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第5話 踊らされていた

 リカール王国はこの世界で最も大きな国だ。

 とはいえ、全ての人が裕福な暮らしが出来るているわけでは無い。




 巨大な国を維持するには強大な軍事力が必要だからだ。

 強大な軍事力を維持するには、国民の税金が必要だ。

 国としては国民にもっと税金を納めて欲しいのだが……今はそれが出来る雰囲気ではない。


 一部、心優しき聖職者達が貧しい平民たちに対して団結し、国に立ち向かうよう促したのだ。




 平民たちも、平民たちだ。

 いつもはびくびくとしていた癖に寄ってたかると、我らに自由をと叫びながらの暴動。

 そもそも貧民・奴隷クラスでもない限りは餓死しないぐらいには生活していける。

 軍備を減らせと言うが、自分たちがのうのうと暮らしていけるのは遠くの地で兵士が命を落としているからだ。


 彼らは平和を当然だと思い込んでいる。


 国のお偉いさん達からしたら迷惑だ。

 いや、遠い地で死ぬ兵士の事なんてどうでもいいが、体制が崩壊することはあってはならない。

 王国と言えど絶対王政ではないし、

 貴族の方が絶対とはいえ平民にもある程度の自由を与えてきたつもりだ。

 しかし、聖職者らが言い出したのだ。

 無闇に手を出せば、他の国との国際問題に発展する。

 とはいえ、彼ら一番の悩みは自分の富の心配だ。


 軍備も疎かにできない、国民も疎かにできない。

 そして、一部の人間はその解決方法を考えていた。


「彼なんてどうですかな?」


「ジーク・アルト、それなりの戦果だ……。

 いや、待て。元学生だと?

 これはいい、これにしよう」


 



 ◇




 ここはリカール王国陸軍、円卓会議室。

 一般の兵士の立ち入りは許されない場所だ。

 そこにジークは呼び出されていた。


 円卓には老人たち。


 その中央、王家にかなり近い大貴族出身の将軍が口を開く。




「さてと、君がジーク・アルト少佐だな。

 君も噂ぐらい聞いているだろう、市民達による反戦運動のことを」


「いいえ、存じ上げません」




 直立不動で、笑みを浮かべながらそう答える、少年……いや、今の彼のオーラは健気な少年ではない。

 見るものが見れば分かる、彼は既に悪魔だ。



 だが、政治家や政治家崩れの軍のお偉いさんにはそんなことはわからない。


「君、無知を恥じようともせぬのか?」


「若造が……本当に彼でよろしいのですかな?」


「良いではないか、このぐらいの貧民の能無しの方が……。

 おっと、聞き流してくれたまえ。

 ともかく、君とその部下達は実に優秀な兵士らしいじゃないか、是非リカールの力になってくれ」




 通常どんな作戦にも名前がある。

 だが、その作戦は名無し――すなわち、極秘作戦ということだ。

 仮に名付けるとすれば、母校襲撃作戦。


 内容はこうだ。

 リカール学園での無差別攻撃。


 何故、こんな非道な作戦を命じたのか。

 それは平民達による反戦運動を阻止する為だ。

 このまま運動が進めば、軍備縮小、身分制度崩壊……最悪の場合、国が滅びる。


 「わかるかね、少佐?

  残念ながら、国民には君たちの働きが伝わっていないのだよ」


 「それを宣伝するのは政治家の方々の仕事なのでは?」


 「ふん。無礼だぞ貴様。

  我々は絶対的な軍の味方という訳ではない。

  前線の貴様らが金食い虫なのが悪いんだ。

  王国軍人なら、拳で敵を殲滅して見せろ、この貧民」


  「アルフレッド公、その辺で。

  少佐、口を慎みたまえ」


 「……失礼いたしました」


 「だから、現状を変える為に、こうするのだ……」 


 そこで世間を反戦から好戦主義に変えてしまうことを考えた。

 テロリストによる攻撃で、国を護る筈だったいたいけな少年少女が死ぬ。

 この作戦は国民を好戦的にするだけではなく、緩み切った王都守備軍への締め付け。

 そして、軍の存在価値を再認識させる狙いもある。




 ジーク・アルトは適任者だ。

 優秀な兵士でいて、学園から追放され恨みを持つ者だからだ。




「さてと、協力してくれるだろうね?

 成功の見返りは用意するよ、昇格も約束するし、

 軍に居たくないなら生活不自由ない程の金を……なんなら、貴族の地位も。」


「……自分の部下たちは?」




 自らの話が遮られ、思わず顔をしかめる将軍。

 そして致命的な勘違いをしてしまった。

 この男は、ジークが自分だけが手柄を独り占めしたいと考えてると思ってしまったのだ。




「全て、君のものだ。他の人間は消去される、君の悪事が表に出る心配はない」


「……イエス、マイ、ロード!」




 笑みを浮かべ、恭しく頭を下げ、意気揚々と退出する少年を見送り、

 彼らはほくそ笑んだ。


 ◇




 誰もいない廊下。

 意気揚々と退出した少年は、窓の下の怒声を耳にした。




 "武器よりパンを!"

 "戦争屋をこの国から追い出せ!"

 "武器を捨て、手を取ろう!"

 "戦争反対! 戦争反対!"


 "軍人をこの国から追い出せ!"



 少年の顔から笑みが消え、握り拳を壁に叩きつけた。

 少しの間、肩で息をするが、笑みが戻った。


 通路の向こう、同じく狂気の笑みを浮かべた自分の部下たちが待っていたからだ。

 これから、あの素晴らしい仲間達と素晴らしいことをするのだ。

 笑顔にもなる。



 尚、ジーク・アルトが率いる部隊、その名前はリカール大隊。

 何故、彼が自分を見捨てた祖国の名を付けたのかは……。


 いずれ分かるかもしれない。



 ◇


「……なんですって? 」




 数時間後、リカール陸軍少将、ドワイトはその作戦に驚きを隠せなかった。世間をコントロールする為に、罪なき学生達を犠牲にする非道な作戦。

 その内容が理解できた時、驚きが怒りに変わった。話は終わったとばかりに、紅茶を飲みながら優雅に談笑を始めた老人たちを怒鳴りつける。 


 「ふざけるな、あなた方は人の命を何だと思っている!? 」


 「必要な犠牲だよ、ドワイト君。 何、犠牲は最少人数で済む。これは見たまえ」



 極秘と書かれた二枚目の資料。ジークには見せなかったものだ。


 ジークが学園襲撃開始後、即王都守備軍の先鋭部隊が制圧を開始する。学園が襲撃され、それを軍が制圧したという事実があればいいのだ。もし、この事件がマッチポンプであることがばれそうになったら、学園を追放された一生徒の逆恨みというシナリオに切り替えるつもりだった。

 そう、彼は踊らされていたのだ。


 「ですが、犠牲になるのには変わりない!……待て、ジーク・アルト少佐……?」


 ドワイトの感情は怒りから、戦慄へと変わった。


 「ああ、その通り、ジーク・アルト少佐だ。

  確かに、中々の戦績だが……所詮、その程度だ。

  まぁ、調子に乗った若造と言ったところか。


 「なんだこれは……違う、全然違う! 全部間違いだ!」


  老人たちはジークを書類の文字で知った。

  だが、ドワイトはジークを知っている。

  書類に書いてあったジークのスコアは全てがでたらめだった。


  そう、踊らされていたのはこちら側だった。



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