通学中の拾いもの。
「昨日は爽やかな晴天でしたが、今日から天気は下り坂。午前中は雲が多く、午後からは広い範囲で雨が降り出すでしょう。お出かけの際は傘をお持ちになってお出かけ下さい。」
テレビにはメイクバッチリの綺麗なお姉さんが映っており、今日の天気を伝えている。
私的には先代のお天気お姉さんが好きだったのだが、芸能界の大御所との不倫現場が週刊誌に報じられ、いつの間にかテレビの世界から消えてしまった。エロい感じが好きだったんだけどなぁ。幼馴染の慎ちゃんにはケバいだけだろ、なんて言って一蹴されたが。
などと朝食を取りながら呑気に考えていると突然スマホから着信音が流れ出した。
画面を見るとクラスメートからの着信。朝早くからどうしたんだろうか。
「ふぁい、もしもーし」
「あ、もしもし?悠、ちゃんと起きてる?」
「ん、起きてるよ?どしたの?」
「どしたの、て今日遅刻したら土日に掃除させられるから遅刻しないように電話して!って言ったの悠でしょ!」
「げっ、忘れてた…」
そう、昨日の幼馴染の慎ちゃんこと斎藤先生との追いかけっこ(1話)が学年主任に見つかり2人ともこってり絞られたのだが、ついでに遅刻のことまで説教されてしまい、金曜日の今日また遅刻をしたら明日明後日と学校に来て掃除をさせられることになってしまったのだ。
折角の土日なのに学校に行って掃除なんてそんな罰ゲームしたくない私は優しい優しいクラスメートに電話をしてくれまいか!とお願いしていたのさ、すっかり忘れてたけど。
「ほんと、あんたってある意味大物だわ。」
いやーそれほどでも。
「ま、起きてるなら良かった。今からすぐ出たら十分間に合うでしょ。準備は出来てるの?」
「バッチリでさぁ!すぐ出れるぜ!」
「じゃ、早いとこでなよ、また後でね」
優しい優しい友人にお礼を言って電話を切り、カバンを持っていざ行かん!あ、傘も持ってかなきゃね。
外を出るとお天気お姉さんの言っていた通り、どんよりとしたグレーの雲が一面広がっている。ああ、雨やだなぁ。
家から学校までは自転車で約20分。時間的に
はギリギリ大丈夫だ。これなら遅刻しないだろう。私だってやればできるんだぜ!電話なかったら忘れてたけどね!
着いたら慎ちゃ…斎藤先生びっくりするかなぁ、いやそれともどうせ掃除したくないだろうから時間通りに来ると思ってたぜふん、て鼻で笑ってくるかなぁ笑われたら鼻つまんでやる!なんて考えながら自転車をこいでいると、どこからかニャーという鳴き声が。
ふっと気になって自転車を止めると、やっぱりニャーと鳴き声が聞こえる。どこからだろう、と辺りを見回してみると近くに置いてあった段ボール箱が動いている。
側によっていき段ボール箱を開くと中から可愛いニャンコが…!!
な、なにこれ超かんわいいいもふもふしてる!!
潤んだ瞳が私を見つめ、ニャーニャーとあまーい声で訴えてくる。
ぐは、破壊力やべぇ…、
可愛い猫にキュンキュンしていたが、まずいこんなことしてたら遅刻する!と我に帰った。
名残惜しいけどごめんね、と立ち去ろうとしたらニャンコは必死でニャーニャー鳴き出してきた。
ううう、そんなに鳴かないで…!
しかも空を見るとさっきよりどんどん曇ってきている。午後からなんて言っていたが、下手をすればもう降り出してきそうだ。
雨降ってきたら、ニャンコ濡れちゃう…
あああ、それにこんなところで油売ってるうちに時間が…ち、遅刻する…!
どうしようどうしよう…ううう、ええーい、こんちきしょーーー!!こうなったら、!
ーーーー
キーンコーンカーンコーン
「はぁ、間に合ったぁー」
なんとかチャイムと同時に席に着いた。セーフ!
「良かったね、間に合ったじゃん。」
「なんとかねーありがと。」
にひっと笑いながら話していたら今日も相変わらずの無愛想な顔した幼馴染が教室に入ってくる。チラッと私の方を見るとふっ、と鼻で笑いやがった。なんじゃこら。自分だって怒られたくせに。
委員長の号令で起立礼をしてその後はいつも通り淡々と出席簿をつける斎藤先生。
そして朝のHRも終わろうかとした時ー
「ニャー」
その瞬間、教室がシーンと静まりかえった。
教卓にいる斎藤先生の体もピクッと固まった。
「誰だ、猫の鳴き真似したやつは…」
先生がそう言うとみんな一斉に笑い出す。
「ほんと、びっくりするわー誰だよ!」
「しかもすげー似てるし!」
確かに!と爆笑の渦。
が、私は笑えない。何故なら猫の鳴き真似じゃなくて、モノホンの猫が鳴いたんだもん、あたしが連れ込んじゃったんだもん…!!
やっぱり雨が降りそうなのにあんな所で見捨てられなかった私は、カバンの中に猫を入れてそのまま学校に来てしまったのだ。
家に入れておこうかとも思ったが、猫を連れて家に戻っていたら確実に遅刻してしまっていた。それだけは避けたい…!と思い、猫入りカバンを片手に登校し今に至る。
頼むから鳴かないでじっとしててーー!
「ねぇ、悠、顔引きつってるけど大丈夫?」
隣の席の皐月に指摘されてはっと気づいたが顔が猛烈に引きつっていた。
しかも斎藤先生も不信げな顔でこちらを見ている。
やばい…!
「へ、平気平気!ちょっと慣れない早起きしたもんだから眠くて!はははー」
無理して笑いながら返すが内心焦りまくりだ。心臓ばくばくだ。
斎藤先生は私から視線を外し、誰かは知らんがまぁいいかHR終わるぞ、と言うと委員長の号令でHR終了。ほんとに焦った…!
私はすぐさま、カバンを持って教室から逃げる。学校が終わるまで人が来ない教室に隠しておこう!
私の教室がある階の一つ上の階には使われていない教室があり、そこなら滅多に人は近づかないし安全だろうと考え、階段を早足で上っていっていたの、だが。
「おい、緒方。そんな焦ってどこ行こうとしてんだ。」
ぎっくぅぅぅう!!
くそ、鋭い幼馴染はやはり怪しいと気づいていたか…!!!
「おはよう、ございます、斎藤しぇんせい。」
「おはよう、今日は遅刻せずにちゃんときたじゃないか」
「そりゃ、休みの日まで学校にきたくないしねーはははー」
体が強張ってるし変な汗でてるし、どうしよう…
「で、何焦ってんだ、大事そうにカバン抱えて?ん?」
くそ、ニヤニヤしながら問いかけてくるこの男が憎い…!!
「いゃあ、ちょっと急に女の子の日がきたみたいでトイレに…」
苦し紛れの言い訳を絞り出すが、トイレならわざわざ上に行かなくても教室のすぐ隣にあるだろうが、とさらにニヤニヤ。
このどSめぇぇえええ
なんて言い訳しようと頭ぐるぐるになっていると、
「ニャー」
あ…
「……」
「……」
えへ、と笑うとはぁ…とため息をついた斎藤先生。やっぱりな…という顔をして。
わかってんなら最初から言えよ意地悪!
「来る途中に段ボール箱の中で鳴いてるの見つけてさ、雨降りそうだったし…」
「だからって学校に連れてくるかよ、普通…」
先生の言葉にしゅんとしてしまう。
「どうすんだ、それ」
「空き教室に、隠しとこうかな、って思ってさ…」
そう言うと何か考えている様子で、どうしたの?と尋ねると
「そいつ、貸せ。」
と言う斎藤先生。ん?と思いながらカバンを差し出すと猫をカバンから出して貸せ、と。
「す、捨ててくるの…?」
折角拾ってきてあげたのに、雨降ったら濡れちゃう…とちょっと泣きそうになりながら言うと、
「違う。俺の車の中に入れとくんだよ。そこなら安心だろ。」
とさっきの意地悪な顔とは打って変わって、優しい顔をしながら手を差し出す先生。
「ふぇ、あ、ありがとう、慎ちゃん!!」
「斎藤先生、だろ。昼休みに準備室来いよ。そいつどうするか話ししねーとな。」
「う、うん!」
カバンから猫を出して先生に渡すと、着ていたスーツの上着を脱いで猫を包み、じゃ昼休みな、早くしねーと授業遅れるぞ、と言い残して猫を隠しながら階段を降りて行った。
意地悪だし、怖いから勘違いされやすいけど、先生は、慎ちゃんは本当はとっても優しい。
公園で遊んでて怪我した時も、お父さんとお母さんが仕事で家に居なくて淋しかった時も、いつも優しくしてくれた。
先生と生徒って立場になってちょっと距離ができた感じがして寂しかったけど、やっぱり慎ちゃんは慎ちゃんだ。
ふへへ…と嬉しくて笑いながら教室に帰る。
昼休みについでにお弁当持っていって、一緒にお昼ご飯食べながら猫の相談しよう!と考えながら。
教室に戻って改めてカバンの中を見ると、猫の毛まみれですんごいことになってたけどね。
多分、先生のスーツも毛まみれだろう。ふふふ。