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快適な空の旅

工場内では、急ピッチで飛行船の最終組み立てが進められていた。

尋常ではない組み立てペース。

それを可能にしたのは、急遽、発動された戦時法だ。

戦時法で集められた、膨大な数の人員を惜しむことなく投入した。

だが、これには弱点がある。

まるで奴隷。

自分が国家の犬として働いているという意識が芽生えてしまい、どうしても士気の低下につながるのだ。


それの帳尻を合わせたのが、シルヴィア張本人だ。


「そこはこうで……ですから、それをこうしてください!」


「おお……陛下自らこんな汚れ仕事を……」


シルヴィアは一般作業員と混じって、製造ラインへと混じっていた。

幼くも、美しい国の元首が自ら、自分達と肩を並べて作業している。

冷静に考えれば、見え透いた人気取りだ。


「やっぱり、あの時、いとこの誘い断ってて正解だったよ。

 あんな娘……いや、陛下に手を上げるだなんて、俺には出来ない」


「そうだ、そうだ。何が革命派だよ。

 インテリぶっておいて、やることは暴力かよ」


「それに、ビザンツ帝国を破ったのだろう?

 ふっ……何時も見下しやがって、あの連中は気に入らなかった!

 勝てる、どんな敵にも! トリスタンは強いぞ、トリスタン万歳!」



だが、それでも国民達を扇動するには十分だった。

大抵の人間は心の平穏を求めるとき、他の人々と肩を寄せ合うことよりも、自分より劣っている人間を見て、心から安堵する。

根本的な解決にはなっていないが、何故だか、人はそうしてしまう。


が、当然、十人十色だ。

ふと、誰かがこんな声を上げた。




「……なにが、戦時法、国家の為に立ち上がれだ!

 洗脳だこんなの……なぁ!?」


 別にこの青年に革命思想があったわけでは無い。

 ただの愚痴のつもりだったのだが……。


「……は?」 「国の為に立ち上がるのがそんなに悪いこと?」 「おい、今の誰だ?」「なんてことを言うんだ!?」


「ち、ちょっと、待ってくれよ。俺はただ……」


「今まで、陛下のお陰で生きてこれたというのに、今更、何を言ってるんだ!?

 おい、皆、こいつを……!」


にわかに殺気立ちだした現場を、宥めたのはシルヴィアだった。


「皆さん、落ち着いてください。

 少し休みましょうか?」


「陛下!?

 しかし、この男は……!」


「大丈夫です、みんな違って皆良いのですから。

 それより、改めて皆様に感謝申し上げます、国の為に本当にありがとうございます」


「陛下……なんたる慈悲深さ……!」


頭を下げる彼女の前で、直接文句を言えるほどの憎悪が溜まっていたという訳でもなかった。

悪態をついていた男は謝罪し、反省をし、名実ともに善良な国民となった。



それを、彼らの頭上のキャットウォークで眺めているのが、ジークとエリーだ。


「なんとも、流石は王家の血を引いてるって感じだな。

 人を操るのが上手い。 いや、俺を見て学んだのかな?

 なぁ、エリー」


「ジーク君、静かにして。今勉強中なんだから」


飛行船のマニュアルに目を通しているエリーにバッサリと切り捨てられてしまい、思わず肩をすくめるジーク。

と、そこへ技術者の老人が現れた。




「飛行船は順調だ、午後にも最終チェックが出来るだろう。

 あんたから頼まれていたものも出来たが……銃なんて言うのは、既製品の物の方が良いんじゃないのか?」


 手渡されたそれを見て、ジークは満足げな笑みを浮かべる。

 銃床開閉式のかなり短小なサブマシンガンだ。

 ジークは武器の改良こそは出来るが、一からの製造は出来ないのだ。


「完璧だ。これはいい」


「だが、反動制御にかなりの難がある、 

 それは仕様書を渡してきたアンタが知っているだろう?

 あと、この落下傘も……こんなものでどうやって戦うんだ?」


「ん?……ああ、空戦さ」


「……は?」





それから、更に一週間程経った時、正しく、ようやく。

秘密結社ヘブンの船"アンカルジュ"が空を超えてやって来た。


その中、飛行船の中とは思えないほどの豪華な円卓上に、仕立ての良い背広を着た男たちが優雅に談笑をしていた。


「快適な空の旅……と申しましても、些か寒いですなぁ。

 おい、もっと高度は下げられないのか、どうせ、奴らは撃ち落とせられるものなんてないだろう?」


「こ、これが最低高度だと機長が申しています」


「よろしいではないですか、下をごらんなさい。

 ビザンツ帝国が燃えています、恐らく、敗戦の責任の擦り付け合いからの内戦でしょうな」


「ふん……出しゃばったのが悪い。

 ワインを持ってこい。高みの見物と行こうではないか」


が、その前に、備え付けの受話器が鳴った。


「これは……トリスタン王国からのものです、軍事無線帯かと」


「あちらからか、中々、目が良いじゃないか。

 ごきげんよう、名を名乗りたまえ」




<……トリスタン王国が君主、シルヴィア・ウィン・トリスタンです>




「これは、これは……麗しの虐殺姫からのお電話、ありがたいものですな。

 どうした、降参かね?


 無理もないし、案外懸命だな。

 世界各国の重鎮とつながる我々ヘブンに恐れをなすのは……」




<いつまで寝ぼけていらっしゃるのですか、もう日は登っていますよ。

 随分と臆病で、早口ですこと……慌てなくても大丈夫ですよ。

 私の答えはノーです。あなた方が突きつける全てに対し、ノーを突きつけます。


 当然でしょう? 顔も見せに来ない無礼者と、女王である私が対等なわけがない>



「……随分と無学な小娘だ。

 一度ばかり戦争に勝ったからと言って……。


 戦争はもう戦場で起こっていないのだよ。

 勝敗も、戦後処理も……全ては我らの会議室で我々が決めるのだ。


 だから、我々はあえて手を出さない、じっくりと国が滅びていく様子に絶望するがいい……」





<そうですか、そこが戦場ですか>




ヘブンの彼らは気づいていない、空は彼らのものだけでは無いのだ。

雲の中、彼らの船の真上には、もう一つ別の船が浮かんでいた。




「おっとっと……ふぅ……ジーク君、今、ちょうど間上だよ」


「お見事、エリーは要領が良いなぁ」


<ジークさん、戦場は空の上にあるそうですよ?

 そこから見えますか?>


「ああ、よく見える。

 上じゃない下だな……これは。


 せっかくお越しいただいたんだ。

 デリバリーの時間だ」


そんなことを呟き、ジークは下へと……彼らの船へとダイブした。



https://ncode.syosetu.com/n8327mb/

作品タイトル</帝国威厳維持局『C機関』>

別サイトで新作を書いたのですが、まるで読んでもらえませんでした。 どなたか見て頂けませんか?

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