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ある日の放課後先生と。

うららかな昼下がり。空には雲一つなく最高の洗濯物日和だ。こんな日は河原で日向ぼっこをしたいものだ…いや、友人を誘ってキャッチボールで一汗流すのもいいかもしれない。そして帰りに駅前で小腹を満たすデザートを…想像しただけで涎が…。

いやいや、真っ直ぐ家に帰ってお菓子をほうばりながらゲームをし、満足したら惰眠を貪るのもなかなか…


「おい、なにボッーとしてんだ、聞いてんのか」


ドスの聞いた低い声で現実に引き戻される。

ああ、そういえば今は面談中だった…


シンと静まりかえった教室にいるのは私と目の前の強面な目付きの悪い男の2人だけ。

他の生徒は早々に帰ってしまい、私も友達と放課後ライフをエンジョイしようと帰宅準備をしていたらこの男に呼び出され、今に至る。

友達は私を見捨てて早足で逃げて行った。

くそう、白状な奴らめ…。


「はいはい、聞いてますよー」


本当は全く聞いていなかったが、適当に相槌を打つ。

早く解放してくれないかなぁ。さっさと帰りたいのだが。


「早く帰りたかったら、真面目に話を聞くことだな」


なんだこの男、エスパーでも使えんのか!


「へーへー、で、私ってなんで面談してるんだっけ?」


「そこからか…これ、白紙で出したのお前だけだぞ」


そう言って差し出された紙には進路希望調査の文字が印刷されている。

クラス、出席番号、名前は書かれているが肝心の進路希望欄は白紙。

2年3組5番緒方悠。

紛れもなく私の名前、だ。


「だって進路希望って言われてもさ…なーんにも決まってないし、仕方ないじゃん。」


そう、将来したいことなんてまだわかんない。普通は大学進学か就職の二択なんだろうがそれすらもイマイチはっきりしない。一応進学しようかなーくらいにしか考えていない。


「決まってなくてもだな…せめて適当に地元の大学名を書いとくとかくらいすればいいだろう。白紙なんかで出しやがるから学年主任が要面談、だとよ。俺も暇じゃねーんだぞ、たっく…」


男の眉間に深い皺ができる。

あーそんなに皺よせてるから怖いって言われんだよー普通にしてればそこそこイケメンなのにさー。


「余計なお世話だ。」


やっぱりこの男、エスパー使いだ…。


「んーでもねぇ、私も白紙はまずいなぁって、適当にどこぞの大学書いとけばいいかなーって思ったんだけどさぁ…」


「思ったけど、なんだ?」


多分これを言ったら確実に怒られる。

でも怒られ慣れてるし気にしない。私は私の道をゆく。


「大学って、東大以外よく知らないし。面倒になって、書くのやめた。」


その瞬間、男の眉間が、ブチっと音を立てた。気がする。


「お前…今高校何年だ…」


鬼だ、目の前に鬼がいる…!


「に、2年生でふ…」


「2年にもなって、そろそろ真剣に進路のこと考えなきゃなんねぇって時期に大学のことよく知りませんだあ?舐めてんのかてめぇは…」


今、この場に子どもがいたら大号泣するであろうと思うくらい怖い顔をしてドス黒いオーラを出しながら静かに怒っている姿は正にヤクザ。

なんでこんな男が教師になったんだくそっ、帰りたいいいい


「いゃあ、はい…すいません…」


「遅刻するわ授業はサボるわ、挙句進路もまともに考えれないわ、お前の担任してると苦労するぜ…」


やれやれと言わんばかりに大きな溜め息をつく男の表情は疲れ切っている。

お疲れなんだねー教師って大変なんだねぇ。


「そう思うならもう少し真面目になってもらえますかね、お嬢さん」


だから心を読むのはやめろ、エスパー教師!


「で、どうするんだ、進路希望。ちゃんと書いてださねーといつまでもこのままだぞ。」



強面ヤクザな男と教室で2人きりなど誰が嬉しいだろうか。一分一秒でも早く帰りたい。だが、ここで真面目に希望調査を書くのも負けた気分になるしなぁ…



「ここは、幼馴染として一つ見逃してよ、慎ちゃん。」


「今は教師と生徒って立場だろうが駄目に決まってんだろ。あと慎ちゃん言うな斎藤先生と呼べ」


そう、私の目の前にいるヤクザは私の担任の先生であり幼馴染のお兄ちゃんでもあるのだ。

家が隣同士で小さい頃は慎ちゃん慎ちゃん言いながら後ろをついていったもんだ…。

近所の他の子どもたちは慎ちゃんの怖い顔を恐れ、寄り付きもしなかったのだが。

今思えば昔の私すげぇ。



「回想はいいから進路だ、進路。」


やれやれ、人が折角説明してあげてる時にうるさい男だ…。


「うーんじゃ、斎藤先生のお嫁さんて書いとく。」


「お前みたいな手間のかかる嫁はいらん。」


「うわ、ひっどい!これでも炊事洗濯その他もろもろ、家事全般得意なのに!知ってるでしょ!嫁として最高じゃん!!」


おまけに私って、結構可愛い方だと思うよ?自分で言うのもなんだけど。ただし、黙っていれば、だが。


「俺は家事が出来てもお前みたいな煩い女よりもっと物静かでおしとやかな女の方がいい。」


「うっわ、どいひー。傷つくんですけどー」


「それにだな、んなの書いて出したら俺が呼び出されるわ校長教頭にWで絞られるわ俺を教職から追放したいのか」


「ぶっ、それちょっと見たいかも…」


軽く笑いながら言うとすごい形相で睨まれた。そんなんだから子どもが泣きながら逃げてくんだよ。


「いいから真面目に考えろ!俺もまだ仕事が山ほどあんだよ!」


「このままどっちが音を上げるか勝負しようぜ!」


「却下」


くそう、面白味のない男だ、そんなんだから彼女もできな…


「いい加減にしろ」


あーはいはい。真面目に考えますよもー。


「じゃ地元の無難な偏差値の大学どっか挙げて、それ書いとくよ」


「それを自分で調べるのがだな…まぁどうせこんなことだろうと思ってお前の成績から考えて無難な大学をいくつか挙げといた、こんなかから考えろ」


そう言って胸ポケットから一枚の紙を取り出した。その紙には5校ほど、大学名が書かれている。うーん、さすが慎ちゃん。なんだかんだやっさしいーんだよね〜


「へっへーありがとうー!慎ちゃん大好きー!よ、色男!」


「もう付き合いが長いしな、お前のことはだいたいわかる。」


色男は否定しないのか、なんだこいつ。


「よっしゃー じゃ、ちゃちゃーと書くから見ないでね!見ちゃだめだよ!」


「は?なんで、」


「いいから見ないで!!」


「ああ、わ、わかった…」


慎ちゃんに目を瞑らせて進路希望調査の紙にスラスラと文字を走らせる。

そのすかしたツラをギャフンと言わせてやる!


「出来たーーーー!」


「やれやれ、無駄に時間使っちまった…」


「はい、どうぞ、じゃあ書いたしもう帰っていいよね!」


ニコニコしながら問いかけるとああ、いいぜと疲れた顔をして返事をするヤクザ、もとい斎藤先生。

この希望調査を見てまた疲れるだろうことも知らずに。


「じゃ、センセーさよならーーーーーー」


紙を渡すと猛スピードで廊下を走る。

早く逃げなきゃ、追いつかれるからなぁああ

なんせ希望調査に書いたのは大学名ではないからね!えへん!私が素直に言うことを聞くと思ったら大間違いだぜ!

え、何て書いたかって?それはだねぇ…


「おがたぁぁぁぁぁあ、まてこらぁぁぁああああああ」


ぎゃああああもう追いかけて来やがった!

早いよ慎ちゃんのアホ!

うわ、顔こわっ!殺される!!


鬼より怖い顔した男の手に握られている紙には…


進路希望調査 2年3組5番緒方悠


第一希望 斎藤先生のお嫁さん

第二希望 斎藤先生のメイド

第三希望 斎藤先生の愛人


って書いてあるしそりゃ怒るよねーーーー

斎藤先生ごめんなさい!でも私は反省しませんよー!とりあえず怖いから逃げる!!


全速力で校舎を走る生徒と教師。

後で学年主任に見つかり2人ともこってり絞られたのは言うまでもない。




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