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「よし、やることないし席替えすっぞー」

 唐突に先生は言った。

 今は週に一度のLHRロングホームルームの時間。

 え、やることないから席替え?

 教室がにわかにざわつく。


「せんせー、席替えは先週やったとこですがー」

 クラス委員の西川さんが挙手をして異議を唱える。

 そうそう、先週やったとこなんだよ、席替え。

 頭、大丈夫っすか?

 確かまだ三十代だったと思うんだけど。

「先週やったからといって、今日やってはいけない理由にはならんだろ。頭固いぞ西川」

 サラリとかわして、席替えのクジを準備をし出す先生。

「でも、もっと有意義なことをした方がいいと思うんですけど」

 粘る西川さん。

「ほう。西川は席替えは無意味だと言うんだな。じゃあ、来年クラス替えがあるまで、二度と席替えしなくてもいいんだな。無意味な席替えなんて時間の無駄だと」

「いえ、そこまでは言ってません……」

 西川さんはそれきり口を閉ざした。納得いかないって顔をしている。

 そりゃそうだろ。私も納得いかない。多分誰も納得していない。

 でも二度と席替えしないのも嫌だし。あ、でも西川さんは仲のいい友達と席が隣同士だから、ずっと今の席のままでも構わなかったかもしれない。まあ、仮にそうなってたらクラスの皆から大ひんしゅく買うだろうけど。


 それにしても先生って、こんなわけのわからない人だっただろうか。

 なんか、頭ヤバくない?


「んじゃ、席替えすっぞー」

 クジの入った箱を持った先生が回って来て、一人ずつクジを引かせていく。

 その場で先生が生徒のクジを確認し、座席表に書き込んでいく。

 前回までのやり方とは違った。

 以前は適当に生徒間で箱を回し、引いたクジを勝手にトレードしたりすることもあった。


 私は窓際の列の一番後ろの席になった。外のグラウンドがよく見える。

 今までは前の方が多かったから、後ろは新鮮だ。

 まあ、結構いいんじゃない? いろいろ内職もしやすそうだし。


 席に座って辺りを見回す。一番後ろだと周りがよく見える。

「先生、これ絶対おかしいって! 」

 最前列に座っている人達が何やら先生に文句を言っていた。

 席替えしたばかりで周りがガヤガヤしているので内容までは聞こえないけど、文句を言っているメンバーを見て、思わず『なるほど』と頷いた。

 最前列に座っているのは、授業中私語がうるさい人たちだった。ちなみに先週の席替えではクジをトレードして、後ろの席だった。

 あれだ。つまり、他の先生から授業の妨害になるから何とかして欲しいって要望があったのではないだろうか。

 問題児は前の方の席に集中していて、とても不自然だ。


 おそらく、先生はクジに細工を施した。

 と結論付けた私は、今度は自分の近くの席へ視線を移す。


 私の前の席はお調子者の井伊君。その右隣(私からだと右斜め前)にクラス委員の西川さん。

 そして私の右隣は、げっ、大原君。

 大原君は何ていうか、とりあえず見た目の特徴を挙げると……。

 髪は肩ぐらい。オシャレで伸ばしたとかじゃなくて、ただ切ってないだけのボッサボサ。前髪も伸ばし放題でほとんど目元が見えない。時々前髪の隙間からメガネが見えるけど、目までは見えない。

 大原君と体育の授業でペア組まされたという男子が語っているのを、通りすがりに偶然聞いたんだけど、柔軟体操の時に見えた大原君の目はまるで死んだ魚のような目だったという。

 

 西川さんが前から順番に回されたプリントを大原君に手渡す。

 私の前の席の井伊君は私の方を向かずにプリントを渡してきたけど、西川さんは丁寧に体を後ろに向けていた。

 大原君が無言でプリントを受け取り、西川さんの視線が一瞬私にも向けられる。

 ――そしてもう一度大原君を見て、

「ぶっ」

 と噴き出した。


 西川さんは慌てて口を押さえながら私たちに背を向けた。肩が小刻みに震えている。

 笑いたいのを我慢しているようだ。

 井伊君が西川さんの異変に気付き、何だよ、どうしたんだよ、としつこく聞いている。

 西川さんは口を押さえているのでなかなか話せないが、井伊君が諦めずに聞いてくるので、西川さんもそれに応えようと頑張った。

「ぷくくううう、うしろっ、ぷぷぷ」

「後ろ~? 」

 西川さんの発言はなかなか聞き取り辛かったが、井伊君は『後ろ』というキーワードをちゃんと聞き取ったようだ。


 あー、嫌な予感がする。すっごい嫌な予感がする。

 井伊君はクルリと体をひねって私と大原君を交互に見た。

 言うな。頼む。頼むから、何も言ってくれるな。私は心の中で念じた。

 しかし井伊君にそんな願いが届くはずもない。


「おおっ、双子だ! 双子がいるぞ」

 サ、イ、ア、ク。


 井伊君は目を輝かせて「双子」を連呼する。

 誰がだ、誰が双子だ!

 そこまでは似ていない。


 えっと、どういうことか説明すると、さっき挙げた大原君の容姿の特徴は、私の容姿の特徴と同じなのである。

 髪の長さは肩ぐらいまででボサボサ。そしてメガネ着用。

 もちろん男女の違いがあるので、身長差もあり体格も全然違う。

 だから似てるのは、髪型とメガネをかけてるっていうこの二点だけ。


「生き別れの双子、奇跡の再会か!? 」

 井伊君は手を叩いて好き勝手言っている。


 以前から私と大原君って、キャラかぶってんなーとうっすら感じてはいたんだけど……。

 いくらなんでも、双子は言いすぎ!


「いや~、感動の再会に立ち会えるなんて、僕はとても光栄に思いますっ」

 井伊君は涙を拭うパフォーマンスをし、周囲から笑いを取っている。


 見てる。みんなめっちゃ見てる。そして笑ってる。

 勘弁して~!


 井伊君が「双子」「双子」とふざける中、私と大原君はひたすら無言だった。


 大原君とこんなに接近したのは初めてだと思う。

 席が隣同士になって、まさかこんなことになろうとは……。


 私は大原君がどんな人なのかは知らない。

 いつも独りでいて、クラスから浮いてるって感じで、あの見た目だし誰も寄り付かないイメージだ。


 って、私も同じだけどね!!(爆)



 ――そう。私も大原君もボッチなのです。


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