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悪人たち

 此処はかつて、栄光のリカール王国が誇っていた大宮殿。

 何処かの誰かが、木っ端みじんにしてしまったせいで長い間主を失っていたが、今、この時になってようやく城としての機能を取り戻した。

 秘密結社ヘブンの最後の生き残りベクターだ。

 ボロボロになっていた宮殿を、現在の最新技術で難攻不落の城へと再編させた。

 が、そんな鉄壁の要塞にも拘らず、目の前の何重にも張り巡らされた、強化ガラスに傷が入った事にベクターは思わず目を見張る。


「驚いた、もう射程圏内まで来ているのか?

 だが……割れんよ、特注の強化ガラスだ。

 戦車砲すらも跳ね返す……だが、連中は異常だ。

 この光景を眺められんと言うのは、名残惜しいが、臆病なウサギよろしく籠るとするか。


 シャッターを閉めろ」


「しょ、承知致しました……。

 ベクター様、敵は傭兵たちに任せ、やはり、今からでも避難なされたほうが……」


 バリケードに、多数の要人保護のプロフェッショナル達、加えて厳重に防護された元王室の中、ワインをたしなみながら、秘書の言葉を聞く。


「ヘブンと大隊が敵対した時点で、何処にも逃げ道などなかったさ。

 唯一生き残る方法は……奴を排除する事だけだ。


 なぁ、そうなんだろう? 」


「はっ、その通りですぞ」


 ベクターの問いかけに応えたのは、老人に差し掛かった男。

 だが、その老いにも関わらず、眼はらんらんと輝いている。

 まるで、遠足を楽しみにする園児のようだ。


「貴様は変人だ。

 呼びもしてないのにいきなり現れたと思えば、少佐と戦いたいだの……。 

 しかも、終いにはヘブンのマッドサイエンティストが開発した原理不明の、誰も試したがらないような若返り薬など……。

 命が惜しくないのか?」


「人の世など、最期良ければすべてよしなのです」


「そこまでして、全盛期を取り戻したいか、

 で?

 奴に勝てるのか?」


「さぁ……ですが、楽しめるでしょう。

 少なくとも、他の傭兵よりかは少佐のことを知っている。


 では、そろそろ。 色々と手遅れになる前に」


 老人らしい落ち着いた雰囲気を放ちながら、だが、それに不釣り合いな獲物を携えながら、彼は戦地に赴いた。

 どうにも落ち着かない秘書はベクターに再度忠誠を誓った。


「ベクター様、私はあなた様の勝利を確信しています。

 そして、我らの勝利を以って、世界は来るべき完全資本主義の世界になるということも確信しております」


「そうか?

 まぁ、それは後のことだ。


 今はそれより……」


「閣下! 緊急事態です!」


「何……?

 何があった、報告しろ」


「第三軍です、第三陣営が現れました!」


 ◇


「なんだ、あれ……」


 ジークは戦場の上へと飛来してきたそれに、思わず困惑の声を上げる。

 飛行船の艦隊、ヘブンのものでも無ければ、大隊のものでもない。

 白い飛行船には巨大な十字架が描かれている。

 いきなり現れたそれに、双方の軍からの放火が上がるが、中々に重装甲らしく、ビクともしない。

 そして、それはスピーカーを通して、女の声でこんな演説を始めた。


<聞け、下賤なる者たちよ!

 我らは神の使い、神聖審判十字軍である!

 我らは復讐者、神官殺しの大罪人には罰を!


 神に仇なす全てに罰を、恐怖に怯える全ての人々を聖なる光で……!>


「ええ……ここで宗教勧誘?」


「お賽銭で作ったんだろうな、あの飛行船。

 成程、この混乱を制して、神の名の下に世界を支配する気か」



 実際、絶対王政リカール王国が崩れたと思ったら、次は金持ち共が世界を牛耳っている。世界に失望した民衆たちが神に救いを求めるのはある意味自然の摂理だった。

 ある聖職者は真の正義の為、ある聖職者は自身の教えを世界の理とするため、ある聖職者は金の為に。

 

 が、ジークはそんなこと毛ほども関心が無かった。

 彼は飛行船との距離を測る。

 ぎりぎり射程圏内、狙いは操縦席、トリガーを引いた。


「……残念、狙いは完璧だけど傷がついただけ。

 流石に防弾ガラスだよ」


「神の護りは流石に硬いなぁ、参った、参った……。

 なら、これならどうだ?」


 ジークは先程よりも銃口を下げ、再びトリガーを引く。

 だが、今度は一発ではなく、弾倉の中身全て。

 ジークはトリガーを引きっぱなしにしたのだ。


 20発程度の銃弾は、飛行船の防弾ガラスを突き破った。

 操縦手を失い、コックピットの設備に当たったのだろうか、めらめらと燃え出し、飛行船はバランスを崩し、傾斜していたビルにまずい角度でぶつかった


<我らは神のお言葉の……ああ、ぁぁぁぁ、ああああ!>


「えっ……全弾同じところに集めたの……?

 この距離で……? たったの一点だけを?

 フルオート狙撃……?


 す、凄い、凄いよ、ジーク君!」 


「だろう、凄いだろう?

 今日の俺は絶好調なんだ」


 ジークは、顔を赤面させ褒めちぎるエリーにそう返しながら、飛行船の末路を見守る。

 ゆっくりと炎上して、地面へと堕ちていく飛行船。

 だが、それでも、死を受け入れずに複数の人間が降下していく。


「……成程、流石は神の使いだ

 堕とした如きでは死なないか、いいだろう。


 全突撃小隊群、市街地戦に移行せよ、白兵戦だ。

 エリー、行くぞ」


「……イエス、マイ、ロード」


「いい顔だ……。

 金持ちの次は、神様相手に戦争か。

 只では勝てなさそうだ……全身全霊で戦うとしようじゃないか」


 かくして、この闘いは金で世界を牛耳ろうとする秘密結社、古代のように世界を再び宗教の元に征服しようとする十字軍、そのほかにもいるかもしれない。

 とにかく、皆が皆の目的の為に。

 誰が勝利しても、恐らく、世界は碌なことにならない。

 自分の理想・欲求の為なら何人死のうが、何億人死のうが、此処にはそういう悪人しかいないのだから。



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