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宴章 赤の鷲鷹

 ユグドラシルレール滑走路。急な斜面のふもとにはジャッカル・ジョーカーの手配した飛空艇が、発進準備に入っている。


 高速艇ルシファーは死神の予想よりずっと小型だった。

 あのダイダロスの後継機と聞いていたので、要塞並の大きさだと思っていたのだ。ところが現物は旅客機をもう一回り小さくしたくらいの大きさ。

 飛空艇ダイダロスが火力重視の要塞を目指した形ならば、このルシファーは機動性・高速性の突撃艦を目指した形なのだった。

 確かに空気抵抗を抑える為のシンプルかつシャープなフォルムをしている。さらにこの艦は未完成だった為、急ピッチで完成させたことにより武装を積んでいないのだ。

 高速輸送艇といったところか。

 機内を見ても鉄骨や配電が露出している箇所が多々あり、まさに最低限飛べるようにはしただけの間に合わせの造りだった。


 探険気分で機内をめまぐるしく駆け回っていた死神とバンプは、ボタンを押して後部の降下ハッチを開けた。

 ゆっくりと分厚い板が外へ開き、そこから顔を出すとすぐ下にベルゼルガの姿を見つけた。

 彼はジャッカルと共に、乗組員として雇われた数人へ説明をしているようだ。


「――ってわけだ。ルシファーを敵の本拠地上空まで突っ込ませてくれりゃあいい」

「無茶苦茶ですぜ」


 さすがにベルゼルガの作戦説明には操舵士と思われる男も動揺した。

 彼はジャッカルの部下同様、人狼だ。


「無茶はデストロイ承知だ。が、天国に行くにはこれっきゃねえんだよ」

「先日同じように天国へ向かったレジスタンスの大隊が全滅したこと、知らないんですかい!?」

「うるせー! ここまで来たら後はデストロイ貫き通すだけだ!」

「そ、そんな」


 ベルゼルガは腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、操舵士の額に銃口を当てた。

 完全に悪役のポジションである。


「今ここで確実に俺にデストロイされるか、天国突っ込んで生きて帰る可能性にすがるか、どっちがいいんだ、ああ?」

「ちょ、ちょっと。ジャ、ジャッカルさん……」


 操舵士は助けを求めるようにベルゼルガの隣で腕を組んでいるジャッカルを見た。

 が、残念ながらジャッカルが彼を助けることはなく……。


「私も行ってもらわなければ困るのですよ」


 そう言いながら指の関節を鳴らした。

 操舵士だけでなく、整備士や索敵係も諦めたように肩を落とした。


「……わかりやした、わかりやしたよ! こちとらラグナロクじゃ戦艦五隻を沈めた面子なんだ! 無茶を通すくらいわけねえでさ!」


 操舵士は拳をパンと合わせて気合いを入れると、ルシファーに乗り込んでいった。

 他の乗組員も後に続き、ベルゼルガとジャッカルは顔を見合わせて笑った。


 と、その様子をルシファーの降下ハッチから見ていた死神とバンプだったが、いきなり首根っ子を掴まれて危うく落ちそうになった。

 振り返ると神楽が眉間に皺を寄せて立っていた。ほんとうに、里原準に似た威圧感を放っている。


「あぁんた達ねえ。暇があるなら機器の搬入を手伝いなさい!」

「へ、へい」

「へ、へい」



 ◇ ◇ ◇




 空では戦いが続いていた。

 巨大な機械の蛇――いや、龍の周囲を光が飛び回っている。

 機動歩兵が放つブースターの光だ。

 光と爆発が龍を何度も包んでいた。

 この巨大な機械龍は無人兵器、龍怒ロンド

 最終戦争ラグナロクの際に当時の魔導社が投入し、戦争終結後は天国を守護すべくクロスキーパーに配備されていた拠点制圧兵器である。

 その用途に沿って武装は多彩。円柱状のコンテナには幾つものレーザー砲や機銃、ミサイル発射管を搭載し、そのコンテナを連結させることで龍のような形状をしている。

 さらに最前に位置する頭部コンテナには口の部分から大型閃光砲を発射することまでできる。

 前後左右上下、あらゆる方向に攻撃が可能であり、つまり死角がない。重火力だけで見るなら異界屈指の兵器だ。


「三番機被弾!」


 機動歩兵の一機が肩部から煙を上げながら飛んでいた。


「三番機は距離をとって後方支援に回れ! 二番機と四番機は近接戦闘!」

「了解!」

「了解!」


 飛び回る機動歩兵の中に、部下へ指示を出す赤い機体があった。

 イーグル・ジョーカーの駆るカデンツァだ。

 他の機動歩兵よりも素早い動きで、龍怒から放たれる網のような光線の連射をかいくぐり、その砲台をヒートブレードで破壊した。

 巨大兵器に対し、この機動歩兵隊は決して劣勢というわけでもなかった。

 龍怒は既にミサイル発射管を全て潰され、巨体のそこらじゅうから黒い煙をあげているのだ。


「あと少しだ! こいつの武装を剥ぎ取ってやれ!」

「一番機、閃光砲チャージ!」

「五番機、閃光砲チャージ!」


 二つの機体の腹部から青白い光が溢れだした。


「二番機、バズーカによるチャージ援護に回ります」

「四番機、バズーカ弾数ゼロ……シュトゥルムファウスト撃ちます!」


 レーザーの弾幕を避けながら、四番機は龍怒の体にシュトゥルムファウストを撃ち込んだ。

 大爆発と共に最後尾のコンテナが崩れ落ち、龍怒は連結を外してそれを破棄した。

 その一撃を機に一番機と五番機は腹部から閃光砲を放った。

 青白い光の柱は残り少なくなった龍怒の武装をなぎ払い、攻撃の手を次々と封じていく。


「三番機の修復状況は!?」

「ナノマシン稼動率70%! 破損部は八割がた修復!」

「了解した。三番機はカデンツァの後部に回り、突撃を支援せよ!」

「了解! カデンツァ――隊長に付いていきますよー!」


 ヘヴィゾン三番機は二回スラスターをふかし、それから出力全開で赤い機体の背中を追う。

 突撃の先頭を切るイーグルには、龍怒のいかなる攻撃も当たりはしなかった。


(私には攻撃が〈聞こえる〉)


 龍怒が攻撃を放つ時には、既にイーグルのカデンツァは回避行動を終えているのだ。

 カデンツァの並はずれた機動力も相まって、まるで予知能力を思わせる動きだった。


(これが私の、イーグル・ジョーカーの司る音! 〈反響〉!)


 彼女は自分の身体から絶え間なく微弱な音波を放つことができる。音波を周囲の物質に当て、彼女の音波領域全体を把握できるのだ。

 潜水艦などで用いられるソナーと似ているが、少し違う。あれは音波が往復し、帰ってくるまでのタイムラグがある。しかし彼女の放つ音波は彼女自身なのだ。つまり音波がモノにぶつかった瞬間、彼女は状況を感じ取ることができる。

 イーグルにしか扱えず、最高峰の索敵能力を有する。彼女自身がレーダーとなっているということはつまり、目で見て思考を経なければならないレーダー機器などとっくに超越しているということだ。

 砲口の向きまで容易に把握できるイーグルに、攻撃が当たるわけがない。


「三番機は一斉射撃の用意を」

「完了しています」


 カデンツァの後を飛ぶヘヴィゾン三番機は、大量の銃口を敵に向けていた。

 強烈な決定打という点では機動性重視のカデンツァよりも火力重視のヘヴィゾンの方が上回っている。

 事実カデンツァに装備された閃光砲が三門なのに対し、ヘヴィゾンは胸部ハッチの中に八門、全身と合わせて二十を越える。加えて実弾兵装まで充実しているときた。

 拠点防衛を目的としたセメタリーキーパーという機動歩兵も重火力だが、このヘヴィゾンはその更に上を行き、同時に十分な機動性をも確保した最新鋭機なのだった。


「隊長、斜線上から退避を」

「任せた三番機」


 先行していた赤い機体は鮮やかな軌道を描きながら、三番機に道を開けた。

 目の前には龍怒の頭部が迫っている。あらゆる砲台を破壊され、満身創痍の状態だ。破壊できるものは徹底的に破壊する破壊業者を相手にした末路がこの有様。

 空でうねりながら黒煙を撒き散らす機械の龍は、とどめを刺される前に最後の反撃に出た。

 がぱりと口を大きく開け、露出させたのは大型閃光砲。

 ただ、そんな抵抗も虚しくチャージを開始すると同時にヘヴィゾンの一斉射撃を飲み込むこととなった。

 もはや龍の形すら保っていない龍怒は各所から爆発を起こし、黒煙に包まれながら空から落ちて行った。

 巨体が海へ落ちたことで、機動歩兵隊の下では高い水飛沫が上がっていた。


 彼らは天国の空母から逃れ、龍怒と交戦しながらユグドラシルレールに近づいていた。

 破壊業者は天国の兵器に攻撃されたことで契約決裂となった。

 だがイーグル率いるこの部隊だけは戦場から引くわけにはいかないのだ。

 約束があるから。恩があるから。

 自分たちをあの戦火の中、守り抜いてくれた局地・銃撃戦闘部隊の目的を引き継ぎ、想いを背負っている。だからまだ彼女たちはこの戦争――惨劇の起こした宴の舞台から降りるわけにはいかなかった。

 ベルゼルガと戦うまで。


 ここでヘヴィゾンの一機が異常に気付いた。

 

「隊長、強大なエネルギー反応が」

「何?」


 ジャッカルの音波感知でも周囲の異常は感じ取れない。

 それでもカデンツァの計器も異常を報告している。モニターにはアラート表示。


(私の能力で感じ取れない。しかし計器はエネルギー反応を示している。しかもだんだん大きくなっている……これは――まさか!)


「全機回避行動だ急げえええ!」


 機動歩兵隊の周囲が――歪んだ。

 空がうねった。

 景色が幾つも吸い込まれてゆく。


 空の青は、エメラルドグリーンに染まった。


 機動歩兵隊は一瞬のうちに無数の魔法陣に囲まれてしまった。

 これは――グングニルの魔法陣。

 地獄旅館を襲った時よりも小型だが、数が多い。

 魔法陣を目の前にした隊員はうろたえた。


「オ、オーディン!?」

「あれは自律兵器じゃない筈!」

「て、天国は最初から破壊業者を……」

「捨て駒かぁ……!」


 さすがのイーグルもヘルメットの中で額に汗を浮かべた。

 小さく舌を打つ。


「多数の魔法陣を放ったということは、オーディンを本格起動させたのか」


(フライヤ・プロヴィデンスにとってNO.13の裏切りは想定内だったのだな。ならばあの小娘の目的はなんだ? 自勢力どころか破壊業者ごと無駄に戦力を削いでいるだけだ……)


 魔法陣は回転を始める。

 グングニルを撃つ準備に入ったのだ。

 それを見た機動歩兵隊はイーグルの合図で急速上昇して魔法陣から逃れようとした。


「駄目です隊長、張り付いてきます」

「百発百中の槍か」


 全速力で逃げるが、魔法陣は各機体の真後ろにぴったりと張り付いてきた。

 銃口を面前に突きつけられているようなものだ。

 そしてこれこそグングニルという攻撃が百発百中と呼ばれる由縁。

 オーディンの砲口と標的を魔法陣によって零距離にする。世界のあらゆる場所へ攻撃可能で、放たれれば必中。ゼブラ・ジョーカーの創造した戦略傀儡兵はそのコンセプト通り、一機で戦争に勝利する力を有していた。


「隊長! ヤバいですよ!」

「………」

「隊長!」


 魔法陣の回転速度は最大に達した。

 その間近にある各機動歩兵はエメラルドグリーンの輝きに包まれた。





 ◆ ◆ ◆





 白と黒の傘が揺れる。廻る。


 くるりくるり。

 くるりくるり。 


 白の傘の下には青い髪。

 黒の傘の下には赤い髪。


 白百合と黒百合。

 双子の、双百合。


「惨劇様は部屋の中ね黒百合」

「惨劇様は部屋の中よ白百合」


 二人は大きな扉の前で立っていた。固く分厚い門のような扉だ。

 辺りは冷たい空気が流れ、青白く、そして暗い廊下が続く。

 扉の両側で彼女達は傘を廻す。

 遠くから足音。重々しい靴音が近づいてくる。

 双百合はそいつを横目で眺める。

 扉の前に、一人。ディーラー・スペードは立った。


「……惨劇様は動けない状態か?」

「ええ、そうよスペード」

「ええ、そうよスペード」


「《最強のサクリファイス》。そいつとの戦いへ向けたシミュレーションか」

「ええ。ゼブラ・ジョーカーの造った」

「仮想最強との戦闘シミュレーション」


 どうやらこの扉の向こう側で惨劇は架空の最強と戦っているらしい。

 飽くまで架空。

 誰も見たことがなく、存在すら疑われる最強をゼブラがどうやってシミュレーションに取り込むことができたのかは不明である。

 その疑問はスペードも抱いており、ぼそりと呟いた。


「彷徨いの日記でしょう」黒百合が答える。

「彼女は、世界の理に最も近い存在だったのではないでしょうか」


 ふむ。と、スペードは腕を組んだ。

 素体のラビット・ジョーカーは華奢な男だったが、人工筋肉搭載の強化スーツを纏った彼の腕は太かった。


「零鋼が魔導核を持って帰還すれば、起源への扉が開く。すべてゼブラ様が用意していた。あの方は一体何者で、どこへ行ってしまわれたのか。あの方の創造物である私にもわからん」

「それは惨劇様と」

「鴉天狗にしかわからないでしょう」


 つまるところ、NO.13のメンバーであるこの者達にも不明な点が多々あるのだった。惨劇の行動に従い、惨劇の為に存在するのだから、全てを把握する必要は無いのだろう。

 双百合は腕を組む兵器を両側から見つめた。


「ところでスペード」

「ダイヤの姿が見えませんが」


 言われ、スペードは首を振った。

 のっぺりと頭部を包む仮面の下から篭もった息が漏れる。


「ダイヤは様子がおかしい。妙に攻撃的になっている。頭痛が酷いようだが……素体の里原準に原因があると思われる」

「ならばゼロちゃんの回収に二人で向かってください。少しは和らぐと思います」

「あまり戦火の中に里原様を入れたくはないのですが仕方ありません。例の五人を仕留められない貴方達の責任でもありますし」


 スペードは「フン……」と踵を返し、双百合と扉の前から去っていく。

 その背中を見送る二人のうち、白百合が目を細めた。

 彼の存在する理由が哀しくぼやけて見える。思考や感情を与えられた彼とダイヤは死した者の身体で生きる兵器だ。そして今はラビットと準の生きた身体を借りて生きている。

 そう。彼らは生きているのだ。肉体に寄生しなければ存在できない無機物であってもだ。

 惨劇は彼らをただの生命維持装置兼、安全な場所としてしか見ていないだろうが。


「どうしたの白百合?」黒百合が問う。

「私たちは、とっても恵まれているわね」白百合が呟いた。


 黒百合も白百合の考えていたことを把握したのだろう。頷いた。


「だけどね白百合、ディーラーズはわかっているのだと思う。実のところ、今の彼らはからっぽ。十年前、彼らは存在理由を失ったのよ。それでもNO.13へ招いたのは、惨劇様なりの優しさじゃないかな」

「……そうね。ねえ黒百合、あの五人に話してあげるべきなんじゃないかな」

「私も同じことを考えていたの白百合。あの子は惨劇様と同じく里原様を愛している。何も知らないというのは、あまりにも酷……」


 惨劇が何故ディーラーズを呼んだか。それは前述の通り、生命維持装置代わりを第一としているからだ。

 ラビットは余ったディーラー・スペード用の補充要因にすぎない。

 惨劇は里原準のことしか考えないからだ。

 つまり全ては二の次。ディーラーズは、里原準の為に呼ばれたのだ。

 ……生命維持装置かつ護衛として。


「救えるのは惨劇様だけ……」

「これ以上の抵抗は、あの子――死神ロシュケンプライメーダにとって自分を傷つけることになってしまう」


「だから宴から省いた」

「なのに宴に介入してきた」


「可及的速やかに過去からこの世界、この運命を破壊しなくては」

「里原準は死んでしまう」





◆ ◆ ◆





 世界遺産ユグドラシルレールは、新たな鳥をはばたかせようとしていた。

 鳥の名はルシファー。

 轟音を鳴らし、長く巨大な坂道を上がってくる。


「すごいぜー!」


 ルシファーの中、椅子に固定された死神は足をばたつかせていた。急斜面により、身体がほぼ上向きになっている。

 思い出すのはジェットコースター。

 楽しかった。

 里原準と二人、ゴールデンウィークに死神がどこかへ連れていけとねだった結果、向かったのが遊園地だった。

 隣には準が居た。困ったような顔で、それでも一緒に楽しんでくれた。


 思い出すは幸せの日々。

 変化はあれども彼が居るのは大前提だった。

 幸せを根底から失うのが怖い。

 もしも、準を失ってしまったら。

 死神というこの少女は――


「………」


 はしゃいでばたつかせていた死神の足が、ピタリと止まる。

 隣に座ったベルゼルガが彼女の顔を覗いた。


「泣いてんのか……?」

「泣いてなんかいないよ」


 死神は顔を拭う。

 後ろに座った神楽とバンプも、死神に声をかけた。


「気分でも悪い?」

「ロシュ大丈夫?」


 こくりと頷く。

 ベルゼルガは死神の頭にグローブをはめた手を置き、くしゃくしゃと撫でた。


「里原準は助かる。てめえが助けんだよ。魔導社で俺を地面に沈めたコンビだろ、自信持てよコラ」

「うん、余裕だぜ」

「デストロイ声がちいせぇ!」

「デストロイ余裕だぜー!」


『残念ながら余裕かましてらんないですよ皆さーん!』


 ……操縦室のジャッカルからだ。

 空気読めよコラ。という言葉を全員が喉に詰まらせた。

 ジャッカルの艦内放送は続く。


『ユグドラシルレール上部に敵の迎撃部隊を確認しました。どうやら機動歩兵隊のようです』


 ジャッカルの言葉通り、ルシファーの進む先――レールの頂上には……赤い機体の率いる部隊が居た。




 ◇ ◇ ◇




「目標とおぼしき高速艇を確認。総員、戦闘準備……」

「了解……」

「了解……」


 隊長、イーグル・ジョーカーの指示に返答したのは二機だけだった。

 ヘヴィゾン二番機と四番機のみ。一、三、五番機の機影はなかった。

 三機の機動歩兵はどれも戦闘のできる状態ではないのは一目瞭然。

 二番機は片足を失い、四番機はスラスターから小刻みに黒い煙を吹き出す始末。隊長機であるイーグルのカデンツァでさえ、装甲がいたる箇所はがれ落ちていた。


「二番機、四番機。機体の損傷度および武装状態を報告せよ」

「二番機右脚部破損。左肩部融解により左腕使用不能。閃光砲と対物ライフル、ミサイルが使用可能」


 イーグルは舌を打った。


「四番機報告は?」

「………」

「四番機報告をしろ。三人の脱出は確認した。生きている」

「四番機――スラスター損傷。バランサー及び調整バーニアへの損傷はありません。武装はバズーカ、シュトゥルムファウスト、手榴弾が弾切れです。あとは大型マシンガンと閃光砲、近接兵装のみ」


 カデンツァは持っていた自分のマシンガンを四番機へ渡した。

 カデンツァの武装はこれで閃光砲とミサイルのみになった。


「二番機は遠距離支援。四番機は中距離を維持して弾幕を張れ。私は近距離であれを落とす」


 三機はユグドラシルレールの上に着地した。

 目下にはこちらへ向かって登ってくる標的。

 レジスタンスが全滅した今、こんなタイミングで空へ飛ぼうとする飛空艇などまずありはしない。

 つまりあの飛空艇――ルシファーにはベルゼルガ達が乗っているとみて間違いない。イーグルは間に合ったのだ。

 破壊業者として。教官として。想いを背負う者として。


「勝負だ――ベルゼルガ」


 その気迫まさに鬼神。

 赤き鷹の合図と同時に、三機の機動歩兵はスラスターを全開に。

 目標のルシファーへ向け、ユグドラシルレールの急斜面を一気怒濤に駆け下りていった。

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