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短編集、web拍手の再録など  作者: 神崎みこ
web拍手再録/タイトルはcapriccio(http://noir.sub.jp/cpr/)さまより
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39 - kiss in the dark(普通の男女の恋愛もの)

 街灯の下で重なる二人。

そんなべたなシチュエーションに遭遇した私は、どうやらこの物語のなかでは脇役だったようだ。




「機嫌悪い?」


スマホを操作しながら、彼氏がちらりとこちらを窺う。

オーダーした料理はまだ運ばれず、彼は指先で操作しながら、私は外で歩いている人を眺めながら大人しく待っている。


「おなか空いてるだけ」


眉間に皺でも寄っていたのか、珍しく私の様子を言い当てた彼に適当な言い訳を口にする。

ランチを待っている自分に、これほど相応しい言い訳はない。

彼の方も、納得したのか視線はすぐに小さな画面へと戻される。

今の私と彼のような、この手のカップルはよく目に付く。今までは、そんな状態で二人で居て、何が楽しいのかと思っていた。

それは半分あたりで、半分外れていた。

こんな風でもあいたくて、だけれども私を映さない彼に不満を覚えている。

たぶん、対象が雑誌ならば思わないのかもしれない。

小さな画面は、あっけないほど簡単にほかの誰かとつながってしまうから。


ようやく届いた料理に、とりあえず二人とも口をつける。

彼のほうは勢いよく、私はちまちまと。

上向きに置かれた画面からは、何の情報も私へと伝わってはこない。


あっという間に食べ終えた彼は、徐にスマホを手に取り操作を始める。

最近私も買い換えたそれに、どうしてそんな引力が備わっているのかがわからない。

ゲーム、なのかもしれない。

情報、なのかもしれない。


「先週金曜日、飲み会どうだった?」


飲み会で会えない、と言い出したのは彼のほうだ。

私は大人しく、友達と食事をし、一人でねぐらへと帰宅した。

だから、あんな偶然がどうしてわが身に起こったのかがわからない。

知らなければよかったのに、という気持ちが渦巻く。


「どうって、普通だけど」


付き合いの延長線上だ、と申告した飲み会。

その中身を疑ったことなど今まで一度もない。

私に不審な無言電話がかかってきたとしても、それを結びつけて考えてはいなかった。

だけど。


「そう、大変ね、付き合いも」


出来るだけ抑揚を抑えて返す。

本当に、今までの私ならそう思っていたのだから。


半分食べ終えたところで、フォークを置く。

彼はまだ画面から目を離さない。

冷たいドリンクの表層から溶け出した氷が色を薄めていく。


「ねぇ」


ただ声をかける。

くぐもった、心ここにあらず、といった相槌が返される。

会話は続かない。

それでも私はこの関係を壊してしまいたくはない。

街灯の下の光景など、私の目の錯覚だと言い聞かせる。


「ごめん、なんか調子悪いから、帰るね」


自分の分の代金を置き、立ち上がる。

彼は少しだけ驚いて、申し訳程度の心配を口にする。

視線は、どこか画面に囚われたままで。


「またね」


そう言い聞かせる。

また、私は彼に会うのだと。

彼の恋人は私なのだと。


たとえ、あの彼女が今彼と繋がっている相手だとしても。



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