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宴章 オワリノハジマリ

「ふらふら歩くなっつうの」

「いいなぁ〜、メアいいなぁ〜」


 アスファルトで舗装された道を歩く二人組。

 両方とも買い物袋を手から下げている。

 凸凹コンビと称するにはあまりにも異質な組み合わせだが、この二人はかれこれ一年以上もの付き合いだ。

 一年といえば短く聞こえるかもしれないが、この二人にはあまりにも色々な事が起こりすぎてかなり親密な間柄である。

 片方の男は耳にピアスを垂れ下げ、青みがかった黒髪を耳が隠れるか否かという程度に伸ばしている。なんだか常にやる気のなさそうな顔をしていそうな印象だが、今は相手が相手だからだろう。


「折角だから二人にさせといてやれよ」


 そう言われたもう片方の少女は、不服そうに頬を膨らませた。

 というかコロコロ変化する表情とか、金色の髪とかはまだわかる。活発だなぁ、という印象を受ける程度で済む。

 だが少女の格好はとんでもなかった。

 黒いローブなのだ。

 よく絵本に出てくる魔法使いとか魔女とかが羽織っているアレである。

 かといってこの少女、森の奥に住んだ事もなければお菓子の家を作った事もない。(お菓子の家は作りたいと思っているようだが)

 では黒いローブは何を意味するのか。

 ……フォースの暗黒面に目覚めたわけではない。赤いライトセーバーは振り回したりしない。

 この子が振り回すのは大きな鎌。


 彼女は死神だ。


「だって私も旅行とかしたいー! したいしたいー!」


 死神の少女ロシュケンプライメーダ・ヘルツェモナイーグルスペカタマラス七世は、ビニール袋を握った手を大きく振り上げた。

 中に入っている卵に口が付いていたなら、間違いなく悲鳴をあげていただろう。


「買ったもんが割れるだろ!」

「私も旅行いきたい! いきたい! ねー、準くん連れてって〜」

「うへぇ〜、涼しくなってきたからってまだ暑いからくっつくんじゃねえよ」


 死神と里原準。二人の話題はナイトメアと佐久間冬音の事だった。

 なにやら二人で海外旅行へ行ってしまい、羨ましく思った死神がこうして準にねだっているのだ。

 ほとんど相手にされてないけど。


「ねえ! 聞いてる準くん!?」

「聞いてる聞いてる。目玉焼きにマヨネーズかけるとか言ったらぶっ飛ばすぞ」

「言ってねえー!」


 けだるそうに足を進める準。その足にしがみつき、ずりずりと引きずられて進む死神。

 ああ、凸凹コンビなどと称したら世界中の凸凹コンビに迷惑だ。

 そもそも頻繁に凹凸が逆転するので厄介な関係。だが不思議とバランスが良いようにも思える。


「ベジタリアンって格好いい呼び方だと思うでしょ!」


 思ったことはすぐ口に出すのが死神の癖。もっとマシなことを思わないのだろうか。


「〈野菜戦士、ベジタリアン〉ってか」

「アハハハハ! 〈野菜買うわよ、オバタリア――〉」

「古いなオイ!」


 最近はツッコミ担当も同調し始めたものだから質が悪い。

 すっかり旅行へ連れていくいかないの話題は彼方へ飛び去り、二人は途方もない話をしながらいつものように家へ帰るのだった。


「あっ、私夜叉さんのトコ行かないと!」

「なんでだ?」

「夜叉さんに本貸してるの!」


 本の題名は聞かない方がいい。準はその事を身に染みてわかっていたが、同じくらい身に染み込んだ本能が彼の口を開かせた。


「なんの本だ?」

「ホラーの本」

「ほほうタイトルは?」


「〈彼女に殺虫剤をかけられた話〉」

「………」


 怖いといえば怖い。

 里原準という男もさすがに悶絶した。

 そして同時に彼の中で不安が募る。二人の感性に対する不安だ。とんでもない響きのタイトルの本を二人は笑いながら読むのだろうか。彼はせめてホラーとしてビクつきながら読んで欲しいものだと願った。


「すごく笑えるんだよー!」


 準は困ったように笑い、死神の頭に拳を当てていた。




 ◇ ◇ ◇




 場所は変わって地獄旅館。

 自由奔放な大将によって管理されるここは、今日も今日とて活気に満ち溢れていた。

 その最上階に一つの部屋がある。

 金色の飾りつけがなされた黒を基調とした部屋だ。多くの人が訪れ、地獄旅館の方針を固めたり、大切な話をする際に用いられる。

 そんな部屋の中で、机の上に両足を乗せて椅子にもたれかかり、脱力する男が一人。


「あー。たりー」


 ……こんな第一声を漏らす大将で大丈夫なのかと問いたくもなるが、事実彼こそが地獄アジア支部の支部長。この部屋の主、閻魔なのだ。

 地獄終わったな、とか思わないで欲しい。

 彼もこう見えてなかなかできる男だ。


「ゴロゴロして遊びてーなー」


 たぶんできる男だ。


「ナンパ行くか」


 やっぱ考え直そう。


 性格や行動はさておき、相当な実力者であることは紛れもない事実。

 この地獄旅館全体に魔力を流し込んでコーティングしているのも彼なのだ。閻魔とこの施設は密接に関わっていると言っても過言ではない。

 エリート餓鬼という親衛隊を第一権限で指揮するのも彼だ。

 あとは書類仕事もあるようだが……どうやらその辺は他人に任せてあるらしい。

 しばらくぼやきながら椅子の上で揺れていた閻魔は壁の方に顔を向けた。

 なにやら一振りの大剣が飾られている。


「おいドミニオン」


 大剣に呼び掛ける。

 するとそれはカタリと動き、反応を返してきた。


〈んだよ〉


 魔剣ドミニオン。それがこの剣の名前である。

 閻魔の愛剣であり相棒。魔剣と呼ばれるだけはあり、その攻撃力に比例して使い手の魔力を吸い上げる量も膨大。

 もちろん御覧の通り、話すこともできる。


「今ここから逃げ出したらどうなると思うよ」


 魔剣はうーん、と少しだけ考えた後、すらすらと述べた。


〈まず治安課に気付かれる。それからエリート餓鬼の指揮権が治安課に移動する。エリート餓鬼が捜索を始める。白狐と夜叉と歌舞伎も加わる〉

「………」

〈お前捕まる〉

「………」

〈お前気絶〉

「………」


〈簡略化すると――閻魔は逃げたら気絶する〉

「うるせえわかったよ!」


 勢い良く立ち上がると、閻魔は早足で魔剣に近づく。

 柄を握り、壁から離すとそれを二回ほど振った。

 空を裂きながらドミニオンは思う。こいつまさか、と。


「フハハハ。行くぜドミニオン」

〈俺を巻き込むんじゃねえよ!〉


 愛剣を肩に乗せ、勇ましい足取りで閻魔は部屋を出ていく。

 無論、先程ドミニオンが説明したように彼が仕事をほっぽりだして逃げればどうなるかもわかっている。

 それを知りながらか、はたまたそれが目的か。

 実は後者なのだろう。

 鼻歌。そして笑い声と共に堂々と逃げるべく、閻魔とドミニオンはいざ出陣。


 今日もまた、いつものように――みんなを活気づけようと。




 ◇ ◇ ◇




 里原準と死神が本を返してもらおうと地獄旅館へ訪れ、どこかをぶらついている頃と時を同じくして。

 別の場所では違う二人組が歩いていた。

 一人は女性。茶色に染めた髪はポニーテールに結ばれ、歩くたび軽やかに揺れる。太陽のようににこにこと笑い、相方と並んで歩く。

 対して――この相方。男の子だ。もう既に表情が若さにそぐわない疲労感に満ちており、哀しいかな一発でこういう立ち位置の者なのだとわかってしまう。

 須藤彩花と吸血鬼ヴァンパイア・マーカスの二人だ。

 このコンビも凸凹の高低差が激しすぎる。


「あらあら、なんだかまた騒々しいわね」

「きっと閻魔さんだよ」


 周囲を見回すと、慌ただしく人を掻き分けて駆け抜ける姿がチラホラ。

 ここでは有名かつかなりの人気を誇るエリート餓鬼だ。

 彼等が駆け抜ける時は大抵、ここの大将を追いかける時。恒例行事と言ってもいい。

 彩花とバンプは中心街の人混みの中で彼等を見送った。


「そういえばバンプ、あのエリートちゃん達はどうして包帯を顔に巻いてるのかしら?」

「エリート餓鬼だけじゃなくて普通の餓鬼も巻いてるけど、さすが目の付け所が違うね彩花さん」


 エリート餓鬼は全員同じ格好をしている。

 スーツに手袋、首を含む頭部全体は包帯で巻かれている。個人が特定できないほど統一された装いだ。


「やっぱり理由があるの?」

「みたいだよ。閻魔さんは教えてくれないけど、包帯で覆うのは規則なんだってさ」

「そうなの」


 ここでヴァンパイアが、あっと声を漏らした。

 嬉々とした表情で人混みの中を指差す。


「夜叉さんみっけ!」

「あら、本当……え?」


 彩花は目を細め、人混みの中の着物姿をよく見ようとする。

 夜叉という人物のシルエットに間違いはない。彼の格好は銀色と紫色の着物を纏い、白い般若面を付けているのだ。地獄旅館を利用する者なら誰もが知り得るアジア支部幹部の姿。

 彼をしばしば鬼と称する者も居るが間違いではない。


「ねえバンプ、あれ夜叉ちゃん?」


 だが彩花は夜叉の姿に疑問を抱いた。

 確かにシルエットは彼のものに間違いない。

 しかし〈色〉が異なっていたのだ。

 人ごみ――蛇足だがここでの人とは魂や異界の者の事だ――に紛れていたから判断に時間を要したが、バンプもその事に気が付いた。


「う、あれ? 夜叉さんの仮面、黒色だ」

「着物も全然色が違うわよ。黒と赤だもの」


 漆塗りのように艶のある黒い般若面が光っていた。

 色が全く異なった夜叉。黒い鬼はそのまま人の流れに沿って行ってしまう。

 エリート餓鬼が駆け抜けていたのに対して黒い夜叉はゆっくりと歩いている。


「どういうことなんだろうね」

「訊いてみたらいいわ、行きましょう」


 彩花はバンプの手を引き、夜叉を追うことにした。

 廊下や店の前を歩く間も、その鬼は色が違うだけで夜叉そのものだった。足の運び方も、人の避け方も。

 むー、と難しい顔で観察しながら二人は後をつけていたが、対象が突然消えたので焦った。


「あら」

「あれ!?」


 二人は首を様々な方へ向けて夜叉を探す。

 どこを見回しても色の違う鬼の姿はなく、二人はただ首を傾げるばかりだった。


「消えちゃったわね」

「なんだったんだろ」

「また後で訊いてみればいいわ。案外、イカ墨を被っちゃっただけだったりするのかも」

「夜叉さんはそこまでドジじゃないと僕は主張するよ!」


 後で訊こう。

 そう軽く納めた彩花だったが、いくら勘の冴えわたる彼女でもさすがに気付けなかった。

 それでは遅いという事に。




 ◇ ◇ ◇




「あやー、準くん大丈夫?」

「……おー。悪いな」


 地獄旅館の中心街からすこし外れた、とある食事処で死神と里原準は休憩していた。

 従業員の餓鬼が持って来てくれたおしぼりを準は額に乗せて横になっている。その隣に死神が心配そうな顔で座っていた。


「熱っぽかったの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」


 この食事処、昼前だというのに客がほとんどいない。

 静かで、涼しくて、材木の香りがおもわず長居したいと思わせる。そんな居心地のいい場所にも関わらず。

 夏の名残りか、施設内で風なんて通らないのに風鈴が何個か天井から垂れており、準はただぼうっとそれを眺めていた。風鈴を見つめる視界の中にはちゃんと隣の死神も含まれている。

 なにか、果てしなく遠いなにかを。見つめる。


「準くん?」

「………」


 問いかけるも準は黙って一点に目を向けたまま。仕方なく死神も同じように風鈴を眺めることにした。

 食事処の外は人でいっぱい。なのに今、二人が居るこの場所この空間はとても静か。

 風鈴の柄は金魚柄かあ、と死神は思う。準は何を思っているのかわからないが、彼女は彼の隣に居た。

 死神の居場所は準の隣。それは自然に成り立った定位置であり、互いに納得している。だからこの位置に居る限り、安心は保たれる。死神はそう考えていた。


「……なあ」


 準が口を開く。


「オレとお前は、どうして会ったんだっけか」


 そう言われた死神はちょっとだけ首を傾げ、答えた。


「私が押し掛けたからだぜー!」


 はは、と準は額のおしぼりに片手を当て、肩を震わせて笑った。

 そういえばそうだった。そう思えてしまうくらいあれは突然のことで、彼の中での常識を逸脱していた。


「改めて思いだすとわけがわかんねえな。学校から帰ってきたらいきなりお前、漫画読んでくつろいでんだから」

「えへへー」

「あれは本当に、偶然オレを選んだのか?」

「え?」

「なんとなく偶然じゃないんじゃないか、って。オレは思うんだ」


 膝を抱えて準の話を聞いていた死神。

 出会った頃と変わらない黒ローブ姿の自分をなんとなく眺めてみた。


「偶然じゃないかも!」

「お?」

「私もよく覚えてないんだけどね、なんとなく準くんには会ったことがあるんじゃないかなー? って思ったの。だから準くんのところに行ってみたの」

「うーん、お前みたいなブッ飛んだ奴に会ったら絶対忘れねえよ」


「………」

「………」


 苦笑いの二人。しばらく眉間に皺を寄せたまま互いに見つめ合っていたが――

 咳を切ったように死神が飛びかかった。

 知る人ぞ知るフェニックススプラッシュを助走なしでかましたのだ。


「誰がブッ飛んだバストじゃー! そりゃ私に対する嫌味かい!? えぇ? 兄ちゃん!」

「うっせ! うっせえ! バストとか一言も出てねえだろ!」


 ぽかぽかと叩きあいを繰り返していたが、死神の頬を引っ張っていた手を突然準は止めた。

 ぽつりと、


「もう来た……か」


 呟いた。

 何かが来たのか、誰かが来たのか、よくわからなかったので死神は聞き流した。

 手を下ろした準は額に乗せたおしぼりを外して頭の隣に置く。


「……疲れたからオレはちょっと寝る。その前にちょっとだけ、聞いてくれるか?」


 死神の顔を引き寄せ、言う。

 その神妙な面持ちに少女は首を縦に動かした。


「次に目が覚めた時、きっとオレはオレじゃなくなっていると思うんだ」

「どういうこと?」

「その……オレは借り物の命で生きていたから、それを返さなくちゃいけない」

「わ、わかんないよ。何言ってるの?」


 本当に死神には準が何を言っているのか理解ができなかった。

 溜息のように息を吐く彼の顔はどこか寂しげで、いつもの凛々しさや力強さは薄れていた。

 嫌な予感、というのだろうか。死神にはそう感じられた。


「死神は強いから、きっと大丈夫だ。ずっと見てきたオレが言うんだから自信を持て。オレとお前が出会ったのにはやっぱり理由があると思う。もしオレがオレじゃなくなっても、お前はオレを信じていて欲しい」

「そんなの当たり前! 急にどうしたの準くんらしくない!」

「は、そうかもな。やっぱりお前の隣は居心地がいい……。ここに置いていこうかねえ」


 もはや独り言ともとれる呟きを必死に聞き取ろうと死神は耳を準の口元に寄せていた。

 すると彼女の頬に、唇が当たる。


「わりいな、はは。いろいろ説明できなくて。メアちゃんの件が関係したかはわからねえけど、ちょっと時期が早まった」


 彼の語る内容が全く以てわからない。

 ただ疲れて眠るだけなのに、まるでしばらくの別れを予期させるような内容なのだ。

 突然も突然。理解しようという方が難しい。


「えっと、準くん?」

「ん」

「私、帰ったらお味噌汁が飲みたいなー」

「OK任せろ」


 それを聞いて死神は安心した。

 これは一つの約束を交わさせたということ。彼はよくわからない事を口にしたが、それでも帰ったら味噌汁を作ってくれる。

 今まで里原準という男は作ると言えば必ず作ってくれたのだから。


「やったぜー!」

「たかが味噌汁で喜びすぎだろ」

「えへへ」

「じゃ、オレ寝るから」

「うん、私は隣に居るよ」


 ああ、と準は呟いて眠りについた。

 彼はこの後すぐに目覚める。

 しかしながら――


 目覚めた彼が死神との約束、味噌汁を作ることは決してない。


 日常を取り戻そうと誰よりも必死になり、誰からも頼られ、一目置かれた青年。里原準。

 成人したばかりの彼はとても過酷な過去を基に存在していた。


 彼の視点で描かれてきた尊きモノ達は――総て無に帰す道を歩み始めることになる。



 ◆ ◆ ◆



【オワリノハジマリ】



 瓦が張り巡らされた天守閣の上。地獄のてっぺんは常暗い闇に閉ざされ、屋根を覆う瓦もまた怪しい黒光りを放っていた。この下では、この中では安全を保障された魂や餓鬼をはじめとする異界の住人達がにぎやかに動いていることだろう。

 異界の月は満ち、黒の陰欝さをより際立たせる。すべての黒は闇と月夜の下、最も恐るべきものと化す。

 瓦屋根の上から月を見上げるこの黒い鬼もまた、恐るべき存在。


「いい夜だ。血は鮮やかに舞い、屍は闇に溶ける」


 黒い般若面をつけた男は黒衣を風にたなびかせ、肩を震わせた。笑っているのだろうか。険しい怒りの表情を有した般若の顔では彼の表情をうかがうことができない。

 腰には通常より尺の短い太刀が二振り差してあった。


御頭おかしら……」


 彼を呼ぶ言葉と共に闇から姿を見せたのは、頭に包帯を巻いたスーツ姿。

 エリート餓鬼と呼ばれている者だった。

 黒い鬼はその男の方へ顔を少しだけ傾け、言葉を聞く。


「……すべて、整えり」

「御苦労。誠に重畳」


 頭を下げた包帯男は一歩下がり、頭に巻いた包帯をシュルシュルと解いた。

 現れたのは鋼鉄の仮面。その者を筆頭に、闇に隠れていた他のエリート餓鬼達も次々に顔の無き姿を曝け出してゆく。

 御頭と呼ばれた黒き鬼はぼそり呟いた。


「忘れ去られし忍の亡者、狩魔カルマ衆。我こそは頭目・修羅」


 ジャキジャキと後ろの忍達は刃物や鎖鎌を取り出した。彼らは今か今かと合図を待っているのだ。

 その合図こそ――地獄旅館の上空に出現した巨大な魔法陣だった。

 エメラルドグリーンの輝きは彼らの士気を高め、次第に早まる回転はいっそうそれを促進させる。

 魔法陣の捕捉範囲内にあと一歩で入る位置で立つ黒き鬼――修羅は、先陣を飾る第一撃を加えるべく溢れ出す光を見上げ、叫んだ。


「狩魔衆、今こそ開宴の刻。闇に溶け、溶かし、葬り、血祀ちまつりにあげよ」

「雄ォおおおおお!」


 そして光の槌は振り下ろされ、地獄旅館を頂から地下まで一気に貫いた。



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