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先生と昼休み。



「失礼しまーす、ってあれ?いないじゃん」


本校舎隣の北校舎5階、一番右隅にある部屋。そこが数学準備室。

そばには使われている教室もほとんどなく、先生も生徒も滅多に立ち寄らない。


まるでそこだけ別世界かのようにしんと静まりかえり、少しだけ埃っぽいこの準備室は、数学の先生ですら全く利用してないようだ。

ただ、1人を除いてはだけど。




「呼んどいていないって…どこいったんだあんにゃろー」


誰もいない準備室の中に入り、少々古めの真っ黒いソファーに腰掛ける。


午前中の授業も全て終わり、只今昼休み。

食べる寝るがなにより好きな私にとっては待ちに待った至福の時間だ。


いや、あんたお構いなしに好きな時に食って好きな時に寝てるし。昼休み関係ないし。


この間友人代表から痛いところを突かれてしまったが、気にしない。私はいつだってゴーイングマイウェイだ。




「どこ行ったんだー可愛い生徒を待たせやがってーーー」


アホーマヌケーヤクザーと小学生レベルの悪口を言いながら喚いているとボロボロで立て付けの悪くなっているドアがガラガラと音をたてながら開いた。



「お前に言われたかねぇ。あと誰がヤクザだこら。」


あいもかわらずの仏頂面で背の高いヤク…素敵な男性が入ってきた。


彼がこの誰も近寄らない数学準備室の住人、斎藤慎一先生、独身だ。

ちなみに今年で26歳。彼女募集中。


「何の紹介だ」


「いゃあね、ちゃんと紹介しといてあげないとね。一応メインなんだし。」


なんだそりゃ、つーか彼女なんていらねーようっとおしいとブツブツ文句を言いながら私の隣にボンッと腰掛ける。




私の担任の先生であり幼馴染の彼は、煩いところが苦手だ。人付き合いも苦手、1人でいるのを好む。

そんな彼にとって、人の寄り付かないこの準備室は最高のテリトリーってわけだ。


「んで、どこ行ってたの。来いって言っといてさ。」


「てめぇが拾ってきた猫の様子見るついでに餌やってきてやったんだよ、わざわざ、この俺が、な」



そう、私は今朝猫を拾った。しかも遅刻しそうだったのであろうことか学校に連れてきてしまった。もうしていることも小学生レベルだ。


「最近の小学生でも連れてこんわ」


じゃあ私は小学生以下ってことかそうなのかあれなんか泣けてきた。




私が勢いで拾ってきた猫ちゃんは、現在優しい斎藤先生の車の中でお留守番。


「猫ちゃん、いい子にしてた?」


「ああ、中で寝てたよ。餌に食パンやったら嬉しそうに食ってたぜ。」


ずっと猫のことが気がかりだったのだが、そう聞いて一安心した。

良かったぁ。


「ね、ね、あの子すんごい可愛くない?

毛もふわふわしててさぁ、もうたまんないよねぇ」


可愛いよね、可愛いよね?先生の顔を覗きこむように尋ねると、顔を少しそらしてまぁ、な…と返事をした。


私は知っている、この男は怖い顔して実は猫が好きなことを。

みんなが知ったらきっとびっくりするだろう。この顔に猫なんて似合わなさすぎるからね、ぷぷー!


軽く鼻で笑ってやると、握り拳を向けてきたのですぐに謝った。

痛いのは絶対に嫌だ。




「で、どうするんだあいつ」


「え、えーと…」


「お前の親父さん、猫アレルギーだし飼えねえだろ」


ぐわああぁぁストレートに突かれてしまったぁあああ

何を隠そう、私のお父さんは猫好きだが、猫の毛だけでクシャミが止まらなくなるほどの猫アレルギーなのだ。飼えるはずもない。さすが実家がお隣さんだけあってよく覚えてるぅ〜


「よく覚えてる〜じゃねーわ飼えもしないのにほいほい拾ってくんな、アホ」


「教師が生徒に向かってアホとはなんだ!言葉の暴力だ!PTAに訴えてやる!」


「学校に猫連れ込んだやつに偉そうに言う権利があんのか」


ぐぬぬ…やはり口ではこの男には勝てない…

昔から言い負かされ続け苦杯を嘗めさされてきた。

9歳も歳下の子供に対して一切容赦のないヤツの口攻撃。全く嫌な男だ!




「代わりに飼ってくれそうなやついんのか」


「それがですね…クラスのみんなすでにペット結構飼ってるみたいでさ…犬とか鳥とかハムスターみたいな小動物系とか…」


飼ってるペットですでに手がいっぱいのようです、はい…


「後先考えずに行動するからこうなるんだろ、いつになったら学習すんだお前は…」


隣ででっかいため息をつく斎藤先生。

なんか最近、ため息つかれてばっかだ私なんでだろう。


「疲れさせるようなことばっかしてるからだろ、自覚持てよいい加減」


ただでさえ悪い目つきがさらに悪くなる。

やっぱり職間違えてるよ、このお兄さん。




「あーでもどうしよう、ほんとに飼い手がいないと困るよねぇ…他のクラスの子に聞いて回ろうかなぁ」


2年生だけでも300人以上いるんだ、きっと誰か1人くらい飼ってもいいという子はいるだろう。


「まぁ放課後聞いてみるね、見つからなかったらまたその時考えてー」


「あのな、」


私が喋っていると突然深妙な面持ちで先生が口を開いた。

な、なんか顔すごいけど大丈夫だろうか。


「どうしたの…?」


「いや、その、だな…」


ついさっきまでの態度とは一変、急にしどろもどろになっている。どうしたんだろう、トイレしたいのかな?


「トイレならどうぞ?」


「トイレじゃねーよ。あの、えっと」


なら一体なんだというんだ強面がもじもじしゃがって!


「もう、言いたいことあるならハッキリ言ってよ!」


少し怒り口調で問い詰めると。






「お俺が、あいつ…飼ってもいいか。」


と小声でポツリ。






「…え?」



先生の顔が若干赤くなっている。

何こいつちょっと可愛いなおい。



「最初は飼う気なんてなかったんだけどよ、なんか妙に懐いてきてな…。それが、か、可愛い、もんで…」


目線を反らしながら小声で喋る先生。

どうやら、私が思っていたよりもあのニャンコは先生のハートを射止めてしまったようだ。



「ぷっ、あは、あはははははは!!」


我慢出来ずに吹き出してしまった。

これが笑わずにいられるだろうか、いやいられない。


「笑らうんじゃねぇ!!」


そんな顔真っ赤にしながら怒っても効果ないですよー先生。寧ろ可愛くてさらに笑ってしまう。


「あはは、だって、しょーがないじゃん!

こんな面白いことないよー!」


ははは、とお腹を抱えて笑っていたら先生は拗ねてしまった。

冷静沈着、寡黙でめちゃくちゃ怖い顔してるのにこうしてたまに可愛い一面があるのだから本当に面白い。



「ふはは、ほんとに猫飼ってくれんの?」


「ああ、てか飼いたい。」


やっぱり先生が猫飼うなんて似つかわしくなくて笑っちゃうけど、飼いたいって言ってるんだもんね。




「じゃ慎ちゃん、猫ちゃんのことよろしく!」


「ああ…」


いつもは学校で慎ちゃんって呼んだら先生って呼べと怒るのだけれど、機嫌がいい時は何故か怒らない。

今も怒らないところを見るとかなりご機嫌のようだ。

そんなに飼いたかったんならさっさと言えばいいのにね。




「あーでもこれで良かった!飼い主決まったし、慎ちゃんちのアパートならいつでも見に行けるしね!」


「来なくていい」


「そんな即答しなくてもいいじゃん!絶対見に行ってやる!」


来るな!嫌だー!とソファーの上で言い合いっこしていると予鈴のチャイムが鳴り出した。もう昼休み終わる時間なのか気づかなかった。


「おら早く行け、遅刻するぞ」


「はいはい、言われなくても行きますよーって…ああ!!!」


急に私が叫んだもんだから先生もびっくりしている。


「?!なんだ急に、」


猫の話のせいで重大なことを忘れていた。





「お昼ご飯、食べてなかった…」



………。







授業さぼる!ここで昼ご飯食べる!と駄々を捏ねたが呆気なく追い出され、別の場所でサボろうと考えたが途中で次の授業の教科担当に捕まり、教室に引き戻された。


斎藤先生は授業が入ってなかったのでのんびり昼食を取ったそうだ、いつか覚えとけよ斎藤このやろう。





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