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何処の国も

「へぇー、本当に王女様なんだぁ!」

「ええ、小さな国で、頼りない王女ですが……」

「ううん、そんなことないよ! 凄いよ!」


 トリスタン王国の若き王女シルヴィア・ウィン・トリスタンは、ジークの馬車の荷台でエリーと談笑を楽しんでいた。

 ようやく生命の危機から脱したシルヴィアは、目の前の少しばかり年上のエリーと会話する余裕が出来た。

 身分的な差をまるで感じさせないフレンドリーな喋り方――本来王族すれば、無礼ではあるが、シルヴィアはそういった会話を楽しんでいた。


 と、同時に、彼女は何故だか寒気を感じていた。


 どう戦っていたのか、それは見えなかったし、聞こえなかったが、このさすらいの者たちはあの追っ手をたった二人で倒してしまった。

 その二人が自分を助けてくれているというのに……まだ、自分の生命の危機が去ったわけではない。そんな気がするのだ。

 そんな筈がないと、首を横に振り、声を上げた。

「あれが我がトリスタン王国の関所です! ようこそ我が王国へ!」


 ◇


「王国か……凄く懐かしいねー」

「とはいえ……王政が時代遅れとはいえ、これが王国ねぇ……」


 ジーク達は城の応接間的なところに通された。

 好き勝手に喋っているが、執事もメイドも数名程度、城を護る兵士も十人いたかどうかだった。

 ジーク達をもてなせるのは、誰もいなかったようで、シルヴィア本人が急いで茶を入れると、少し待っていてほしいと慌ただしく出ていった。

 国の長だというのに、やたらとぺこぺこしている感じだった。

 城自体も、ところどころ電気が通っていなく、その辺の億万長者が趣味で建てるような城の方が百倍は立派だ。


「……で、ジーク君、実際のところどうなの?

 今からこの国で何が起きるの?」

「なんとなく、予想がつくだろう?

 お前も見ただろう、王女様への国民の歓迎の様子をさ」

「……ちょっと可哀そうだったね」

「そうか?」


 門番は王女様が帰って来たというのに、敬礼もせずに、あろうことか睨みつけてさえいた。

 国民達も同様に、遠目から睨みつけるように。

 シルヴィアは自分でも気が付いていなかっただろうが、自身の震える手でエリーの左手をがっしりと握っていた。

 だから、てっきりジークは国民は困窮し、シルヴィアを恨んでいるものだと思っていたのだが……餓死寸前の者は見えなかったし、もっと言えば、殆どが良い健康状態に見えた。

 街並みも賑やかではないが、質素だが、決して荒廃はしていなかった。

 こう言ってはかなり失礼だろうが、物語で見るような一昔前の町並みで、ジークはちょっと心が躍った。

 この金のかからなそうな慎ましやかなお城といい、決して裕福とは言えないが、この規模の小国であれば上手くやりくりできている国だと言えるだろう。


 それでは何故、恨みを持たれているのか。

 気になったジークはシルヴィアに追っ手の正体を調べてみると適当なことを言い、彼女の目的であっただろう外交文章に勝手に目を通していた。

 あのいたいけな少女が余程外交が下手なのかと疑ったジークだが、書類を見て思わず感心する。

 この国よりも大きな周辺国との安全保障条約だった。

 安全保障云々を差し引いても相手国からの要求は横暴で不平等極まりないものだった。

 しかし、シルヴィアの交渉の末に不平等ではあるが、まぁ両国間の国力を考えれば、妥当な落としどころだろうと言えるものにはなった。

 中々やるようだ。

 それでも、国民は不満を持つ。


「成程……大体わかったよ」

「どうだった?」

「何処の国も、何処のどいつも、俺も、お前も、自分勝手で欲張りだってことだ」

「は?私違うよ」


 いや、それだけではない。

 まだ何かある筈、もっと大きな火種が……。

 ジークは書類に穴が開くほど目を通した。


 ◇


「えっ……?

  国民への演説の時に、護衛をしてほしい?」

「その……助けておいてもらって、何度もお願いするのは心苦しいのですが……」

「殿下、なんだろう? その辺でのさぼっている兵士連中は?」

「殿下はおやめください、私なんて……。いえ、彼らは、そのやりたくないと。あの、その、違うんです! ジークさん達に押し付けるわけでは無くて……良かったらなんですけど……」


 最も忠義を誓うべき兵が命令拒否?

 しかも、なんだこの低姿勢の王女様は?

 ジークは思わず鼻で笑ってしまいそうになるが、ぎりぎりで堪え快諾する。


「もちろん。

 ここまで来たんだ。ついででいい」

「……本当ですか!?

 では、今から一時間後なんですが、後ろの方で座っているだけで大丈夫です」


 一転、救いの神が降りて来たとばかりに顔を輝かせた彼女は大まかな流れを説明し、準備させて頂きますと応接間から消えていった。


「なんか、女王(クイーン)……王女(プリンセス)様だっけ? どっちにしても、偉い人感が全然ないね。誰もやりたがらず、廃れちゃうわけだ」

「なろうと思ってなれるものじゃないぞ」


 城の外に国民達が集まっているらしい。

 外からは早く出て来い、どうなったのか説明をしろ、税率を下げろ、売国奴……等々の王女の登場を待ちきれない国民の罵声が聞こえる。

 彼らの憤りは限界を迎えているようだ。



「とりあえず……

 作戦待機、状況C、赤だ。復唱しろ」

「状況C、赤……暴徒制圧任務、殺傷兵器使用許可。

 ジーク君、なんだか楽しそうだね」

「それはそうだろう。久しぶりの虐殺が出来そうだからな、楽しみだ。

 さて……シルヴィア・ウィン・トリスタン殿下はどちらに転がるかな?」

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