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あなたの赤い糸を見つけます

作者: NATA

 平日の昼間、鈴木裕也はイラつきながら散歩していた。原因は裕也の彼女である同棲相手の美幸だった。

 3年の時に付き合い始め、同じ大学に出た二人だが美幸は卒業後、無事に就職するが裕也は職に就けず、パチンコや競馬など堕落した生活をしていた。美幸は就職するようにきつく言ったが、裕也はそんな事を気にせず、毎日、お金を美幸にせびっていた。今日もお金をせびったが、断れてしまい、美幸の財布からお金を抜き取ろうとした。しかし、抜き取ろうとしたことがばれ、その事について言及された。

 いつもなら適当にごまかす裕也だったが今回ばかりは美幸はしつこかった。あまりにのしつこさに裕也は家を飛び出してきたのだった。

 どうするかなと裕也は考えていた。ふと路上占い師の看板が見る。

『あなたの赤い糸を見つけます』

「赤い糸言うのは運命の赤い糸でも見るのか? 馬鹿馬鹿しい。女はこういうの好きだな」

 裕也はそう言って笑い捨てた。そのまま違うところへ歩むと思った時、邪な心がよぎる。

 もし、運命の赤い糸が本当にあるならその女に転がり込んでヒモになればいいんじゃないか? 小汚い考えが浮かんだ。ちょうど行くところがなく、せっかくだからと裕也は占ってもらうことにした。

 裕也が占い師の方へ近づくと裕也の存在に占い師は気付いた。

「いっらしゃいませ。どうぞお座りください」

 占い師に促され、裕也は椅子に座った。

「何を占いますか?」

「看板に書いてあるの占って」

「赤い糸を見つけて欲しいですか?」

「それそれ」

「分かりました」

「では、右の小指を見せてください」

 そう言われ、裕也は小指を見せると占い師はその指を片眼鏡越しに見る。真正面で見ると若く、裕也と同じくらいの年だろう。改めて占ってもらうが当たる気がしなかった。男のくせになよなよしく、おまけに童顔もあるせいか頼りなさが目立つ。もう少し見とけば良かったと後悔した。

「もう大丈夫です」

 そう言われ、裕也は手を膝に置いた。

「占いの結果ですが運命の人はごく身近にいます。今日にでも会えますよ」

「そうか」

「はい、これから駅前に言って赤い花を買ってください。500円程度の充分です。そのまま駅前に居続ければ会えます」

「花ね」

 裕也は話半分に聞いた。占い師も軽く笑う。

「最初は信じてくれませんよね。でも信じてください。きっと見つかりますよ」

「はいはい分かったよ」

 そう言って裕也は席を立った。

「あの代金」

「当たったら払うよ」

 裕也はふてぶてしくその場を立ち去った。


 裕也は暇つぶしに街中を歩くが金がなく、友達に遊ぼうにも今日は平日であり、おまけに職に就いてない自分が友達に会うとみじめになりそうで会いたくなかった。適当に歩いていると一番賑やかな駅前に来てしまった。だが、することがないのは相変わらずだった。

 裕也は近くにあったベンチに座る。懐から煙草を取り出し、火を付ける。煙を体に充満させ、それを吐き出す。歩いている人間を見るが、みな幸せそうな顔に裕也のイライラがますます募った。ここにいても仕方ない。そう思って美幸の家に帰ろうとする。

 文句言われたら無視すればいいし、最悪追い出せばいい。そう結論付けると早々にベンチに立ち上がり、煙草を踏み潰す。火が消えたことを確認し、顔を上げると裕也の目にあるものが映った。

「いっらしゃいませ。どのような花をお求めですか?」

 そこにあるのは花屋であった。駅前に花屋があっただろうか? 裕也は時間つぶしに花屋に寄った。

「いらっしゃいませ」

「どうも、ここに花屋があるのは珍しいな臨時の販売か?」

「はい、今日一日だけ花を売ることになってます。いかがですか?」

 占い師の助言がぴたりと当たり、裕也は驚く。もしかしたら……

「なら、500円で赤い花もらえるかな」

「赤い花にもいくつかありますがどんなものをご希望で?」

「任せるわ。よく分からないし」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 そう言って花屋は赤い花を適当につつみ、花を渡した。裕也は財布から500円を取り出す。心の中で『残り野口が一人か』とつぶやいた。

 そのまま裕也は先ほど座っていたベンチに座ると再び煙草を吸い始める。このまま待っていれば運命の赤い糸で結ばれた女性が来るんだよな……

 裕也はそのままベンチに体を預けた。一本・二本・三本。女は中々現れず、徐々に不機嫌になり始めた。

「本当にくるのか、クソ」

 三本目の煙草を踏み消し、四本目の煙草を吸おうとした時、知っている声が裕也に掛けられた。

「裕也、何しているの」

 その言葉に裕也は振り向く。

「げ、美幸」

 そこに立っていたのは背筋をピーンと伸ばし、厳しい表情の顔をした恋人の美幸だった。反射的に裕也は花を後ろに隠すが美幸はそれを見逃さなかった。

「何を隠したの?」

 美幸は冷たい声でづかづかと裕也に近づき、後ろを覗き込む。隠しても無駄だと思い、裕也は花を見せる。占い通りなら良い女が通るはずだ。そうなれば美幸を捨てるのだから隠しても仕方ないと裕也は思った。

「ほらよ」

 赤い花を見た美幸はそこで立ち止まる。体を硬直させ、プルプルと体を震わせる。ああ、ここで別れ話かと裕也は達観する。しかし、予想とは反する言葉だった。

「嬉しい。覚えてくれてたんだ」

「はあ、何が?」

「今日は私たちが付き合い始めてちょうど一年目よ。プレゼントに花をくれるなんて嬉しい。」

 そう言われると付き合い始めたのはその頃だった。確か、面接の終わってすぐにナンパしたんだけ……裕也の冷めた態度は逆に美幸の顔はニコニコしていた。その顔に裕也は占い師の言葉を思い出す。

「なあ、美幸」

「うん?」

「今日は悪かった。何か買ってやろうと思ったんだがお金が無くて後で返すつもりでお金を抜き取ろうとしたんだ」

 そう言って裕也は頭を下げた。その姿に美幸はにっこりと笑う。

「分かったよ。気持ちは嬉しいけど抜き取ろうとしちゃダメだよ」

「本当にすまん」

「もう、反省しているようだし、一緒に帰ろうか」

「ああ」

 心の中でほくそ笑みながら裕也は美幸のアパートへ歩き出した。


「いや、助かったわ。これで住むところ無くさずに済んだわ」

「それは良かったですね」

 美幸と仲直りした次の日、裕也は占い師のところに訪れていた。あの後、美幸は機嫌がよく、昨日の事もきれいさっぱり許してくれた。おかげで家に追い出されずに済み、おまけに昼に起きた裕也のために朝食とお小遣い5千円が置いてあり、いつもなら文句を言われて渡されるのだが、今日ばかりはそれがなかった。

 裕也の饒舌に占い師はニコニコしていた。

「それは良かったですね。せっかくだから何か占いますか? と言っても赤い糸を見ることぐらいしかできませんが?」

「おいおい占い師なのにそれしかできないのかよ。だから客が来ないんじゃないのか?」

「あはは」

 占い師は苦笑した。図星なんだなと裕也は感じた。

「まあいいや、ところで占い師さんよ。あんたは本当に赤い糸が見えるのか?」

 にっこりと笑う。

「はい、見えます。ただ皆さん定義とは少し違うと思います」

「どういう意味だ?」

「ん~そうですね。お客様が思う赤い糸はどんなイメージがありますか?」

「そうだな。好きな人と一緒になるという意味じゃないか?」

「では、仮にですが、好きな人と一緒になれるなら悲恋になったりも良いと思いますか? 例えるならロミオとジュリエットみたいな関係とか」

「良いんじゃないか。はたから見たら幸せそうに感じないが好きな人と一緒になれるなら」

「ですね。一般的な運命の赤い糸のイメージはこんな感じです。ですが私の場合はロミオとジュリエットのような恋愛では赤い糸が見えないのです」

「というと?」

「簡単に言いますと二人が一緒にいて幸せになれるかという話しなんです。ロミオとジュリエットみたいな悲劇的な恋愛ではなく、二人が幸せな家庭を作れるカップルでその中の最良なカップルの赤い糸が見えるんです」

「簡単に言えば相性の良い二人が分かると言う意味か?」

「そうです。まあ、人の幸せはそれぞれですから他の人が見たらロミオとジュリエットより悲惨な恋愛している人すら赤い糸で結ばれると見えてしまうのが残念です。幸せな二人でいる限り、赤い糸は永遠とあり続けます」

「そうなのか面白いな」

 世の中にはこんな面白い奴がいると知り、裕也は軽く笑った。占い師はなぜ笑われているのか理解できず、首をかしげた。

「まあいいや。面白い話が聞けたし、意味はないがもう一回赤い糸でも占ってもらうか?」

「でしたら赤い糸の相手ともっと仲良くする方法を占いましょうか?」

「お、それをお願いするわ」

「はい」

 そう言って占い師は手を出してきた。

「何の手だ?」

「前回の占い料と今回の占い料を合わせて2千円いただきます」

「ちっ」

 裕也は舌打ちをしながら忌々しげにお金を渡す。受け取った占い師は頬を緩ませた。そして右手の小指を見せるように言い、裕也は小指を出すと、占い師はその小指をまじまじと見た。

「そうですね。見た結果、職に就くことが幸せになると出ました」

「あ、それ以外にしろ。今みたいに楽に暮らせる方法だ」

「楽にですか? そうですね……家事をすると良いみたいですね」

「家事ね。他にないのか? 労せずに楽になる方法」

「さすがにこれ以上は出ないですね」

「はあ、そうか」

 裕也はため息を付く、掃除や料理なんてそれこそ面倒くさい。しかし、仕事をするよりはましかそれに家事をやっていれば追い出される心配もないだろう。何か言われたら適当に誤魔化せばいい。

「なら、家事でもやるわ」

「そうですか頑張ってください。あと、一緒にいるだけでも効果あるので近くにいてください」

「ああ」

 そう言って裕也は席を立った。


 裕也は占い師の言いつけ通り、家の家事をするようになった。しかし、家事などをしたことない裕也にとってはせいぜい食器洗いや部屋や風呂の掃除しかできなかった。それ以上の事は裕也自身も面倒くさく、やらなかった。

 しかし、部屋が綺麗になっている姿を見た美幸はとても喜び、裕也をお礼を言った。その言葉に裕也は悪い気がしなかった。それから毎日掃除をやったが、毎日やっていると掃除するところもなくなり、何日か開けるよう掃除するようになった。

 そうするとずるずる掃除しない日が伸びていき、1日置きが2日になり、2日だったのが3日になっていき、最終的には掃除が面倒くさくなりやらなくなっていた。その姿に美幸は文句を言ったが、裕也はそれを無視し、しまいには『一緒にいるだけでも幸せ』という占い師の言葉を使い、美幸がいる時は家でだらだらし、それ以外はパチンコや競馬などして過ごしていた。

 それから2ヶ月くらい経った時、その日も裕也はパチンコをやり終え、居酒屋で酒を飲んでいた。もう陽が沈み、サラリーマンが家に帰る時間帯に裕也は美幸のアパートに帰ろうとした。そして、美幸のアパートに付き、いつも住む部屋を見ると電気が付いてなく、真っ暗だった。

 残業かそれとも酔っていて頭がおかしくなったのか? そう思いながらも裕也は気にせず、アパートの合鍵を使い、部屋を開けた。

 真っ暗な部屋に人気がなく、やっぱり仕事か? と疑問に思いながら部屋の電気を付けるとそこには家具も何もないガラーンとした部屋だった。

 タンスもテレビ。テーブルもイスもない。不動産屋に部屋を紹介された時の事を思い出す。裕也は部屋中の電気を付けると床に一枚の紙があった。裕也はそれを見て手に取る。

「2週間ほど家賃が余っているので手切れ金として住んでください。携帯に電話もメールしないでください。さようなら」

 別れの手紙だった。裕也は携帯で美幸に電話を掛ける見るが着信拒否をされ、繋がらなかった。

「くそ」

 携帯を通話ボタンを切る。メールも同じだろうと考え、裕也はメールをせずに美幸を探しに外へ出た。どこにいるか分からないが探すしかない。

 駅、公園、商店街など人が集まるところを中心に裕也が美幸を探した。いなくなれば生活の糧を失う。裕也は必死に探した。すると、2ヶ月前の路上占い師がいた。裕也はづかづかと占い師に近づく。

「おい、占い師。どういう事だ」

「あ、お久しぶりです。どうかしましたか?」

「どうかしたじゃね。お前が言う赤い糸の相手の美幸がいなくなっただろうが。どうなってんだ」

「そうなんですか? 少し小指を見せてください」

 そう言われ、裕也は小指を差し出すと占い師は悲しそうな顔をし始めた。

「残念ですがあなたの赤い糸は切れています」

「切れている。どういうことだ」

「以前にお話ししたと思ったのですが……赤い糸は幸せな生活になるカップルに見えますが、一般的な赤い糸とは違うと……裏を返しますと幸せになれないと決まった時点でその赤い糸が見えなくなります。つまり切れてしまうんですよ」

「なら、もう一回見えるようにしろよ」

「それは無理です。一度、切れてしまったものはまた結びなおすことは出来ません」

「てめぇいい加減にしろ」

 そう言って裕也は占い師の机を蹴った。蹴られた勢いで机が占い師の方へ押されるが、占い師は驚いた表情を浮かべるもののすぐに冷静な顔になった。その姿にますます裕也は苛立ちを隠せなかった。

「何が赤い糸だ。このうそつき野郎。悔しかったらもう一度、美幸と会わせろや」

「分かりました。ではもう一度小指を見せてください」

 そう言って占い師は再度裕也の小指を見るとすぐに答える。

「よく分かりませんがこのまま探し続けると見つかると出ました」

「どれくらい探せば見つかるんだ」

「さすがにそこまでは……」

「くそが」

 裕也はそう言って占い師の机に唾を吐き、そのまま、美幸を探しに行った。


 それから一時間ほど裕也は街の中を探し回った。美幸の行きそうなところはすべて回ったが見つからないでいた。面倒くさくなり始めた帰ろうと思い始めた時、駅の改札に入る美幸の姿が見つけた。美幸は裕也の存在に気づかず、ホームへとてくてくと階段を登っていた。地方都市の割に今は人が少ないのでよく目立った。

 裕也は改札を飛び越え、若い駅員に注意を受けながらも裕也は階段を登りきる。そこにはホームで立つ、美幸の姿があった。

「美幸!!」

 声を張り上げ、裕也は美幸を呼ぶ。その声に美幸は振り向いた。鬼の形相で裕也は近づくが美幸は冷たい目で裕也を見ていた。

「なに?」

「なにじゃないだろ。どこへ行く気だ」

 面倒そうに美幸は裕也を見る。

「あなたの捨てて違うところにに行くの。悪い?」

「違うところに行くだと、ふざけるなあんな置手紙で納得するわけないだろ」

 開き直ったかのようないいぐさに裕也は激怒する。しかし美幸は平淡な口調で言い始める。

「付き合って一年くらい経つけど裕也は裕也は職に就こうとせず、いつも家でゴロゴロしているかパチンコしているかどっちかでしょ。しかもお金は私にせびって何回か家事をやったりして少しは良くなったかなと思ったけどすぐに止めるし、最近じゃ『いるだけで幸せだろう』と言う態度に嫌で嫌で仕方なかったの。だからあなたを捨てて引っ越すことに決めたの」

「ふざけるな。俺の生活が掛かっているんだ。逃がすわけないだろ」

 そう言い終えた時、ホームが電車が入った。裕也に気にせず、美幸は電車の中へ入ろとした。

「それじゃね。赤い花のプレゼントだけは忘れないわ」

「待ってよ」

 裕也は美幸の腕をつかもうとした。その時、後ろから誰かに押さえつけた。

「お客様、駅ホームは大変危険ですのでそう言った危ない行動は控えてください」

「うるせえ、離しやがれ」

 先ほど裕也に注意した若い駅員が羽交い絞めしようとしていた。そうしている間に電車の扉が閉まった。もう間に合わないと気付いた裕也は美幸がまだ扉越しにいるのにかかわらずに若い駅員を腹にひじ打ちをかまし、倒れ込みそうなところを顔面に蹴り込んだ。

「くそ」

 電車はそのまま次の駅へ行ってしまった。追いかけても見つけるのは難しいと思った裕也はうめき声を上げる駅員に唾をはき、階段で駅のホームへ降りようとした。その時だった。先ほどから街中を走り、おまけに緊張の糸が解け、一気に体中に酔いが回った。

 脳はぐるぐる回り、足元が揺れる。体勢を整えようと地面を踏みつけようとした時、足は空を切り、階段を転げ落ちた。小さくうめき声をあげ、周りの悲鳴を聞きながら静かに目を閉じていた。


 1ヶ月後、街占い師はいつものように赤い糸の占いをしていた。今日は駅前だから人が集まるだろうと思っていたが、今日もまったく繁盛していない。うさんくさいのかなと最近思い始め、看板を変えようと考え始めていた時、一人の女性が占い師の前に座った。

「いっらしゃいませ、あ、この前、占いに来てくれた方じゃないですか」

 芯がしっかりしてそうな女性はにっこりと占い師に笑った。

「この前はどうも、おかげで良い人に出会えたました」

「そうですかそれは良かったです」

「だから今日はお礼にクッキーを持ってきたんです。よかったらどうぞ」

 女性の差し出しに占い師は喜んでいただいた。

「それはどうもありがとうございます。ちなみにこのクッキーは彼氏さんにあげる余りですか?」

 女性はクスっと笑った。

「はい、これからお見舞いのクッキーに作ったものです。ちょっと多く作りすぎて……」

「お見舞いですか? 事故でも遭われたんです?」

「実は元彼にボコボコにされてそれで入院することに……あ、その時は付き合ってなかったんですが……」

「と言うと?」

「駅のホームで元彼がホームの鉢合わせしたんですけど彼を無視して電車を乗ろうとしたら彼が無理やり私の手を掴もうとしたんです。けれど駅員だった今の彼氏が後ろから掴みかかって助けてくれたんです。だけど元彼が怒って彼をボコボコにしたんです。その姿を見て心配になって今の彼のお見舞いに何回か行ったら付き合うことになったんです」

「そうですか良かったです。私の赤い糸もはずさなくて良かったです」

「ええ、ところで占ってもらった時、元彼の赤い糸が切れていると言ってあれはどういう意味なんです?」

「ああ、あれですか、そうですね……」

 占い師は少し考えた後、口を開き始めた。

「私が見える赤い糸は最良のカップルが赤い糸で結ばれて幸せな生活をする事なんです。しかし、最良の相手が複数いる時があるんです。むしろそっち方が多くて一人に3人くらいが普通なんです。しかし、その赤い糸もきっかけで簡単に切れることがあるんです」

「きっかけですか?」

「はい、よくあるパターンじゃ小学生の頃、好きだった女の事が赤い糸で結ばれていたんだけどその子がもう会えない所へ転校することになることが決まっていた。それで男の子は告白しようと考えたんだけど、結局は告白しないで女の子と別れてしまった。もう会えなくなるから結ばれない。そこで赤い糸が切れることもあるんです。後は付き合っていた彼と仲が悪くなり、もう修復が不可能になった場合も切れてしまうことも多々あります」

「どちらかと言うと相性占いに近いかもしれませんね」

「ですね。まあ、しょせんは糸ですからね。大切に紡がないと切れてしまいます」

 占い師の一言に女性は納得した。それから少し話した後、女性は占い師に別れを告げた。

「それじゃ私もそろそろ行きますね」

「彼氏さんと仲良くしてくださいね」

「ええ、今日、退院ですから私の家に遊びに来るそうです。占い師さんの言われたとおりの所に引っ越したおかげで彼の職場の近くだから忙しくてもちょくちょく会えるわ」

「そうですか、赤い糸を大切にしてくださいね。何かまた占いますよ」

 そう言って女性は手を振って街中へ消えていった。

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