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第1話 再来 morning 

「冬音さーん! 朝ですよ起きて下さーい!」


 おわ……。

 朝か? 朝なのか?

 なんだ、なんかうるさいぞ?

 ふわっ! なんだ? やけに寒いぞ。

 雨か? 違う、雨じゃない。今は梅雨の時季だが、この強い日差しを見れば今日は快晴だとわかる。


 まどろみの中、私は目覚まし時計を引き寄せた。

 が、目覚まし時計は……なんだか針が折れ曲がっている。

 おぁ、私が昨日の朝に破壊したんだった。

 だってうるさいもんコイツ。


「冬音さあああああん!」


 うるさいよ。

 

「ふうゆうねさああああん!」


 ぬう。

 なんだ。なんでそんなに私を起こしたがるのよ?

 関係ないぞ、ああ、関係ないんだ。

 よし、私は布団だ。

 二重の掛け布団の、その更に下で密かに活躍する、幻の三枚目だ。

 伝説の掛け布団だ!


 よし、いいぞ。

 今の響きはいいぞ。

 もう一回言ってみよう。


 伝説の掛け布団だ!


 おおっ。

 カッコいい。伝説の掛け布団、カッコいいぞ。

 まてよ?


 伝説の掛け布団。


 ん?


 んん?


 『伝説』と『布団』。この二つを合わせてみると……。

 むしろ布団という字が『ぬのだん』と読める気がする。


 伝説の掛け布団。


 伝説の掛け布団。


 伝説の……掛け布……団。


 伝説のカケブ団。


 ………。


 で、伝説の……カケブ団!


 おおっ! セリフを付けてみよう!


『我ら、幻の三枚目! 伝説のカケブ団!』


 ………。


 ダッサ。

 何? カケブ団って。

 つーか軽くゲシュタルト崩壊起こし始めてんですけど。

 カケブ団ごときに翻弄されてたまるか。

 私は佐久間冬音だぞ。

 カケブ団なんかが束になっても敵わないお姉さんだぞ。


「冬音さんってばーーーー!」


 ぬああああ。

 やかましい、やかましいんだよ。

 目が覚めちゃったら仕方ない……なんて考える私じゃない。

 目が覚めた。まだ眠い。じゃあどうするのか。


 ……。


 二度寝に決まってんじゃないのBABY!

 しっかしやたら冷えるね今朝は。

 まぁいいや。

 さて、二度寝を決行してやろうかねえ。


 私を起こそうとするチビ娘の声に反抗して、さらに布団の中にもぐる。

 が、私は次の瞬間……信じられない言葉を聞いた。


「……下着をベランダから落としてやりますー」


 ……!?


 なんだそれは。下着をベランダから落とすのか?

 誰のをだ?

 私のか。

 いや待て。下着をベランダから落とすと私が起きるのか?

 どういうことだ?

 

 目を閉じたまま、自分の下着を落とされた状況を想像してみる。


会社員:『おや? 上から何かが落ちてきたぞ』

主婦A:『あらやだ。これ下着じゃない。若い子のかしらねえ』

OL:『この上は…佐久間冬音ちゃんの部屋ね』

主婦B:『あらまあ』

主婦C:『あとで届けてあげましょ』

幼児:『ふむ。それにしても意外に可愛らしい……』


 おおおおおおおお……!

 

 嫌過ぎる……!

 

 とても嫌過ぎる……!


 幼児が特に嫌過ぎる……!


 私はどうやってそれを受け取ればいいんだ!?

 笑顔か?

 よし笑顔だ。

 笑顔で下着を受け取るのだ!

 なんて言って受け取るんだ?


 むむ……。


私:『HAHAHA、アリガトウ。今、若者の間では下着を高い場所から落とすのがブームなんだ。ファンタスティック・シターギというスポーツなんだ』


 ……。


 ………。


 よし。いいぞ、完璧な言い訳だ。

 まさか私がファンタスティック・シターギの日本強化選手だったとは、誰も知らないだろう。私だって初耳だ。

 この状況をスポーツにしてしまう自分の才能が恐ろしくなるね。わはは。


 これで心置きなく二度寝が――


「あーあ。……冬音さん、今日は下着無しですねー」


 おおおおおお……!


 一体どんだけ落とすつもりなんだああああ……!


会社員:『フゥー! 今朝は下着フィーバーだなぁ!』

主婦A:『きっと佐久間ちゃんの部屋では下着フェスティバルの準備をしているのよ』

OL:『とってもクールじゃないの!』

主婦B:『あらまあ! じゃあこの下着達はどうしましょう!?』

主婦C:『カラフルにしちゃいましょう!』

幼児:『ふむ。佐久間氏の下着はもともとカラフルだから別に……』


 ごあああああああ……!


 フェスティバルかぁぁぁ……!


 つーか幼児いいかげんにしろぉ……!


 私はベッドから飛び起き、部屋を高速で出る。

 肌寒さなどそっちのけで、廊下を走りぬける。

 そしてそのまま居間へ駆け込んだ。


 どこだ!

 どこだ!?


 居間の入り口で目を右へ左へと動かす。


 居ない。


 落とすということは……ベランダか!


 そのままベランダの扉へ駆け寄り、勢いよく開け放つ。

 外へ飛び出た瞬間に、私の目に入ってきたのは――


 洗濯カゴに入った私の下着類を、一気に落とそうとしている小娘だった。


「貴様ああああ!」


 私は慌てて駆け寄り、ニット帽を被ったそいつの、両腕の下に手を突っ込んで羽交い締めにした。

 じょ、冗談じゃない。


「あ、やっと起きました冬音さんー」


「上等じゃないかカケブ団……じゃなくてメア」


「なんですか今の集団!?」


「い、いや。メ、メア……。お前はいつからそんなにお茶目な子になったのかなあ?」


「だってなかなか起きないんですもん」


 ふくれっ面をして、私の手から逃れようともがく。

 朝から……目が覚めたじゃないか。

 メアを解放して冷汗を拭う。


 そしてチラリとベランダから下へ、視線を送ってみる。


 幼児が駆けまわっていた。


 あ、危ない……本気で危ない。


「やれやれ。危うく下着フェスティバルだ……」

「もはや冬音さんは日本の恥ですね」



 ◇ ◇ ◇



「ふえぇ〜」


「すまん。勢いでポカってしまった」


 朝食を口へ運びながら、涙目のメアに謝る。

 ここは私のマンション。

 準のマンションよりは小さいし、セキュリティも万全ではないけど、なんつーか……温かみがある部屋なんだ。管理人も住人もみんな陽気だし。


「ところで今朝は妙に元気いっぱいで起こしてくれたみたいだが。どうしたんだ」


 頭を擦りながら朝食を摂るメアに、そう尋ねる。

 するとメアは 信じられない! とでも言うかのように驚きの表情になった。


「冬音さんの甲斐性なしー!」


 ふごお!

 メアのパンチが私の鼻先に炸裂した。

 痛い。


「今日は彩花さんとバンプが帰ってくる日ですよー! 冬音さんは甲斐性なしですー! ひどいですー!」

「痛だだだだだだだ……! か、髪を引っ張るんじゃない」


 こ、この子はいつからこんなに暴力的になったのかしら?

 そうか、そうだったなー。

 今日は須藤とバンプが帰ってくる日だった。

 半年振りかー。

 そっかそっかー。


 ………。


 ……………。


「なぁにぃー!? 須藤とバンプが帰ってくる日だとおおおおおお!?」


「アナタ昨日その話題ではしゃいでたじゃないですかー!!」


「おおおおお! こんなゆったりと朝食摂ってる場合じゃない! スローライフ万歳だが今はダメだ!」


「食べるの急に早っ!」


 そりゃそうだ! 須藤達が帰ってきたら、まず最初に準の部屋へ挨拶しに行くはずだ!

 そうなったら……。

 むむむ……。



須藤:『ただいま♪ 死神ちゃん、里原くん』

バンプ:『ただいまー!』


死神:『あーーー! おかえり二人ともーーー!』

準:『おー、おかえり!』


バンプ:『準くんあいたかったよぉー!』

準:『おお! オレもだバンプー!』

バンプ:『僕はもう離れない!』

準:『おう! Loveに満ちたワンダフルライフだ!』



 おおおおおおおお……!


 け、けしからん。


「準は渡さないぞバンプーーーーー!」

「どんな妄想したらそうなるんですか!?」


「とにかく、早く準の部屋に行くぞメア!」

「了解ですー」


 ぐっ、と拳を握り締め、勢いよく立ちあがった私だったが。

 何故か座ったままのナイトメア。

 そのまま私を見上げている。


「ん? どうしたメア」


 メアは頬を赤らめ、目を泳がせている。

 そして視線を横に向けたまま、私の胸元を指差した。


「え、えっと…。寒くないですか、そんな格好で……」


「ふぇ? そういえば起きた時からチョット寒いなぁ」


「そりゃそうですよ……」


 言われて私は自分の身体を見下ろしてみる。


 ………。


 ………。


 バスローブ一枚、身体に羽織っただけ。


「ははぁん、だから寒かったのか」


「リアクションそれだけ!?」


 さあ、準の家に急がなきゃだねー♪

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