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第6話 その行為は抹殺宣言

「ジーク君、制服のサイズあってないよ」


「それはそうだろう、俺も成長した……いや、まだ一年しか経ってないのか」


「そうだね、ジーク君。 

 一年越しに皆と会える……ふふっ……本当に楽しみ」


 遠目から見れば、仲睦まじく登校している恋仲の同級生といった微笑ましい光景だ。


 楽しんで登校することなんてなかった。

 いつだって、登校するときは憂鬱だった。


 彼は深夜まで銃の調整、ミスは許されなかった1mmでも弾着がずれれば非難囂々・罵詈雑言。

 少しでも居眠りでもすれば、罰として拷問訓練が待っていた。


 彼女は平民と身分でありながら並外れた容姿、当然、凄まじい嫉妬を買った。

 前髪を切られたことすらある。


 だが、彼らは今幸せだ。

 学生時代は模擬銃を持ち歩いていた。しかし、今は実銃を持っている。

 見た目上の違いはないが、性能上の違いはある。

 これなら、殺せる。


 彼らは人を殺すのが好きだ。でも、どうせなら憎たらしい相手を殺したい。

 学園、陥れようとしてきた円卓会議室の老人達、もっといえば……。


 到着したようだ、懐かしの校門に。


 「さぁ、着いたよ。楽しみだね。

  ……この日を夢にまで見たの……」


 「ああ、知ってるよ。

  夢の中でイメトレは出来ているな? 

  ……じゃあ、夢をかなえに行こうか」


 「うんっ!」


 

 学園の廊下を歩く、ジークとエリー。

 学生の頃は考えもしなかったが、壁の装飾はまるで美術館のようだ。これだけのもの建てるのにどのぐらいの金が掛ったのだろう、そして、それだけの価値がこの場所に会ったのだろうか。

 ジークの脳裏は以前、戦場で餓死した大隊の兵士を思い描いていた。こんなものを建てる金があるんだったら……。

 そこまで考えて、自分がここの生徒だったと思いだし自嘲した。


「ねぇ、見て!あれって……?」

「あれは……劣等生のジークと売春婦の娘エリー?」


 誰かに見つかったようだ。当然だ、堂々と正門から入ってきたのだから。

 ジークは小声でエリーに話しかける。


「なぁ、エリー。

 どうだ、実際に再会して、赦そうと思ったりしないのか?」


「……? しないよ。

当然だよ、皆殺すんだよ?」


「ふっ……案外、お前も器量が小さい女だな。……俺と同じで。

 それにしても……弱者は不要か、いい言葉だ」


 ◇


 リカール学園の高根の花だったサーシャは苛立っていた。


 一年経ったというのに、彼女率いるリカール・ナイツは未だに打開策を打ち出せずにいた。以前までは無敗を誇っていた模擬戦で負けが目立ち始めたり、学業成績すらも下がったり……。


 自身に対する悪い噂も止まらない。元から優秀ではなく教師と寝たからだの。父親のコネだの。


 最早、パーティメンバーの前では苛立ちを隠そうとはしない。いきなり壁を蹴り上げたり、髪をむしり上げたり、信じられないことにその辺の野良猫を蹴り飛ばしたりすることだってある。それでも収まらない。


 こうなってしまうと、カーストトップで悠々と過ごしていたパーティメンバーも次第に病んできた。


(私のせいじゃない……全部、ジーク・アルトのせいだ、あの貧民が居なくなってから何かが変なんだ! 呪いか、呪いでもかけられているのか!?

 あの男の髪をむしり上げて、蹴とばして、そして、そして――!)

(畜生、何故この俺がこんな目に……! こんなことならあの貧民を追い出すんじゃなかった!)

(無能、無能、無能、無能――! 無能ばっかり! どうでもいいから誰か何とかしてよ!)


 当然のようにジークに申し訳ないと思うのは一人もいない。

 貧民など人間ではない。この国ではこれは別に特別な考えではない。

 そもそも、死んだと思い込んでいる。そんな時だった。双子の片割れのメイルが吉報を持ってきた


「あの貧民が帰ってきたって!」



 ◇


「あの貧民が帰って来た!? 」

「生きていた……?」

「それに、あの女まで!」

「まさか特別教育から生還した奴なんて……!」

「戦場に行ってないんじゃないか、きっと逃げて来たんだ!」

「そうか、なんて情けない奴らなんだ!」


「「「「帰れ!帰れ!帰れ!」」」


 彼らが帰って来たというニュースは一気に全校に広がった。廊下を歩くたびに物が、罵声が飛んでくる。しかし、二人は動じない。それはそうだろう。つい最近まで銃弾が飛んでくるところに居たのだから。


 そして、ついに彼らは再会する。


「おい、貴様ら」


 サーシャらが彼らの前に立ちふさがった。


「横の女は知らないが……ジーク・アルト、特別教育はどうした? さては戦場から逃げて来たな、情けない奴らめ」


「いいえ、戦場が無くなりました」


 実際、戦争が無くなれば、戦場は無くなる。

 数多くの戦争を終わらせてきたのだ。

 しかし、他の人間がそんなこと知るわけがない。彼らの中ではジークは劣等生なのだから。


「……意味が解らない。戦場の恐怖で言葉も分からなくなったか、畜生以下め」


「サーシャ様、自分の一つご提案が」


 そう切り出したのは、ベルモンドだった。 彼はまだ彼女のことを好いていた。しおれたとしても花は花だからだ。


「決めつけはよくありません、もしかするとこの二人は本当に戦場から帰って来たのかもしれません。ですから、私が確かめてやろうと思います。

 ……これでね」


 そう言い放つと、芝居がかった様子で模擬銃トレーニング・ライフルをくるりと回し、銃口をジークに突き付けた。

 貴族流の決闘の合図だ。


「キャアアア、ベルモンド様!」

「身の程を分からせてやれ!」

「戦場で死ねなかったのなら、ここで殺してしまえ!」

「……女の子はかわいいじゃん、そっちには手を出すなよ!」


 すぐにお祭り騒ぎとなってしまい、銃口を突きつけられた少年と少女の目から一切の光が消えたことに誰も気が付かなかった。



 戦場で銃口を突きつけられると言う行為は、決闘の合図ではない――抹殺宣言だ。



 もう一つ、生徒諸君は彼らの変化に気づけていなかった。



 エリーの銀髪はくすんだ色から、よどみのない、しなやかなウェーブを美しい銀髪に。

 いつも何かに怯えていたその表情も、今は消え失せていた。

 少女らしい可愛さから、大人らしい色気が少しづつ現れているようにも見える。


 当然だ。彼女は此処にいるどんな生徒よりも人生経験を積んだからだ。

 そして、誰かの人生を終了させてきた。


 ジークの身長は周囲の学生を見下せるほどまでに伸びていた。

 いつも自信なさげで、不安げだったジークの目はどす黒く、そしてどこか血のように赤く染まっていた。


 当然だ。それだけの数の流血を見てきたのだから。

 それだけの数、幾多の数の人間をその手で葬ってきたのだから



 けれども、彼らはどこか幼げだ。

 当然だ、戦場に行ったとはいえ、ただの子供だからだ。


 だから、狂った思春期を過ごしてきた彼らに常識も論理も、道徳も、習俗も通じない。


 「……状況開始」


 「イエス、マイ、ロード」



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