー2も巨大ではあるが、よく納まっていたと思うほどにオーディンも大きかった。
駆動音はまるで咆哮。
怪物が吠えている。
見上げたディーラーズはその姿、その威圧感にたじろいだ。
「なぁ、Rよ」
Lガーディアがボソリと囁く。
「言わなくてもいいぞL。俺も……嫌な予感はしてた」
Rガーディアもボソリと囁いた。
彼等の嫌な予感というのは、昔からのパターンとして身に染み付いているものだ。
ガーディアも長くSt.4knightsをやっている。自分達が今のようにノッてくると、毎度あの〈豪快少女〉が邪魔をするのだ。
今回もやはりそうなりそうだ。
フライヤ・プロヴィデンスの声が意気揚揚と四人の中に割り込み、叫んだのだ。
『オーディンで蹴散らしてやるわ! どきなさい!』
冗談じゃない。
信じられない。
オーディンは雄叫びをあげ、頭部の、口にあたる部分から光を放ちだしたのだ。その面前には
魔法陣。
同時に、四人が立つ甲板の真上に、エメラルドグリーンに輝く魔法陣も浮かんでいた。
二つの魔方陣によるワープを用いた攻撃。
――あの小娘、グングニルをぶっ放すつもりだ。
「おぉおいバカヤロー!!」
「俺達を巻き添えにすんなああああ!」
必死にガーディアは叫んでみたが、そんな言葉が彼女の意思を変えられるわけもなかった。
彼女はフライヤ・プロヴィデンス。
豪快少女なのだから。
『盾があるじゃない』
呆気ない一言を合図に、オーディンは口から高エネルギーの塊を解き放つ。
巨大な神槍はディーラーズと……ガーディアごと、キーパー1を容赦なく貫いた。
ちなみにこのRガーディアとLガーディア、普段は天国で〈上司に恵まれない部下〉などと噂されている事を明かしておこう。
◇ ◇ ◇
クロスキーパー内に突入した飛空挺ルシファーは、ドック内で残骸と化していた。
その爆音を聞き付け、キーパー内で蠢いていた自律兵器がぞろぞろと集まり、取り囲んでくる。
瓦礫の下から腕が伸びた。
その腕は自律兵器の脚を掴むと、怪力で持ち上げ、地面に叩きつけて破壊した。
瓦礫の下から出てきた腕の主はジャッカル・ジョーカーだった。続いてバンプと神楽も出てくる。
「じょ、冗談じゃないわよ!」
埃を払いながら神楽が喚いた。
バンプは周囲を見回す。
「あれ? ロシュとベルゼルガは? それにルシファーの乗組員も……」
「どうやら死神さんとベルゼルガは艦から投げ出されたみたいですね。乗組員は艦の中に隠れています。瓦礫に埋もれているのでまず見つからないでしょう」
そう言ってジャッカルは状況を確認した。
零鋼によってジャックされた人型の自律兵器達は三人を取り囲んでいる。
ここで名乗りをあげたのは、神楽だった。
「乗組員も隠れていることだし、この場はあたしが死守するわ。ジャッカルとヴァンパイアは甲板へ。さっき攻撃してきたヴァルキュリアはそこに居るでしょ?」
「でも神楽は?」
「あたしはさっさとここを片付けて、死神とベルを探しに行く。ついでに脱出の手段も探しておくわ」
バンプの横で、はらりと神楽の袖からワイヤーが垂れる。
「だからあんたはヴァルキュリアを仕留めることに集中して。ジャッカルもディーラーズを……ラビットと準兄を取り返してきて。大丈夫、この程度の数はあたしの敵じゃないから」
瓦礫を利用してワイヤーが張り巡らされ、神楽の結界が形成されていく。
バンプとジャッカルは頷いた。
「気を付けてね!」
「この場はお任せします」
二人はドックの出口へ向かって駆け出した。
先頭を走る最硬に自律兵器の攻撃は通用せず、ジャッカルのハウリングとバンプの使い魔によって道を切り開いていった。
◇ ◇ ◇
「ここ……どこ」
「どこってお前……」
死神ロシュとベルゼルガは――ぷかぷか浮いていた。
「どう見ても海じゃねえか」
海面から頭を出し、二人はベルゼルガの持っていた棺型のトランクに掴まっていた。
「なああんで私達が海に浮かんでんのおおおお!?」
「テメェが後部ハッチのボタン押すからだろうがデストロイボケチビがコラァアアア!」
「私悪くないし! 私の背中にあったボタンが悪いんだし!」
「何言っちゃってんのコイツ! 何言っちゃってんのコイツー!」
死神&ベルゼルガ――
乗艦失敗……?
◇ ◇ ◇
ドックに残った神楽は、近づいてくる兵器を次々にワイヤーで切断する。
多数相手の防衛戦は彼女の得意分野だった。
しかも思考に欠けた自律兵器はワイヤーの結界に近づいてはバラバラになるのを繰り返すばかり。
(これは案外、早く済むかもね)
ドック内の自律兵器も着実に数を減らしていき、神楽が余裕の構えを見せた時。
彼女の目に異形が映り込んだ。
(……やれやれね)
神楽の目の前に立ちはだかったのは零鋼だった。
地獄旅館で一戦を交えて以来の再会。鋼鉄の怪人はあの時と若干姿が変わっていた。
「戦略傀儡兵、零鋼……だったかしら。前に見たときより――鎧が鋭くなってるんじゃない?」
零鋼は首を左右に倒した。首の間接を鳴らすような動作だ。
神楽はその頭部に違和感を覚えた。
一部、装甲の歪な箇所があるのだ。まるで修復したような。
(どうやら誰かと戦ったみたいね。自己修復までするとは、ロボットの癖に厄介な奴)
鋼の鎧を軋ませ、零鋼は身を低くした。
突撃の構えだ。
神楽の顔に戦慄が走る。奴はワイヤーで築いたこの結界に、真正面からぶつかって来るつもりなのだ。
上等よ。受けて立とう。
神楽は更にワイヤーを張り巡らし、二重、三重に結界を強化する。
「……来いっ!」
零鋼の背中から羽のような光が溢れた。背部、そして各間接のジェットユニットを全開にして突っ込んでくる。
兵器にして、最速の称号保有者。
その加速は神楽の目に留まらなかった。
光の羽は、気付けば彼女の目前まで来ていた。
強化ワイヤーに零鋼の巨体がぶつかる。雑魚の自律兵器とは違い、その装甲には傷すらつかなかった。
神楽の結界が堅固なのは、以前零鋼が捕まったように相手の力を殺してしまうからである。
「こいつ! なんて力なの……!」
ワイヤーを操る神楽の指に衝撃が伝わってくる。
戦争を一機で終わらせるという戦略傀儡兵の名は伊達ではない。
力を殺すギミックは零鋼に打ち勝ってはいる。が、ワイヤー自体の強度が負けそうだった。
『負ケハ……許サレナイ』
「なぁに? お喋りが……できるようになったの」
『唯一無二、コノ手ニ……!』
――プツン。
ワイヤーの一本が切れた。
『サスレバ、チカラ、与エラレン』
「はぁ……?」
神楽は指を動かし、零鋼の四肢にワイヤーを巻き付けた。
『貴様ニ、永遠ガ、トメラレルカ? イイヤ、無理ダ。貴様ニハ、不可能。零鋼ハ此処ニ存在シテイル。零鋼は永遠ノ存在。ハハハ、ハハハハハハハ!』
笑っている。
この兵器風情が。何かが可笑しいと笑っている。
「わけのわかんない事をほざいてんじゃないわよ!」
『ワカラナイダロウ。貴様デハ。クローモ、ゼブラモ、惨劇デスラワカラナイ。零鋼ダケガ、ワカル。勝利ト敗北ニ興味ハ無イ。唯、零鋼ハ淡々ト……永遠デアリツヅケル』
「いきなり譲舌になったかと思えば。もっとマシな事を言いなさいよこのポンコツ」
――プツプツン。
ワイヤーは確実に、一本ずつ切られていく。
神楽はこの傀儡に苛立ちを覚えていた。
兵器の分際で。ロボットの分際で。語りやがる。
戦いでモノを語ってきやがる。
――お前はただの遊び相手に過ぎない。
と。
『貴様トノ戯レモ飽イタ』
零鋼の身体に青白い電流が流れた。
次の瞬間、零鋼を中心に電磁フィールドが発生。神楽や自律兵器達を呑み込んだ。
「か……っ! 身体が痺れて……!」
神楽の身体は電磁パルスによって縛り付けられた。零鋼はやはり戯れていただけで、最初から神楽の動きを封じる事など簡単にできたのだ。
これによって神楽の操っていたワイヤーは力を失ってしまった。
形勢は一気に逆転。
身動きのとれない神楽を前に、零鋼は電流の走る拳を掲げた。
肘にもジェットユニットを搭載した零鋼のパンチは機動歩兵すら一撃で仕留める威力を誇る。
だがその拳が少女を貫く事はなかった。
『来タカ……!』
そう。この兵器は時間を潰していただけなのだ。
零鋼の言葉とほぼ同時に、クロスキーパー全体が大きく揺れた。
オーディンがグングニルを放った衝撃だ。
『待ッテイロ、待ッテイロ、ハハハハハハ!』
零鋼は今まで相手をしていた神楽など無視して上を見上げ、跳び上がった。
そのまま天井を突き破って消えてしまい、ドックには神楽と、電磁パルスの影響で回路を破壊された自律兵器の残骸だけが残された。
神楽は呆気にとられる。
一蹴。
戯れ。
機械に弄ばれた。
「なんなの……あいつ」
電磁フィールドが解けても未だ痺れる身体を持ち上げ、呟く。
すると瓦礫の下から、ルシファーの乗組員達が顔を覗かせた。
「すまんな嬢ちゃん」
「突入の衝撃で気絶していた」
「いきなり身体が痺れて目が覚めたぞ」
「気にしないで。操縦室が一番ひどく叩きつけられたんだから」
操舵士、索敵係、通信士の三人はドックを見回して頷いた。
「この空母にも脱出に使える船は残っている筈」
「その確保は俺達に任せな」
「戦場は久々だが、これでも人狼。簡単にはやられねえよ」
三人は唸り声を出し、牙を剥き出した。
「ありがとっ。じゃああたしは死神とベルを探しに行くから!」
「おう。船を見つけたらドックの真下に持ってきておく。気を付けな」
神楽は大きく頷くと、三人と別れて駆けていったのだった。
◆ ◆ ◆
クロスキーパーの戦い
途中経過
《st.4knights》
・ヴァルキュリア――健在。現在地クロスキーパー前部甲板
・Rガーディア、Lガーディア――ディーラーズと戦闘開始→オーディンの攻撃により行方不明
・オーディン(フライヤ)――起動。戦闘開始
《No.13》
・ディーラーズ――ガーディアと戦闘開始→オーディンの攻撃により中断
・零鋼――神楽と戦闘→健在。現在地不明
《地獄》
・ヴァンパイア――乗艦成功。クロスキーパー内移動中
・ジャッカル――乗艦成功。クロスキーパー内移動中
・里原神楽――零鋼と戦闘→健在。クロスキーパー内移動中
・ベルゼルガ――乗艦失敗。現在地海上
・死神――乗艦失敗。現在地海上