淑女の依頼と呆然と
僕は死んでいる。死因は交通事故だ。
一時期は地縛霊になっていたらしいけれど、浮遊霊として目覚めた僕を、ひと悶着あった末、川奈さんがこの事務所に連れてきてくれた。
川奈さんの実家はお寺で、住職さんも、妹も霊感を持っている。つまりそういう家系なのだそうだ。なんなら川奈さんのお父さんに除霊されそうになった経験もある。あの時は本当に、もう終わったと思った。
そういうわけで、僕は川奈さんに恩がある。だから、幽霊になった今でも、こうしてここ、瀬野探偵事務所にて手伝いをしているのだ。といっても、出来る事は雑用か尾行調査くらいだけど。
結論を言うと、死んでいる僕が物に触れたりするのはおかしいという事だ。
でも、
「それは、この空間が、強い霊磁場を放っているからだ」
翌日、本当に家からテレビを持ってきた川奈さんは、ケーブルとかアンテナとかの作業をしながら言った。
「というと?」
なんとなく応接用のテーブルに手を伸ばしてみたら、やっぱり触る事が出来た。でも、この事務所の外に出ると、触れる物と触れない物があったりするのだ。
「ここにはお前という霊体が常駐している」
そんな某アメリカ軍基地みたいな言い方しなくても……。
「さらに、私という強力な霊感持ちが居る。となれば、この空間そものもに霊気が漂っていてもおかしくはないだろう?」
つまり、僕と川奈さんがずっとここに居るから、この空間そのものが霊体に近い空間になっている、という事だろうか。専門的な事はやぱりよく解らない。
「霊磁場、というのは、高ければ高い程、霊が居やすい空間になる。その数値だと思えば良い。ちなみに場所じゃなくて物単品とかでも霊磁場と呼んでいる」
「つまりここは僕にとっての優良物件なわけだ」
「有体に言うとな」
簡単に纏めると、幽霊たる僕に適した環境だ、という事だ。
「ポルターガイストとかもそれによるものが多いな。霊が居る。だから霊磁場が高くなり、霊にも物が触れるようになる。霊が見えない者にとっては、物が浮いているように見えたりする。強い霊磁場を放つ空間に強い霊が居ると、その霊が意識するだけで物が動く、という事もごく稀にあるくらいだ」
ケーブルを繋げながら川奈さんは続けて、そして飽きたのか、次のケーブルを掴もうとせずに放り出した。
「続きは明日だ」
「まだ昼前だよ?」
断念するのが早すぎる。
川奈さんはキッと僕を睨みつけ、言い訳をする態度の悪い後輩よろしくの表情を浮かべた。
「貴様に解るまい。こういう細かい作業は、大人になると苦行の一種なんだぞ」
「川奈さん、まだ二十だよね?」
「ふん、永遠の十七歳を我が物にしたお前からすればおばさんだろうが」
理不尽なふて腐れ方をしているところ悪いけれど、それじゃ子供の言い分にも劣るよ。どうして僕までとばっちりの批判を受けたのだろうか。
川奈さんはフローリングの床にそのまま座り込んで、勢い余って寝転がるのではないかと思う程深く、体を倒した。
「業者さんとかには頼めないの?」
「金がかかる」
まあ現実的。頑張りたくないけど楽も出来ないから放り出す。川奈さんの人間臭さは異常だと思う。
「あー、しかしめんどうだ」
「でも、ここまで持って来ちゃった以上は、ここに設置したほうが良いよ。家に持ち帰ろうと、同じことをやるわけだし」
外してしまった時点でもうアウトだったのだ。こればかりは諦める他ない。進む以外の選択肢は無いのだ、と言うとかっこよく聞こえるけどね。選択肢の幅を狭めたのが川奈さん自身だからどうしようもない。
「そんな事は言われなくても解っている」
再びキッと僕を睨む。その目、怒ってるのは伝わるけどあんまり怖くないんだよね。駄々を捏ねている子供にしか見えないから。
そんなチャイルドチックな川奈さんは、だから、と、どこか悟ったみたいいな目をして、
「明日から頑張る」
そう言った。
どうしよう。明日からはこのテレビの役割を果たしてくれない鉄変とケーブルの山達がただのガラクタになっているという場面しか想像出来ない。この人、絶対やらないよ。今やらないと絶対やらない。
「頑張ろうよ。僕も出来る限り手伝うから」
そう言いながらケーブルを掴もうとした手首を、川奈さんに掴まれた。
「お前……」
その手は震えていた。まるで生まれたての小鹿のようだ。
「機械系は、得意なのか……?」
どうしてそんな質問を、そんなに怯えた様子で聞いてくるのか解らない。でも、僕は可能な限り川奈さんっを安心させてあげようと笑顔を浮かべた。
「――全然無理」
生前の僕は貧乏だったからね。家事とかなら得意だけど、こういう機械に触れることがまず殆ど無かった。壊れるのが怖いから壊れるまでそのまま使う、というのが僕のやり方でしたから。
「なら触るな。絶対にだ」
そういえば、川奈さんも貧乏学生だったね。物は大事にしたいわけだ。たまに無駄な買い物はしてても、やっぱり高価な物だと話は違うらしい。
「でも、だったらどうするの? 川奈さんが本当に、明日もこの作業をやってる場面なんて、僕には想像も出来ないよ?」
「お前、結構失礼な事を言ってると気付いているのか? 言っておくが、私はお前より年上なんだぞ?」
「うん、でも、まあ、明日以降はもうこれに手を付けない確率が高いのは、事実だよね?」
「ああ、まあ、事実ではあるが」
「なら今やろうよ」
「断る」
じゃあどうするつもりなのという話でして。というか、自覚しておきながら放り出そうとしたんだ。まんま子供のやることじゃないか。
その時だ。
ゴツン、と、玄関に何かがぶつかる音がした。結構強く、誰かが衝突したらしい。入り口の前で転んだのだろうか。
「?」
川奈さんと二人で音のしたほうを見ると、玄関の向こうから、おしとやかそうな、でもおかしな女性の声が聞こえた。あれ、おかしいな、どうしたんだろう、みたいな感じの事を呟いている。
テレビの前に集まっていた僕らは顔を見合わせて、そして川奈さんが嘆息。めんどくさそうに立ち上がりながら肩を回すと、
「客人であれば、今日はもうテレビの接続は出来ないな」
うわ、嬉しそうだなこの人。
でもそこに文句を言うつもりは無いから川奈さんの行く手、つまり玄関を見つめる。
そして、川奈さんが扉を開けると、痛そうにおでこを押さえた、若い女性が立っていた。そこを扉にぶつけたんだね。
女性は涙目になりつつ、自分に何が起きたか解らない、と言いたげに、困惑の表情を浮かべている。そこはかとなく不自然な仕草だけど、川奈さんは特に気にしなかったらしい。
「どちら様ですか?」
営業モード全開の他人行儀さで邂逅一番を切る。探偵は一応接客業でもあると思うのだけど……それでいいのかしら。
すると女性は、言葉を浮かべていなかったのか、返答変わりにあたふたしていた。気持ちは解る。初見だと川奈さんは怖いからね。でも、それじゃ何も伝わらないと思うんだ。
きっとこの人は、どこか抜けた人なんだな、と、なんとなく察した。扉に頭をぶつけるのはもちろんのこと、不意じゃないはずの質問に答えられないのもそうだし、なによりその服装が抜けている。
ちなみに幽霊たる僕は暑さを感じない。そして服装はランダムだ。一応、思念の塊だからね。記憶の中で馴染みのある服に、勝手に着替えさせられていたりする。
僕の話は要らないんだった。
その女性はまず、タイトめなジーンズパンツを穿いていた。上はラフなシャツの上に薄めのフリースを羽織っている。どちらも長袖だ。上着の裾からシャツがはみ出しているからね。
明らかに春の服装だよね、これ。
「…………」
抜けすぎでしょ、この人。今は夏だよ? 世間は夏休みだよ? なんならその服装が暑そうだからって理由だけで連行されてもおかしくないと思う。もはや凶器の域だ。
それでも女性は、流石に暑いからか、両手で顔周りをはたはた扇ぎつつ、えっと、その、えっと、と、繰り返している。目算するに年齢は川奈さんと同じくらいだと思う。もしくはもう少し若いか。
清楚可憐、という言葉がぴったしだな、と思う程肌は白かった。全く焼けていない辺り、これもまた季節感を無視していると言えよう。熱を吸収してます感抜群の長い黒髪も然りだ。
「とりあえず、上がってもらったら?」
僕は立ち尽くす川奈さんに言った。混乱している客人に釣られて呆けてしまっているみたいだったからだ。
すると、川奈さんは一瞬だけ僕のほうを見て、浅い息を吐いた。多分、僕の言葉に納得してくれたのだと思う。昨日、客人が来た時は喋るなって言われてたからね。そこが少し怖かったんだ。
しかし、
「そ、そんな滅相もございません! えっと、なんと言いますか、そ、そんなに大した事じゃないというか……いえ、大した事なのですが……」
まくし立てるみたいに早口で顔を真っ赤にする女性。ようやくまともな発言をしてくれたはいいのだけど、正直それどころでは無かった。
僕は女性から川奈さんへと視線を移す。すると、川奈さんも同じ事を考えていたのか、僕のほうを見ていた。ばっちり目が合いアイコンタクト。でも残念ながら川奈さんの意思を読み取る事が出来なかった。何を伝えようとしたのかしら。
「大した事でなくても構いません」
川奈さんはそう言って、客待ちのテーブルを指差した。
「お上がり下さい。お話を伺いましょう」
顔を真っ赤にしたままの女性は、少しの間立ち尽くしてから、数秒後のようやく、あどけない手つきで靴を脱ぎ、「失礼します」と添えてから、ソファーへと向かう。
しっかりと、丁寧に並べられた靴。でもそれが泥の付いたスニーカーで、落ち着いた仕草や外見とのギャップをさらに強くする。
そして、
「私の名前は大光司綾祢と申します」
女性と川奈さんが向かい合うようにソファーに座ると、大光司と名乗った女性は、思わず僕の背筋まで伸びてしまいそうなほどの礼儀正しさで挨拶をした。というか名前がかっこいい……。
「瀬野探偵事務所の川奈です」
対する川奈さんは至って冷静な様子で、少し前かがみの姿勢でそう返した。緊張しているのは僕と大光司さんだけらしい。僕は関係無いはずなのにね、なんて思っていたら、大光司さんの視線が僕に向いた。二人は座っているけど僕だけ立っているから、必然的に見上げる形になる。若干の上目遣いのせいか、清楚な顔つきがどこか幼く見えた。
僕は幽霊だ。二年前に既に死んでいる。それは完膚なきまでに、否定の手段も無い程明確な事実で、現に昨日依頼に来た青年にも、大家さんにも僕が見えていなかった。
しかし大光司さんには僕が見えている。その視線がしっかりと僕を見つめているから、これは明らかだ。鎌をかけている様子も、そんな事をする必要性も皆無である現状、彼女に霊感があるのだと思う他無い。
「これの名前は藤和良助。瀬野探偵事務所の手伝いをしている者です」
固まっていた僕に変わって川奈さんが答える。
川奈さんが言葉を紡いでいる最中だけ僕から視線を外していた大光司さんはしかし、そうですか、と呟きながら、再び僕を見た。
「お若いのに大変ですね。アルバイトさんですか?」
見た目は高校二年生前後の僕だ。実際に死んだのはそれくらいの年齢の時だったし、大光司さんがそう思うのも無理からぬことだろう。
「いえ、住み込みで働いているんです」
僕が言うと、大光司さんは再び、そうですか、と、どこか深刻そうに呟く。
幽霊である僕の事を見る事が出来て、あまつさえ話す事も出来るなんて、結構強い霊感を持っているようだ。もしこれで僕に触る事も出来たら、類稀なる強力な霊感を持った川奈と同等の霊感という事になる。
でも、もしこの人が、僕を幽霊だと気付いていないのなら、隠しておくに越した事は無いだろう。幽霊が居る探偵事務所、なんて噂が広がってしまえば、噂する側は楽しかろうと、この事務所に勤める僕らとしては笑えない状況になると予想出来るからだ。
「それで、本日はどのようなご用件ですか?」
川奈さんが話を戻した。こういう時だけはしっかりしてくれるから安心だ。普段のだらなさとか適当さがお客様に伝われば、仕事なんて金輪際来なくなってしまいかねない。だからあのデスクの上を早く片付けて欲しい。
川奈さんの問いに、大光司さんは間を取った。深呼吸までして、話すための覚悟を決める、と言った様子から、ただ事では無いのだろうと伝わってくる。
そして、彼女は意を決した様子で、
「四ヶ月前に起きた、S県A市の土砂崩れはご存知でしょうか」
と、聞いてきた。
僕は自分の記憶を漁ろうとしたのだけれど、残念ながら四ヶ月前の僕には意識が無かったため、知る由も無い事だった。
そして川奈さんはというと、
「よん、土砂……? いや、も、もちろん知っています」
絶対知らないよこの人……。
昨日辺り、携帯でちゃんとニュースは見てるって言ってた気がするのだけれど、あれも虚勢か何かだったのだろうか。というか、土砂崩れなんてものが起きたら世間じゃ騒ぎが起きるだろうに、なんで知らないのさ。おいこら探偵。
僕は川奈さんの背中、というか肩を、後ろから冷たい目で見ていた。しかし、大光司さんは関心するような合いの手を打ち、
「ニュースにも取り扱われなかった事故のはずなのに、よくご存知ですね!」
と、目を輝かせる。対する川奈さんの目からは輝きが失われていた。土砂崩れというから凄惨な光景を思い浮かべていたけど、ニュースになっていないということは、すごく小さい事故だったのだろう。
知っていると答えてしまった川奈さんは、これから先も知っている体で話さなければならない。結構な労力になりそうだけど、強がって地雷を踏んだのだから、自業自得である。
「それで、その事故がどうかしたんですか?」
使い物にならなくなっている川奈さんに変わって僕が聞く。S県はここから結構離れた場所にある県だ。でも、A市というのに聞き覚えはあれど特徴とかまでは思い出せない。有名な場所なのだろうか。
「私は、その事故に巻き込まれてしまったのです」
「というと?」
「少し、長い話をしてよろしいでしょうか」
前置きを置かれて、胃が消化不良を起こしそたみたいな不快感に見舞われる。
「ええ。いいですよ」
相変わらず気まずそうにしている川奈さんの代行で話を進める僕。何もそこまで動揺しなくて良くない? と、黙りこくっている川奈さんを見て思ったけど、すぐに、それどころでは無くなってしまった。
「私は、いわゆる名家の生まれ、というものです」
大光司さんの話が始まってしまったからだ。
「大光司財閥の一人娘として生まれ、育てられました。将来の結婚相手も決まっていて、私は、それが嫌になっていました」
箱入り娘故の悩み、というやつだ。一般人として生まれて一般人のまま死んだ僕からすれば、全く解らない悩みである。
「私立の、女の子のみの学校に、中学の時から通い、高校も、大学もエスカレーター式で上がっていきました。学校が終われば親の言う通りに過ごしていた私は当然、世間の常識などは知らないまま育ってしまったのです」
自らの人生を恥じるような語り方。自己嫌悪とはまた違う、自己否定。
「そんなふうに自分を悲観していた私はある日、とある男性と出会いました。写真を撮らせてくれ、なんて失礼な事をいきなり言われたんですよ?」
初めて彼女は、柔らかい笑みを浮かべる。でも、それってただの変態では?
「彼は写真家だったんです。写真を撮るのが大好きで、普段は風景とか動物とかしか撮らないのに、私を見て、その、美しい、と、言ってくれて……」
成る程。その男性は大光司さんを見て、自分が写真に収めてきた風景のように、もしくはそれら以上に美しいと思ったのか。たしかに、大光司さんは綺麗な人だ。そこは同意できる。
さっきとは違う恥じらいを表情に写しながら、大光司さんは続けた。
「そしていくつかの月日を経て、私はいつの間にか、恋に落ちていました。許婚が居るにも拘らず、その写真家の男性を好きになってしまったのです」
人差し指を立て、彼女ははにかむ。恥じらいと一緒に、自らの人生の汚点を隠すように。
でも、それは恥ずかしい事でも、汚点なんかでも無いと僕は思う。素敵な事ではないのかもしれない。許婚が居るという運命から逃れられなければ、その恋は悲劇にしかならないから。
だとしても自分の感情に抗うなんて出来ない。気持ちを誤魔化すなんて、それが正しい行いだとしても、正しければ良いという話ではない。少しくらい間違えていないと、人間らしくないと僕は思うのだ。
そういう言い訳じみた弁護がいくつも脳裏を過ぎるのに、結局言ってあげられない小さな僕。こっちのほうがよっぽど恥ずかしい人間だ。
「挙句、私と彼は駆け落ちしました」
自らの罪を糾弾するかのような口調で、彼女は言う。許されない恋を成就させるために、全てを投げ出す覚悟。それを、こんな可憐な女性が持ったというのなら、きっとその男性は素敵な人なのだろう。
「彼は言いました。君に見せたい景色がある、と。駆け落ちし、実家から逃げつつ、私は彼に着いていきました」
聞きに徹していた僕と川奈さん。
しかし、
「その逃避行の最中に、事故に巻き込まれました」
そうなるのか、そんな事になるのか、と、気付かない内に拳が握られていて、その運命を他人事だと思えなくて、ふざけるな、と呪詛を吐きそうになった。だけど考えてみれば、大光司さんは生きている。ということは、これは悲劇なんかじゃなくて……。
「土砂崩れに巻き込まれたのは私と彼だけでした。大光司綾祢は事故から一ヵ月後に発見されたのですが、彼は見つかりませんでした。今もまだ、です」
一抹の希望が、木っ端微塵に砕け散った。硬いと信じていたダイヤモンドが、ハンマーで容易に砕かれてしまうかのように、綺麗に飛散し、霧となって消えていく。
四ヶ月も前の土砂崩れ。まだ見つからないというのなら、きっともう生きていないだろう。だとしたら最悪だ。
沈黙。時計が進む音だけが聞こえてくる。
秒針がいくつかのリズムを刻んだ後に、だんまりだった川奈さんが復活した。
「それで、私達は何をすれば良いのですか?」
その質問を聞いて、僕が失念していたことに気付く。そういえばこれは依頼の話だったのだ。大光司さんの悲劇を聞くためのものでは無い。彼女は、なんらかの行動を取るために、ここ、瀬野探偵事務所に来たのだ。
でもそういえば、今の話のいったいどこに、探偵の出る幕などあるのだろうか。
大光司さんはひとつ、深く息を吸い込んだ。そのまま一気に吐き出すように言葉を紡ぐかとも思ったけれど、彼女は至っておしとやかに、清楚に、しかしまっすぐ、強い口調でもって言った。
「――彼が私に何を見せようとしたのかを、私は知りたいのです」
探偵らしからぬ依頼ではある。とは思った。
でも、ここに居るのは川奈さんだ。こういう言い方はなんだけど、普通の探偵では無い。霊感持ちの探偵ともなれば、普通の探偵に出来ない事も出来る。
「必ず、とは言い切れません」
川奈さんは言う。当然だ。川奈さんは所詮、探偵見習いでしかない。
でも、
「尽力しましょう。その依頼、引き受けさせていただきます」
妙にかっこつけた川奈さんの返事に、僕は何故か、安堵のため息を吐いた。